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フィラデルフィアの夜に 友情

作者: 羽田恭

 フィラデルフィアの夜に、針金が作り出されていきます。


 夕方。

大雨だった昼が嘘のように晴れ渡り、人々は帰途に就き、家の中へと入っていきます。

明るく、温かい中で昼間の疲れを癒し、家族との時間を過ごしていきます。

 すると、動き出す。

ひとりでに。

動き出す。

 街中の、帰り道の、家の中にいる全ての人々の手が。

動き出す。

右手が。若しくは左手が。最悪、両手が。

動き出す。動き続ける。

 意思を、思考を、認識を、意識を超えて。

混乱と衝撃と困惑でも、止められずに。


 白い、糸状の何かが指に絡まりだす。

それが、不随意に絡め、結び、盛り上げ、何かを形成し始める。


 ← FRIEND HLPE


 さらに手は、勝手に作り続ける。

細い、か細い針金が。

手を、小さい人の手を。

袖を引くように。

ひとつ、作り上げたのです。


 みんな、異様に思うばかり。もしくは手を振り払い、何も思わず立ち去っていく。

それでも少数の幾人かは矢印の方向に歩み、走り、急ぐ。

か細い針金の矢印に従い、少しずつ少しずつ人々は困惑と共に合流する。

暗くなってきた夜、その中でも特に暗い夜へと入っていく。

 その夜の中でもまた、人は合流する。

か細い針金の手に引かれ。不安を押し殺し。

かすかな針金の矢印に導かれて。か細い針金の手に引かれて。


 HERE


 そんな文字が光った。

真っ暗な闇夜に。

電灯を持つ者たちが、周囲を照らす。

 また、何かが光る。


 何かが光っている。

手持ちの光をその一点に集めた。

骨が見える。人骨がある。動く。人骨が。

人骨の手首から先、それが両方、動いている。

動き出す。動き続ける。

蜘蛛の巣の様なか細い針金がいつの間にか生成されて、緻密な細工が作り続けて。

 いくつも。たくさんの。数多くの。

針金の細工が作り続けられていく。


 どれほど時間が経っただろう。

その手の骨は動きを止めました。

また再び、周囲を照らします。

そこには汚れ切った、泥や緑に覆われたか細い針金が無数にあったのです。

大雨で泥に溺れている、助けを求めていると思しき作品ばかりでした。

多くの作品群が、その漆黒の闇の中、産まれ出るかのように発掘されていきます。

 時に奇抜に。

時にやさしく。

そんな形状の針金たちは、感謝するかのように続々とこの世に再び出始めました。


 気が付くと、ここに集った人々の袖を引いたか細い手が、いなくなっていました。

ただ、さっきまでなかった祈るような針金でできた人の姿がそこにいました。

 

 朝になり、その場に導かれた人々に付き添われ、警官と美術館の職員がその場を改めて発掘していきます。

誰が作ったのかわからない、情熱がこもった作品群を。


 人骨は両手しか見つからず埋葬され、作品は美術館が納めます。

この不可思議な話は、作品群はこの世に広がっていくでしょう。

 人々の手首はまた一人でに動いたと言います。


 THANK


 と作って。


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