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自伝から中古ワープロと物語

 以前エッセイを書いたことがある。それは自分の出生からの生い立ちを手書きで原稿用紙に書き出した。それは三十三歳ころ自ずと書いた。

 当時、二トントラックの仕事をし、そのあい間にも思い出し書いていた。それは通信高校の経緯もあり苦ではなかった。

 初めて書いた長編作文。およそ二百八十枚書き、それは八ヶ月に渡った。いまから考えればずいぶんと遅い。パソコンで打てば一週間くらいかもしれない。

 エッセイは出版社からの依頼ではなく、僕が勝手に書いている。なぜなら……。

 二十代前半は四トントラックで中距離配送をしていた。特に静岡県全域から長野、関東方面に配送。腰痛と戦いながらハンドルを握っていた。驚くことは、高速サービスエリアで仮眠していると、ドアをたたく音。なんだと思えば、赤いワンピースにワンレングスの女が立っていた。かたことの日本語で『お兄さん、どう?』と、指を二本立てる。当時はこんなことがよくあり、十六歳の歌舞伎町を思い起こした。

 自宅へ帰れば焼酎を飲む。飲みすぎで自宅のトイレへ倒れて便器に腰を打った。義父の介護で布団で寝た。

 翌日、腰が激痛する。仕事は急では休めない。担当トラックも決まっていて、県内配送が待っていた。腰をかばいながらなんとか配送をした。途中ハンドルへ何度も身を伏せた。

あまりの痛さに整形外科へ行くと即入院。頚椎なんとかなんとかで突起が二本骨折という。

 会社へ連絡し様子を伝えた。とても困った様子だが仕方ない。景気がいいころなのに余分な運転手はいなかった。静岡、長野、関東の客先(問屋)を知る僕は重宝のようだった。

最初は道を間違えては何度もつらかったが、それがバネとなり、一人前のドライバーとなる。

 そして入院生活はなかなか面白かったりする。

 退院後、重宝のわりに首となった。それは入院中ほぼ連絡しなかったからだ。当時この意味がわからなかった。退職金はたしか二十六万。

 そして図書館に通うことになり、UFOの本に夢中となった。そして陰謀本、ドキュメンタリー、事件、オカルト、人生訓、小説を読みあさっていた。自分も本出せたらいいな、と思ってもいた。これが切っ掛けだ。

 三十代に始めたバンドも終わると、エッセイを書きたくなった。ぼくはツタヤでよく立ち読みをする。手に取った『公募ガイド』を見ていると目を見開いた。それはこう書かれていた。『あなたも出版しませんか』と。よく読むとお金を払えば本を出せることが書いてある。

「よし、書くぞー」

 と目標を持ち原稿用紙を何枚も買った。そして手書きで書き出す。

 すべて書き終わり、公募ガイドに載っていたひとつの出版社へ的を絞った。なぜならそこは出版費用が書いてあった。

 そして送った。しばらく連絡はない。そして二週間後の夜に電話が鳴った。

『……あの、原稿を読みました。あなたは、はまじさんですね」

 四十くらいの声は笑っている。

「はい、そういうことですべて書いて送りました」

 赤裸々に書いたつもり。

『一応出版するには条件があります。こっちとしてはぜひ出版したいのですが、もう一度書き直ししてもらえませんか? 文の直しがあって、それとさくさももこさんに絵の依頼です。それにはのりたさんが手紙を出してほしいのですが…』

 そういうことは出版社がするはずと疑問が出る。

「なぜぼくがするのですか?」

『いえ、はまじさんのほうが同級生だし、まして漫画のキャラクターですから親近感があると思います』

 すでに著者『のりた』ではなくなった。

「ぼくはまったく会ってないし、連絡もなくて勝手にキャラクターにされたと書いてあるはずです」

『そこをなんとかお願いできませんか?』

「手紙なんて出したくないです。それにまた書くなんて……」

 当時は強気で、サクラが勝手にキャラを使っているわけだし、彼女への逆襲としか考えていなかった。それは『実際のちびまるこちゃん』とプールで脱走など自伝を書いた作文だった。

「とりあえず、そんなところです。こちらも考えてみますので」

 一回目の電話はあと味がわるく切った。絵などいらないし、手紙も出したくない。それに再度手書きもごめんだった。ほかの出版社にすればよかったのか、と思い込んだりもした。

 二回目の電話はそれから二、三日たったころ。

『サクラプロをいろいろ調べたのですが、住所がどこにも載ってないです。これでは、はまじさんが同級生をたどって調べてほしいのですが……』

 こんな内容が二回目だった。

 サクラは事務所くらいタウンページへ載せとけと思った。まったくガードが固い。

 以前、サクラがNHKに出演したらしい。友人に聞くと顔をぼかして出演していたらしい。そこまでやる女だ。見ているほうはつまんなかっただろうな。マンガのまるこを比較したいのだから。正直マンガのキャラと顔はまったく似ていない。あんなかわいらしさはまったくない。梅干しのようなおばあさんの顔だ。梅干を食べると口をとがらせるようにすっぱい顔になる。それがサクラで、梅干し、と連呼したこともあった。ただし性格は似ている。

「あー、嫌なことになるな」

 と思っていた。お金を出すのになぜ嫌なことを、それも何年も会っていない梅干しにお願いをして絵をもらうのか、と。胸がつっかえ、晴々しない心境がもんもんと続いた。

 再度電話で進んでいるか聞いてきた。こっちはなにも進まなかった。やる気を失ったことを伝えた。

「やめます……」

『なぜですか、もうこっちは進んでいる状況です』

「手紙出すなど、そっちの仕事でしょう。どう考えても」

『そうですが、こちらはまったくわからないのです。あなたしか出来ないことなのです』

 そう念を押された。

「なぜ住所をどこにも出さないで、漫画をテレビでやっていけるんですかね」

『いろいろ考えて営業していると思います』

 どこの会社も住所を隠してやっている企業はないだろう。なんだかんだと僕を説得していた。

 それから二、三日たち、僕は梅干しと仲がよかったアニメにもたまに出るニンジンに電話をしてみた。ちなみに一〇年前に同窓会を開催していて、住所録をもらったので電話番号を知っている。梅干しのところは空欄になっていた。職業もだ。仕事は漫画家だろうと。

 久々のニンジンは変わりみなしの声。白々しく普段の話しをして、実は……と切り出した。ニンジンは住所と電話番号知っていたが、何年も電話していないから引っ越しているかもしれないという。とりあえず礼をいい受話器を置いた。

梅干しの事務所の住所をゲットしたのはいいが、ここからが嫌な作業だ。書くか書かないかは、気分で決めることにした。

 日々がたてば、やがて手紙の内容をハンドルを握りながら考えた。

『拝啓、梅干し様 だれかわかるか。おれだー』なんて。こんなことをつぶやいたりする。

 こんな内容ではダメである。ここは紳士でいかないとならない。そう出版社もいう。わかっているが、同級生の女子に手紙など僕の実際のキャラではなかった。

「いっちょ書いてみるか」

 と、ようやく車へキーを挿した。だがエンジンはまだ掛けない。

内容はというと、

『拝啓 梅干し様(ここは本名)のりたです。いつもテレビでアニメを見ています。(たまに)映画も見に行ったのです。なぜこのような手紙を送ったかというと、本を出版することとなりました。それで表紙に『はまじ』の絵をほしいこととなりました。それでまず手紙でお願いをします。そしてなぜ僕が本を出すかというと、自費出版で出せるところがありました。まず審査をして、内容からそれでは出しましょう、となりました。条件が表紙の絵と挿し絵の許可です。もしよろしければ僕へお電話を下さい。しかし、梅干しはすごいなー。大物になったな』と最後にこんなことを書いて、まず出版社へ内容を見たいらしいので送った。ここでエンジンが掛かったわけだ。

本を出すにはこんな大変なのか、とも感じていた。

 それから二週間ほどたち、梅干しから二十三時ころ電話があった。初めだれだと思えば、梅干しの声。

『もしもし、はまじ、久しぶりだね。元気だった?』

 ちょうど友だちとサッカー観戦に行き帰ったときだった。

「えっ、サクラ、サクラ、サクラか……」

 と連呼していた。

『そうだよ、あんたたいしたもんだね、本を出すとは』

「そんなことないさ、そっちがすごい」

『だってはまじが本だよ、だれが聞いても驚くよ』

「そうかな、それよりタウンページに事務所の住所載せとけよ。ちょー苦労して探した。といっても、ニンジンに聞いたけどな」

『そうだってね、かよちゃん元気だった?』

 なぜニンジンかというと、顔が二等辺三角形のように長く、ニンジンのようだから。これもアニメと違った。

「元気どころか、なんだかんだとうるさかった」

『そう、友だちと会ってる?』

「おお、きょうサッカー一緒に行ってきた、タコハチと」

 タコハチとは一緒にバンドをやったメンバー。

『へー。で、どうすればいい?』

「まず表紙の絵をほしいけど、いいか?」

『いいよ、いままで連絡しなくてごめんね』

 ここで初めて漫画のキャラのことを謝った。

「いいって、じゃ、書いてある住所に送ってきてよ。それと挿し絵もいいか?」

 梅干しはうなずいた。

「ありがとう、助かった」

『じゃ、はまじも元気でね』

「サクラもな」

 といい、電話を切った。ほかにもいろいろ話したが二十分ほどだった。

 翌日、許可が出たことを出版社に伝えると声を弾ませていた。

「これで出発地点です。お互いがんばりましょう」

 と、つらいやりとりが始まった。でもこれが今につながった。

 しまいには物語を書いてしまうのだ。

 初めての編集者とのやりとりは大変だったけれど、いまでは勉強になった。そして『僕、はまじ』を出版した。



 その後、書き残しもあった。なぜかあのときの編集とのやりとりが面白かったりする。

 ある日ブックオフの二階をうろうろと中古品を見ていたら、ワープロがたくさんあった。

 そういえば編集者が『ワープロ覚えれば書くの楽だよ』といっていた。

 僕が字のキーを覚えられるのか。でも楽譜もキーボードもベースもドラムも独学で覚えた。やれるだろう、と思って二千円のワープロを買った。

 自宅でいじるとチンプンカンプン。幸い説明書かついていたので、徐々にキーを打つ。

その日、たった四行打つに四時間掛かった。今では一分くらいだろう。

 そして打つことをローマ字とカナがあるので、ひらがなで覚えることにした。

 本当はローマ字のほうがよかったと後から感じた。

 その後、二冊目の出版を徳間書店から出せた。『はまじと九人のクラスメート』だ。

取材の形でニンジンや花輪、丸尾などのモデルを取材し、ワープロに打ち印字したのだった。

 この二冊目は取材が主なので、さくら以外の各モデルの旧友に会わないとならない。なぜさくらは会えなかったのかというと、出版社が会って取材しろといわなかったからだ。

自分としては会ってどういう生活しているかを聞きたかった。深い核心部分も聞きたいのもあった。

 そして男子の花屋の徳ちゃん、丸尾はすんなりと取材は出来た。ただ、プー太郎は事情で会えなかった。問題は女子。簡単そうなのから攻めてみた。まずニンジンだ。テープレコーダー持参で休日に近くの公園で取材をした。図書館で借りたり、ブックオフで立ち読み本を読んでくれればわかるけれど、結果は犬があっちこっち逃げ回り、捕まえるのが苦労した。真夏の炎天下だったのもある。

 続いて病院経営の花輪だ。テレビでは男であるが女である。噂では〇×眼科医院の息子ではないかと耳に入っていた。そのころ架空にしたのかもしれないと思っていた。でも違った。小学時代ではなく、中学時代の同級生の女子とエッセイを読んで知った。

 取材は気さくな彼女だったのもあり、とんとん拍子で笑顔もあって終わった。

問題は穂波たまえだ。海外にいると耳に入っているし、同取材をするか。いろいろ考えて、実家から送ってもらうのがいいのかもしれない。ただ電話番号もわからない。こうなればと電話帳で『穂波』を調べすべて掛けてみることにした。

 すると三件目でヒットした。こんな具合だ。

「……あの、そちらは穂波たまえさんの自宅になりますでしょうか?」

 と丁重に話し始めた。

『……ええ、そうですけど。なにか?』

 それは若々しい声。まさかたまちゃん?

「あの、浜崎のりたかというものです。あの『はまじ』のモデルの」

 というと、

『ああ、はいはい、はまじですかー』

 と、ここで笑ってくれた。いたずら電話などの疑惑がなくなったのかもしれない。

「それでてすね、たまえさんと連絡をとりたいのですが、海外に嫁いだと聞きまして、失礼ですが、もしかするとたまえさんですか?」

 小学時代の声に似ていた。

『いえ、わたし姉です』

「そうでしたか、とても似ている声で、たまえさんかなと思ってしまいました。すいません」

『いえ、いいですよ。それでどうするの?』

「あっ、実はですね、質問の紙と手紙を書きましたので、そちらへ届けていいでしょうか?」

 一か八かだ。

『んー、どうしよう、もらってたまえに渡せばいいのね』

「はい、まったく変な者ではありません」

『わかりました』

「ありがとうございます。それでいまから行ってもいいですか?」

『んー、まあいいですよ』

 といわれ、住所を聞いて自転車に飛び乗った。手ぶらではわるく思い、途中に和菓子屋さんがあるので、ようかんを買った。

 そして十五分後に着くと、犬が何度も吠えている。それは檻に入ったドーベルマンだった。吠えられているなか、まわりを見渡すと姉が庭にいた。それはたまちゃんにそっくりだった。双子とは聞いてなかったが、目がくりくりとし、おかっぱでちょっと太めだ。たまちゃん自体アニメとは似ていなく、メガネを掛けていなかった。

「あの、さっき電話した浜崎です」

 と、恐縮した。

「はいはい、はまじさんね」

 と笑っていた。これは好感触か。

「すいません、お忙しいなかむりをいいまして」

「いや、いいですよ。さっき買い物に出ようと玄関にいたときの電話でしたの」

「ああ、すいませんでした。それでは買い物に行ってないわけですから、急ぎます」

 と自転車をブロック塀にとめて庭へ入ろうとすると、犬の吠えが増す。

「そっち行きますから」

 と来てくれた。

「あの、これ迷惑だったので……」

 とようかんを差し出す。そして手紙と質問用紙を手渡した。

「夏休みにたまえと子供は帰ってくるんですよ、だからちょうどよかったね」

「そうだったんですか、それでは運がよかったのかな」

「そうだね、電話もちょうど掛かってきたし、たまえも帰ってくるから運がよかったよ」

「ハハハ……」

 と、ぼくも頭をかきながら笑い出す。

「でも書いてくれるかな?」

「ああ、書いてくれなくてもいいです。ぼくが選定したのはたまえさんですから。でもとても重要なかたですので、よろしければと伝えてください」

「一応伝えますね」

「ではよろしくお願いします」

 会社の面接より深く頭を下げた。

 結果、質問状は書いてくれなかった。後々電話で話しを聞くと、あまりアニメによりそいたくないようだ。それならむりなことで、重要人物をあきらめた。

 その質問状もワープロで打った。

 その後、ワープロで物語を書いていく。それは『公園犬パーク』を執筆中、白黒画面に縦線が入った。初めは一本、二本と少なかったが、数日後には何本も入って画面が読みにくくなる。また中古買うつもりでハードオフへ下見に行った。

そのとき、ちょうど教師になった元飲み屋のマスターが『ノートパソコンもらったけど、欲しい?』とメールが来た。ぼくは即答で『ちょー下さい。ワープロが壊れそうだから』と。人生とは波に乗っているとき、うまい具合に事が運ぶのだなーと。

 そしてパソコンのワードも自力で書きながら覚えた。でもボタンがたくさんあり、深くはわからなかったりする。

 ちなみにワープロのとき、物語を一作消してしまった。これがもう一度書いた『公園犬パーク』。パソコンのワードも戻るボタンを押せばいいのに、一作消してしまった。それは『運のいい新聞配達員』というタイトルで二度と書かなかった。そのときなぜか書く気にはならなく、運がいいとはいえなかった。

 これらが試行錯誤してワープロ、パソコンの物語デビューに至った。丸尾のモデルにも何度とメールで聞いたのでお世話になっていたのだ。今後も生きて行く限り物語を書いていくつもり。


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