文豪パロディシリーズ『セリヌンティウスの独白』
文豪インスパイア。オマージュ。リスペクト。
「信じる心」? 「美しい友情」?
笑わせる。
あの日から僕はうまく笑えなくなった。たった三日間かもしれない。でも僕にとっては地獄のように長い三日間だった。地獄を見る前にはもう戻れない。
前々からあいつの強引さには少々辟易していたのだが。どちらかと言うと気弱な僕は、メロスのそのアグレッシブさに憧れていたのも事実だ。そう、見抜けなかった僕も悪い。
だが確信した。あいつは狂人だ。「正義感」もあそこまでくると暴力でしかない。
―――ちょっと失礼。薬の時間だ。
僕の病名。PTSD(心的外傷後ストレス障害)。
あの三日間、僕は人質として幽閉されていた。「セリヌンティウス」という名もわりと知られているけど、メロスからしたら誰でもよかったのだろう。己の我が通るなら誰でも。シス◯ンめ。
読者の皆さん。おかしいとは思いませんか?
「親友」だから走ったんです。約束を守らなければあとあと面倒ですからね。人質が赤の他人だったらあいつ、100%バックレてますから。保身ですよ。ちなみに妹は去年離婚したそうです。
ヴヴヴ⋯。
あ、彼女からラインだ。ちょっと失礼⋯ははっ。⋯ああ、メロスに赤い布渡した女の子いたでしょ。僕あの子にあのあと告白されて。それからずっと支えてくれてます。すごくいい子なんですけど、さすがに布を渡したときは「見るに耐えなかったから⋯。」と顔をしかめてましたね。彼女も被害者ですよ。トラウマ。
今はメロスと?もちろん距離を置いてますよ。あれだけ鈍感だと殺意すら湧くというか。でもああいう輩には何言っても通じないので。こちらが疲弊するばかりですから。毎回「忙しい」と言って断ってるんですけどね⋯鈍感なのもあながち悪くないのかもしれません。「忙しい」と信じきってくれるので(笑)。僕休職してますけどね。
相変わらず走ってるみたいです。バカってよく走るよね。
「せいぜい、走れ、メロス。」(笑)
なんだかちょっとすっきりました。お陰で今夜は眠れそうな気がします。
セリヌンティウスでした!
© 1940 太宰治