【何も考えたくないあなたに捧ぐ3分で読み終わる発狂小説】上司がエビに見えたのでコケコッコーしたら最後に養豚場の鶏だった
なんとなく暇だったので、会社の外で車を眺めていた。
正面から見ると、ヘッドライトが目に見える。
グリルが口に見える。
つまり、顔だ。
「ああ、なるほど」
私は妙に納得した。
車は顔だった。
いや、顔が車なのかもしれない。
どっちでもいいかと思いながら、昼休憩が終わったので会社に戻った。
席に着いた瞬間、上司がキレた。
「お前さっきから何してたんだ!」
私は顔を上げた。
上司の顔を見た。
車だった。
ライトが光っている。
口が開閉している。
「……なるほど」
もう一度見た。
今度はエビだった。
寿司の上に乗っている、あのエビだ。
ぴくぴくしている。
「お前聞いてんのか!」
エビが怒鳴った。
いや、車かもしれない。
もうよくわからない。
どうでもよくなったので、私は鳴いた。
「コケコッコー」
静寂。
上司が止まった。
周囲の社員も固まった。
私はもう一度鳴いた。
「コケコッコー」
上司がゆっくりと口を開いた。
「……お前、頭おかしいのか?」
正論だった。
だがそのとき、何かが起きた。
上司が、小さく咳払いをした。
そして、
「……コケコッコー」
と言った。
うまかった。
異様にうまかった。
私は驚いた。
上司も驚いていた。
「……これ、ちょっと気持ちいいな」
そう言って、もう一度鳴いた。
「コケコッコー」
私も鳴いた。
「コケコッコー」
そのとき、別の上司がオフィスに戻ってきた。
手には親子丼。
鶏肉と卵。
完璧な構成だった。
私と上司は顔を見合わせた。
そして同時に理解した。
やるしかない。
「コケコッコー!!!!」
「コケコッコー!!!!」
オフィスが震えた。
コピー機が揺れた。
誰かが泣いた。
なぜか羽が舞い始めた。
白い羽。
どこから来たのかわからない羽。
気づけば床一面、羽だらけだった。
「……燃やすか」
誰かが言った。
たぶん私だった。
ライターで火をつけた。
羽は一瞬で燃え広がった。
白い煙。
焦げた匂い。
その光景を見て、私は突然、悲しくなった。
理由はわからない。
ただ、涙が止まらなかった。
気づけば、私は泣いていた。
大声で泣いていた。
止まらなかった。
どうしてこんなに悲しいのか、わからなかった。
でも、わかっている気もした。
そういえば。
私は人間じゃなかった。
養豚場で飼われている鶏だった。
なぜ豚の場所にいるのかはわからない。
でも、ここが現実だった。
遠くで、誰かが言った。
「コケコッコー」
私はゆっくりと顔を上げた。
トラックのヘッドライトが光っている。
あれは顔だ。
間違いない。




