瀬本ゆい
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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ディアーリマ芸能プロダクションで、本社に待機する身分。
一気に昇格した川奈野まどかは、他の一軍から白い目で見られていた……。
この芸能プロは見目麗しい女子が多く、それだけに派閥がある。
同期の仲良しグループ、売れっ子の取り巻きと自分の身を守りつつも、仕事の紹介や業界の情報――あの人に関われば、いきなり部屋に連れ込まれるとか――を共有しているのだ。
ライバル同士で、仲が悪い。
しかし、群れなければ、弱い立場のアイドルなんぞ、一瞬で食い散らかされる。
派閥の中にも、色々な人間関係だが――
「いいよねー? 他人の威光で、仕事をもらえる人は?」
「ホント……」
「社長のお気に入りでいいなら、私だって立候補したいよ!」
聞えよがしの嫌味。
女子のやり口としては、初歩の初歩だ。
本社のエントランス。
高級感あふれるロビーで待つ『まどか』は、ソファーに座ったまま、必死に耐えていた。
今回の取引相手は控室で待つわけにもいかず、やむなく出てきた。
とたんに、笑顔で挨拶する女子たちが、さっそく攻撃。
出る杭を叩く、という意味もあるが、それ以上に嫉妬している。
本人の力で伸し上がったなら、ここまで動かない。
腹の中はともかく、表面上、にこやかに接するだろう。
だが――
「室矢と槇島のおかげで、お前は寄生しているだけじゃん……」
この愚痴が全て。
彼女たちは、『川奈野まどか』を認めていない。
偉いさんへの枕営業だろうが、自分でやったのなら、まだ認められたが……。
「おはようございまーす!」
「お疲れ様です」
広い出入口が、騒がしくなった。
スーツを着た大人がへりくだった雰囲気で、取り巻く。
その中心にいるのは――
緑がかった青の瞳。
グラデーションになっているボブで、赤みを抑えたブラウンの髪。
女子高生ながらも大人のお姉さんという、少女っぽい雰囲気を残した、絶妙なバランス。
ディアプロの看板である、瀬本ゆいだ。
キラキラと輝くような、オーラ。
いるだけで思わず注目してしまう、絶対的な存在。
芸能界にいるべきで、それ以外では生きられない。
「瀬本さん。お弁当と、いつものスイーツを用意していますので!」
「ありがとう」
「次の予定が決まり次第、お伝えします!」
「お願いします」
これだけチヤホヤされても、自然体だ。
エントランスにいた全員――受付嬢などは除く――が立ち上がり、ゆいのほうを見ている。
ピタッと立ち止まった『ゆい』は、周囲を眺める。
「……どうかしましたか?」
心配した取り巻きが、おずおずと訊ねた。
しかし、ゆいは返事をせず。
ツカツカと『川奈野まどか』のところまで、歩み寄った。
そのまま、ジーッと見つめる。
我に返った『まどか』が、頭を下げた。
「おおお、おはようございます!」
笑顔の『ゆい』はよく通る声で、返事をする。
「はい、おはよう……。あなた、見かけない顔ね?」
まどかは慌てて、説明する。
「えっと……。新しく、室矢さんと槇島さんの3人でプリムラというユニットを組みまして……」
「ああ! 噂の室矢さんの……。頑張りなさいね?」
「ハ、ハイッ! ありがとうございます!」
緊張したままペコペコする『まどか』に対して、『ゆい』は向きを変え、歩き出す。
次に立ち止まったのは、聞えよがしに嫌味を言っていたグループの席。
「お、おはようございます!」
「お疲れ様です……」
条件反射で、頭を下げる女子たち。
いっぽう、ゆいは『まどか』のほうをチラ見した後で、一言だけ告げる。
「そういうのは、好きじゃないの」
絶句したままの女子グループに、話を続ける。
「私も、嫌味の1つや2つは言うわよ? だけど……」
――あまり良い気分にならないわ
全身から汗を流した女子グループが、一斉に謝る。
「す、すみません!」
「あの……そういうつもりじゃなくて」
「申し訳ありません!」
「いいのよ? 向上心があるのなら、あなた達はさらに上へ行けるわ! 私が保証してあげる♪」
その笑顔と声に、最前線で輝いているアイドルたちが引き込まれた。
「は、はい……」
「分かりました」
「ごめんなさい……」
「分かれば、よろしい! さあ、もっと輝くために頑張りなさい?」
その言葉を聞いたアイドルの集団が、いそいそと去っていった。
海千山千の大人たちを相手にして、カメラを通し、全国の人間に見られることに慣れているはずの彼女たちが……。
彼女たちの目つきは、まるで信奉する存在を見ているかのよう。
トローンとした視線で、魅入られたまま、彼女の言葉を受け入れた。
この僅かな時間で、彼女たちは瀬本ゆいのファンになったのだ。
『瀬本ゆい』が恐ろしいのは、女子中高生にも絶大な人気を誇っている点。
流行のオピニオンリーダー。
彼女が言えば、皆がそれに倣う。
水着までのイメージビデオは、本番ありの動画よりも大きな反響。
脱がずに、男どもを果てさせた。
あまりの影響力で、そのイメージビデオは発禁の扱いに……。
彼女は、芸能界にいなければならない。
適切に管理しなければ、クラス、学年、その学校中を意のままに操るだろう。
まさしく、『室矢』にふさわしい本物。
――専用の控室
「ごゆっくり、お休みください!」
「ありがとう」
バタンと、ドアが閉じられた。
スマホを見ている瀬本ゆいは、ポツリと呟く。
「川奈野まどか……」
両手持ちのまま、指を動かす。
彼女が通う公立高校を探し当て、別のリストから1つの名前をタップ。
プルルルル ガチャッ
『ハ、ハイッ!』
女子高生の声だ。
「私よ? 1つ、お願いしたいことが――」
『が、頑張りますっ!』
「無理はしないでね? あなたのことが心配なの」
息を呑んだ相手は、意気込んで答える。
『いえ! 瀬本さんのお役に立てるのなら! 失礼します!』
ブツッ ツーツーツー
スマホを置いた『ゆい』は俯いたまま、笑い出す。
「フフ……」
おかしくて、たまらない。
そう言わんばかりの『ゆい』は、しばし、1人だけの時間を楽しんだ。
過去作は、こちらです!
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