中学二、三年生
中学二、三年生
二年になりクラス替えがあった。ここでさくらと一年振りのクラスメートになる。でもこのとき国民的漫画家になるとはだれ一人も思わず、彼女にべたつくのはいない。そもそもさくらももこは目立たない子だったし、美人でもかわいくもない梅干しばあさん顔で、男子に人気はなかった。一緒なクラスでも同じ班にはなったことはなく、そんな会話しをしていなかったのが事実だ。アニメは目立っているが、本音はおとなしい女子だった。
クラスが変わったせいか、お調子者のぼくは目をつけられたときがあった。それはサッカー部のSが突然『おまえしゃらくせーよ』といわれた。
中学くらいになると、女子はおしゃれになり色気づくし、男子はカッコつける者もいる。
そのSからケンカまではいかないが、言葉で攻められた。
ぼくは初め意味がわからなかったが、そのときは生意気なやつと判断されたのかもしれない。それからというものの、お調子者を控えた。だがSはおとなしくなったぼくに近づき出す。なぜ来るのかと思ったが、威張ったことを反省したのかもしれない。
それからたまに遊ぶようになった。この中学二年時代は、そんなことが別のクラスのあちらこちらでもあった。クラスのリーダー格が生意気なやつを絞める。これは単なるいじめだろうが、後々仲よくなっている光景を見た。つまり最初からリーダー格の下にいるやつは生意気でもいじめない。下ではない生意気と判断したやつを絞めることになる。そして下となる。こんな具合だ。
これはくだらなく間違っている。
これでは伸び伸びする中学生活とは行かないので、ぼくの後半は堅苦しいことをとり除くようにした。それはニモネニという友人が出来たからだ。
坊主頭は同じだ。丸い顔に大きい目、高い鼻で女子に持てそうでもある。聞いてみたら持てないといっていた。小四のとき理科委員会で一緒になり、フラスコやビーカーの洗い方を二人でたどたどしくステージで説明したことがあった。全校生徒は千五百人いたので、とても緊張しながらマイク握っていた。
野球部の彼とはワタのようにゲームセンターは当たり前。勉強も似た者同士だ。ぼくがブラバンの練習中、野球部の彼はグラウンドを走り回っている。運動が得意というわけではないが、野球が好きといっていた。
お互い部活を終え、夕飯を食べ終わった八時ころから遊んでいた。
ワタのように一歩先を経験している彼は、ゲーム喫茶に行こうという。ゲーム喫茶はコーヒーを頼まないとならなくお金が掛かる。奢るからというのでついて行ってみた。喫茶店に入るとインベーダーゲームがテーブル代わりだ。
そのときニモネニは『ウインナーコーヒー』を頼んだ。
「コーヒーにウインナーが入っているのか?」
ぼくはコーヒーカップに赤いウインナーが入るのを浮かべ、どう考えてもまずそうだ。
「違う、クリームがたくさん入っている。それがウインナーコーヒーだ。頼んでみるといい」
そういわれ、ぼくもそれにした。待つ間はテーブルのインベーダーゲームを二人でやる。弾を二十二回撃ち、二十三発目にUFOを打てば三百点の加算だ。そんな感じでインベーダーを撃っていると、渦を巻いた生クリームのカップがテーブルへ載った。コーヒーが見えないではないか。コーヒーフロートなら透明で見える。その温かいバージョンだった。
「これはすごいな。うまそうだ」
といい、飲もうとするとニモネニがやられたので、ぼくの番だった。そんな感じで夜は十一時頃まで遊んだ。
彼はフランケン覆面を購入し、自転車で乗り回しごっこを一緒にやったりした。それは面白かった。目線がマスクの陰になり電柱やシャッターにぶつかったからだ。それにその辺の人たちが突然現れたので驚く。それを交代でやった。いまでは警察へ通報されるだろう。
宣教師のような外人二人と肝試しもやった。
まずお墓で外人にろうそくを持たせる。ぼくは赤い絵の具をワイシャツにつけ、その辺の道ばたに転がった。ニモネニは釣りざおにコンニャクをつけ、墓の陰からコンニャクをほおのそばに。
でもまったく外人は怖がらなかった。もっと凝らないとダメだったかもしれない。
中学三年のときは、中一時代の友人ではなかったが、稲取の親せきの家に泊まったりもした。行くときはニモネニの義父であるおじさんの車で向かった。タクシー運転手だったので、そのタクシーで稲取まで行った。無料だったが、ずいぶん優雅に感じた。
このとき海沿いを走ると、河口の海の波が高く、あそこで波とたわむれて遊べば面白そうだと思った。これが後々、サーフィンをやる場所となった。
ニモネニもサッカー部のSに生意気といわれたことがあるらしい。
気にしない彼は立ち向かった。そして三年ではSを支配下に置いていた。
三年の修学旅行のとき同じ班となった。その班行動のしおりを作っているときに事件が起こった。
ニモネニと横でふざけていると、花輪のモデルが彼へ手紙を渡すではないか。ちなみに花輪のモデルは女子だ。
それはラブレターだった。ぼくはやはり持てるなと思っていると、その場で読まないのに破った。これには花輪もショックを隠しきれずに、その場で泣いてしまった。そしてよりそった友人と席へ戻った。
ぼくはここでおかしい点に気づいた。なぜしおりを作っているときに渡すのか。それが花輪の失敗と思う。その場ではぼくも見ているのだ。
もっと放課後やだれもいないときがいいだろう。花輪は正直いえばヘイベイビーとは無縁の体型だ。ニモネニも『あいつとはつきあうわけない』とぼくにいった。でも、もしつきあったならばいろいろ女の花輪から奢ってもらえそうだ。
修学旅行は定番の京都と奈良である。新幹線で探偵ゲームをニモネニが買ったので女子も入れてやった。それは楽しかった。いつも男子二、三人でやっていて、女子も入れるとまた違う心情が見えた。
最後に犯人はお前だ、というゲームで、よくぼくが犯人になっていた。
そして旅行中、ぼくはやはり犯人みたいな者だった。
なぜなら班行動のとき、バスへサイフを忘れてしまい、ニモネニとバスの終点まで向かった。するとあったのでよかった。全財産が入っており、お土産を買えなくなるからだ。その間、シカのいる奈良公園で女子と一人の男子を待たせてしまい、時間がなくなり寺院の見学をカットしないとならなかった。女子からは散々ブーブーいわれていた。友だちのニモネニがついて来てくれた。ぼくは冷や汗をかきながらだったし、そんなとき彼がジュースを奢ってくれてバスのなかで喉を潤せた。
ここまで中学三年のニモネニだった。
二〇一五年、二月に彼は突然亡くなった。それは誕生日の翌日に。朝昼はしっかりしていたが、夕方から調子わるく、そのまま寝るように亡くなったようだ。
ここ一年半は会っていなかった。それはぼくが越したこともあったが、少し彼を避けていたのもある。それは近年一緒に飲むと言動がおかしくなることだった。酒乱ではないがなんとなく寂しがり、言葉がわるくなっていた。そうかと思えば『おれは結婚出来ないんじゃないか』と、そんなこともつぶやいていた。
数年前に彼女と別れこともあり、身体にむりな飲み方をしていたのかもしれない。
でもぼくも人のことはいえなかった。ニモネニともっと遊んでいればよかったと、あとから後悔をしている。
そんな彼と遊んだことや酒を一緒に飲んだことが浮かんでくる。
書き忘れたが中三のとき、電車とバスを乗り継いで静波海岸まで泳ぎに行ったこと。
一緒の高校になり、母たちと入学式に行ったこと。
高校を辞めてバイクを乗り回すニモネニは、夜中に何度も爆音で来たのは迷惑でたまらなかったこと。
ぼくは通信高校へ通っているとき、体育祭のときには一人で応援に来てワインをラッパ飲みしていたこと。
自転車で飲みに行った帰り、二人で何度もぶつかりけがをしたこと。
飲み屋で女性をナンパすると、ニモネニだけ成功すること。
夜中、彼の部屋でベースとギターを演奏して母に怒られたこと。
ニモネニと酒を飲んだあと、車に乗ってしまい彼が酒気帯び運転で捕まったこと。
ぼくの車で競輪場に行き、飲みながら遊んで車で帰る。これから港祭りと浮かれていたとき、電柱にぶつけてぼくも酒気帯び運転で捕まったこと。
たった二人でバーベキューをやったことなど。
まだまだあるが、彼との思い出はたくさんあり、なぜ死んでしまったのかと、一人で飲みながらよく思っている。ぼくも血圧は高く肝臓もわるいだろうし、長生きはしないだろう。天国に行けたら彼とたらふく飲むつもりだ。待っててくれ。
中一、二年はかろうじて読書感想文は書いた。中三時代の夏休みの宿題にもそれはある。感想文は県大会を落ちてからの開始だった。本は図書館に行けば何万冊もあるし書店もそうだ。それなら勝手に作者と物語の内容を考えて感想文を書いてしまえば楽だろうと、先生にばれないだろうとそう思った。
ぼくは犬が好きだからキーワードを考えた。拾った犬、少年、超能力、トラック、身代わり、犬が死ぬ、とこんなのが浮かんだ。そしてあらすじを考える。
『学校帰りのある日、家の近くの公園を通る健太は、記念碑の裏にダンボールを見つける。そのなかにかわいらしい一匹の子犬がいた。母と父を説得し飼うことになる。健太はコロと名づけ日々一緒に公園で遊ぶ。ある日はボールが公園の外に飛び出した。健太は車道から飛び出すと勢いよく走るトラックに足を接触して骨折する。入院するはずだったその日、玄関にいるコロへ別れを伝えたとき、コロが金色をした。すると健太の足がみるみると回復した。これには驚きコロを抱きしめる。おじいちゃんが数日で死ぬといわれたとき、健太はコロを連れて行く。おじいちゃんにコロを見せると金色に輝いた。でも正常に戻ると息を切らしているコロ。そして一気に病から回復したおじいちゃんは、その後退院をした。ある日、公園でコロと野球ボールで遊んでいた。このころのコロはボールを投げても走らなくなっていた。公園の外へ出て行ったので走ってとりに行くと、また自動車にぶつかりそうになった。でもコロが走って健太をはねつけ、金色に輝きながら自動車にひかれてしまった。コロは超能力を使い果たして死んでしまったことに悲しむ健太だった』と、こんな内容にした。
そして作者は『斉藤杉作』と、いかにも作家らしい名にして題名は『苦しかった黄金の犬』
これはわずか半日で書けた。
そして提出から数日たっても担任はなにもいってこないので、成功したようだ。高校もそうしようと思ったら、読書感想文の本が決まっていて残念だった。