セコイ男
静岡市清水区がとんでもない目に遭いました。
洪水と断水。
どんな状態化を読んでみてください。ゴミ置き場を利用する人もいる。それはやめてくれって。
ではどうぞ。
☆
静岡市清水が大雨の被害を受けた。結論からいうと洪水と断水だった。洪水で床上浸水や車の水没があり、まったく被害のない住宅もあった。川の周りに被害が多いのがわかった。断水となり各学校に給水車がある。被災者の長い列だった。
断水は早いところで五日から飲み水が出た。山間部の遅いところは九日間断水で長かった。
自分は駿河区なので大雨はわかる。翌日はどのくらいの水位なのかと安部川を見に行った。増水はしているが氾濫はしそうな水位ではない。ネットニュースでは、清水の被害がひどいと何度か見ていた。翌日行くと、洪水被害を目の当たりにした。ゴミ出し場には住宅からの布団や畳、自転車などが山のように積んであった。
床上浸水の住宅は掃除に負われている。だが水が出ない。巴川沿いの住宅の玄関前で工具の整理をしているおじさんに聞いた。
「掃除のところすいません。巴川はどれくらい出たのですか?」
七十は越す白髪のおじさんへ聞く。
「そうだな腰位はあったな」
と、その場で立ち上がり腰に手を当てた。玄関は地面から階段があり三十センチは高い。地面からでは一メートルほどの浸水ではないか。
ぼくが小学三年生時代の七夕豪雨が起きた。あの時は河川整備がそれほどされてなく、大雨は何時間も降り、とうとう巴川は大氾濫した。その教訓として今では放水路や雨水対策も出来ている。それでも水害は起きてしまったのだ。
テレビや洗濯機、冷蔵庫までゴミになっていた。どうも大雨と冠水、それに満潮が重なったようだ。
おじさんに再度聞く。
「水は出ないようで……」
片づけないとならないのに気の毒だった。
「昨日の昼からちょろちょろとしか出ないよ」
午前中はすんなりと出たが、徐々に水が細くなったらしい。今では少しでるという。まったく出ないわけではなかった。ではなぜ断水なのかを調べると、浄水場の取水口に多くの瓦礫が重なりへばりついている様子だ。ヘリコプターからの撮影をネットニュースで見た。なぜさっさと取らないのか。どうも増水でうまく行かず、作業員が手作業で取っているらしい。
翌日、取水口へ走った。
そこまで行くに庵原川も氾濫し、まさかの興津川も氾濫していた。浄水場の真横で住民に話しを聞く。
「すいません、この辺りの水は少し出ますか?」
七十代の日焼けをした男性は、突然話しかけられ怪げんした表情だった。
「いや、まったく出ないよ」
「街中は、ちょろちょろ出るようです。それもないですか?」
「まったく出ない……」
浄水場がすぐそこにあるのに。どうも飲み水は浄水場から各地域の配水池に送られ、そこから各家庭の水道水となるようだ。
これでは格差がある断水と思い、興津川を北へ走った。
川沿いに田畑があったところは水害となり、道に木が倒れている。それに流木も散乱している。今まで興津川の氾濫など聞いたことがない。それで浄水場取水口も流木や瓦礫で埋まってしまったのだろう。
浄水場の川沿いをだいぶ走ると行き止まりになった。これでは取水口に行けないではないか。行き止まりのレーンは低く、越すとぎりぎりに川沿いへ出られる。そこは川を見渡すことが出来る。斜め右にネットニュースで見た取水口があるではないか。距離にすると百メートルくらいか。あれだと思い、よく見ると、だいぶ流木や瓦礫が取れている。手作業なのにいい方に向かっていそうだった。
その翌日、自衛隊が入り昼夜作業をしてくれた。するとわずか一日できれいに取れたことをニュースで見た。さすがだ。もっと早ければよかった。
取水口に興津川の水が吸い込まれている。そして断水家庭にまず工業用水を流してトイレや風呂などの生活用水にし、その翌日には飲み水が流れた。一気に清水に行きわたらず、地域ごとに飲み水が届いて行った。浄水場がある地区は、最も遅く、その地域の方は給水場まで何度も足を運んだことだろう。
そんな中、サーフィンを教えたりしたHさんが洗濯機を設置したというメールが来た。水害になったかを聞くと、断水だけという。
この時期に洗濯機が壊れたのも不自然。洗濯機は以前、人にもらった物があり、それを設置したようだった。
そのいらない洗濯機を水害の振りをし、ゴミ置き場に無料で捨てられる。セコイ人なのでそういう考えかとわかった。
そのことをHさんに伝えると、『郵便局でリサイクル料を払い……』どうのこうのと、セコイ彼がまっとうなことをいい出す。
嘘。なぜなら水害のゴミ置き場には冷蔵庫、洗濯機、テレビなどリサイクル料が取られる家電があるからだ。洗濯機を設置し、いらなくなった物をそこへ捨てる。なぜ自分に『そうだよ、今ならリサイクル料を払わなくて捨てられるから』と自分へいえばいいのに嘘をいうのか。
このHさんから、野菜、柿、みかんなどをもらった時があった。見た目でいいものではないが、もらって、と何度もいうからもらった。だがすぐに腐ってしまう。どうも今すぐ食べないと腐る、という感があるようだ。それでちょうどぼくと会うので渡せばいい。そのことを自分は気づいた。ついこないだも、ししとうをもらった。それを翌日の夜食べようとしたら腐っていた。ため息が出た。またかと。
Hさんへサーフィンを教えた。着替えているときなど辺りを見渡している。とても目がいい。
「あれ、タンクあるじゃん」
サーファーが忘れたシャワー代わりのタンクだった。
「あとで取りに来るから」
と彼に向けると、残念がった表情をする。ぼくは長年サーフィンをしたので事情を知っている。あとで取りに来ることを。
ぼくがいなければ置き引きをするだろう。知り合った頃、車内にあるサーフメーカーのサンダルがあった。まだセコイことを知らないので、これ買ったの、と聞いたら『うん』という。しかも履かずにとってある。今では嘘とわかる。一人で行く時は、相当な置き引きをしただろうな。
牛丼店のすき家の朝定食も高くて食べないらしい。当時二百円。
ほんとお金を使いたくない男。リサイクルショップで五十円のサンダルをいつも履いている。いつ置き引きしたサーフメーカーのサンダルを履くのだろうか。
まだある。
同僚に鉄道を撮影するカメラマンがいるようだ。そのカメラマンを何度も海に連れて行き、自身のライディングを撮影させる。当たり前だが、その写真代などは払うようだ。その写真は何枚もあって、自身がいいと思うのは、引き伸ばし額縁へ入れ部屋へ何枚も飾ってあるらしい。それを見て満足気になるという。
ぼくは写真を撮ってもらったことはある。だがそこまでしようと思いつかない。ついこないだ『はまちゃん、これどう?』と車内から、額縁に入った写真を見せつけられた。『こうして飾ってあるんだー』としかいわなかった。
まだあるのだが、思い出すのがだんだんと億劫になってきた。とにかくセコイのはどうしようもない。ただ嘘はやめてほしい。過去に嘘だとわかることを何度も聞かされた。その度、嫌悪感を抱いた。
この人のことはあくまでも予想なので、なぜこの時期に洗濯機を設置したと思った。
過去のことからして、捨てに行くだろうと。
だが断られたかもしれない。受付は水害の地区を知るはず。そうなると、たぶん写真付きで正式な処分をしたと送ってきそうだった。