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瀬本ゆい

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 ディアーリマ芸能プロダクションで、本社に待機する身分。


 一気に昇格した川奈野(かわなの)まどかは、他の一軍から白い目で見られていた……。


 この芸能プロは見目麗しい女子が多く、それだけに派閥がある。


 同期の仲良しグループ、売れっ子の取り巻きと自分の身を守りつつも、仕事の紹介や業界の情報――あの人に関われば、いきなり部屋に連れ込まれるとか――を共有しているのだ。


 ライバル同士で、仲が悪い。

 しかし、群れなければ、弱い立場のアイドルなんぞ、一瞬で食い散らかされる。


 派閥の中にも、色々な人間関係だが――


「いいよねー? 他人の威光で、仕事をもらえる人は?」

「ホント……」

「社長のお気に入りでいいなら、私だって立候補したいよ!」


 聞えよがしの嫌味。


 女子のやり口としては、初歩の初歩だ。



 本社のエントランス。

 高級感あふれるロビーで待つ『まどか』は、ソファーに座ったまま、必死に耐えていた。


 今回の取引相手は控室で待つわけにもいかず、やむなく出てきた。

 とたんに、笑顔で挨拶する女子たちが、さっそく攻撃。


 出る杭を叩く、という意味もあるが、それ以上に嫉妬している。


 本人の力で伸し上がったなら、ここまで動かない。

 腹の中はともかく、表面上、にこやかに接するだろう。


 だが――


室矢(むろや)槇島(まきしま)のおかげで、お前は寄生しているだけじゃん……」


 この愚痴が全て。

 彼女たちは、『川奈野まどか』を認めていない。


 偉いさんへの枕営業だろうが、自分でやったのなら、まだ認められたが……。



「おはようございまーす!」

「お疲れ様です」


 広い出入口が、騒がしくなった。


 スーツを着た大人がへりくだった雰囲気で、取り巻く。


 その中心にいるのは――


 緑がかった青の瞳。

 グラデーションになっているボブで、赤みを抑えたブラウンの髪。


 女子高生ながらも大人のお姉さんという、少女っぽい雰囲気を残した、絶妙なバランス。


 ディアプロの看板である、瀬本(せもと)ゆいだ。


 キラキラと輝くような、オーラ。

 いるだけで思わず注目してしまう、絶対的な存在。


 芸能界にいるべきで、それ以外では生きられない。


「瀬本さん。お弁当と、いつものスイーツを用意していますので!」

「ありがとう」


「次の予定が決まり次第、お伝えします!」

「お願いします」


 これだけチヤホヤされても、自然体だ。


 エントランスにいた全員――受付嬢などは除く――が立ち上がり、ゆいのほうを見ている。


 ピタッと立ち止まった『ゆい』は、周囲を眺める。


「……どうかしましたか?」


 心配した取り巻きが、おずおずと訊ねた。


 しかし、ゆいは返事をせず。



 ツカツカと『川奈野まどか』のところまで、歩み寄った。


 そのまま、ジーッと見つめる。



 我に返った『まどか』が、頭を下げた。


「おおお、おはようございます!」


 笑顔の『ゆい』はよく通る声で、返事をする。


「はい、おはよう……。あなた、見かけない顔ね?」


 まどかは慌てて、説明する。


「えっと……。新しく、室矢さんと槇島さんの3人でプリムラというユニットを組みまして……」


「ああ! (うわさ)の室矢さんの……。頑張りなさいね?」


「ハ、ハイッ! ありがとうございます!」


 緊張したままペコペコする『まどか』に対して、『ゆい』は向きを変え、歩き出す。


 次に立ち止まったのは、聞えよがしに嫌味を言っていたグループの席。


「お、おはようございます!」

「お疲れ様です……」


 条件反射で、頭を下げる女子たち。


 いっぽう、ゆいは『まどか』のほうをチラ見した後で、一言だけ告げる。


「そういうのは、好きじゃないの」


 絶句したままの女子グループに、話を続ける。


「私も、嫌味の1つや2つは言うわよ? だけど……」


 ――あまり良い気分にならないわ


 全身から汗を流した女子グループが、一斉に謝る。


「す、すみません!」

「あの……そういうつもりじゃなくて」

「申し訳ありません!」


「いいのよ? 向上心があるのなら、あなた達はさらに上へ行けるわ! 私が保証してあげる♪」


 その笑顔と声に、最前線で輝いているアイドルたちが引き込まれた。


「は、はい……」

「分かりました」

「ごめんなさい……」


「分かれば、よろしい! さあ、もっと輝くために頑張りなさい?」


 その言葉を聞いたアイドルの集団が、いそいそと去っていった。


 海千山千の大人たちを相手にして、カメラを通し、全国の人間に見られることに慣れているはずの彼女たちが……。


 彼女たちの目つきは、まるで信奉する存在を見ているかのよう。


 トローンとした視線で、魅入られたまま、彼女の言葉を受け入れた。

 この僅かな時間で、彼女たちは瀬本ゆいのファンになったのだ。


 『瀬本ゆい』が恐ろしいのは、女子中高生にも絶大な人気を誇っている点。


 流行のオピニオンリーダー。

 彼女が言えば、皆がそれに(なら)う。


 水着までのイメージビデオは、本番ありの動画よりも大きな反響。

 脱がずに、男どもを果てさせた。


 あまりの影響力で、そのイメージビデオは発禁の扱いに……。


 彼女は、芸能界にいなければならない。

 適切に管理しなければ、クラス、学年、その学校中を意のままに操るだろう。


 まさしく、『室矢』にふさわしい本物。



 ――専用の控室


「ごゆっくり、お休みください!」

「ありがとう」


 バタンと、ドアが閉じられた。


 スマホを見ている瀬本ゆいは、ポツリと(つぶや)く。


「川奈野まどか……」


 両手持ちのまま、指を動かす。


 彼女が通う公立高校を探し当て、別のリストから1つの名前をタップ。


 プルルルル ガチャッ


『ハ、ハイッ!』


 女子高生の声だ。


「私よ? 1つ、お願いしたいことが――」



『が、頑張りますっ!』


「無理はしないでね? あなたのことが心配なの」


 息を呑んだ相手は、意気込んで答える。


『いえ! 瀬本さんのお役に立てるのなら! 失礼します!』


 ブツッ ツーツーツー


 スマホを置いた『ゆい』は俯いたまま、笑い出す。


「フフ……」


 おかしくて、たまらない。


 そう言わんばかりの『ゆい』は、しばし、1人だけの時間を楽しんだ。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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