生まれ持った才能の差
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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「カーット! ちょっと、たんま!」
プロデューサーの叫びで、スタジオの収録はピタリと止まった。
愉快な衣装でバックダンサーをしていた室矢カレナ、槇島皐月の2人も……。
「えーと……。室矢ちゃんと、槇島ちゃん! 別の人に代わってもらえるかな? 急いで!」
舞台衣装のまま待機していた川奈野まどかは、慌てて立ち上がった。
他のアイドルと一緒に、バックダンサーを務める。
続行された収録は、あっさりと終わった。
「はい、お疲れさーん!」
祭りの後のような雰囲気の、収録スタジオ。
視聴者から見えない部分には大型カメラとそのケーブルなど、機材やボックスが無造作に置かれている。
忙しそうに歩き回り、物を移動させているスタッフとは別で、隅の椅子に座ったままのカレナと皐月。
「お疲れ様でーす!」
笑顔で挨拶する『まどか』は、せっかくのユニットで自分だけ仕事をしたことに罪悪感を覚えた。
「気にする必要はありませんよ?」
「そうそう! まどかが出られて、良かった」
控室で声をかけたら、逆に気を遣われることに……。
まどかは私服へ着替えた後で、プロデューサーと、3人のマネージャーである若い女、水口が内廊下で話している光景を目撃。
そっと、聞き耳を立てた。
「だからさあ! そこを何とか、ならない? あの2人は、使い物にならないんだよ!? 水口さん。お願いだから……」
興奮したプロデューサーは、大声だ。
いっぽう、マネージャーの水口は、弱り果てた感じ。
「ですから……。プリムラは3人のユニットで、受けられるのはバラエティーぐらいになっておりまして……」
「今のご時世でキスシーンどころか、男子との共演もNGって、どうなの!?」
「申し訳ございません……」
それを聞いた『まどか』は、せっかくのユニットでカレナと皐月がハブられていることを知り、複雑な感情が込み上げてくるも――
「あの2人、主演を食っちゃうんだよ! でも、あれだけの逸材に、『演技を抑えろ!』とは言いたくないの! 分かる? だから、室矢ちゃん、槇島ちゃんは、2人か、それぞれでドラマとかに出したいなーって……。恋愛の方面にしたほうが、絶対に売れる!」
あれ?
流れが変わったことで、まどかは冷や汗をかいた。
「ちょうど、ねじ込めそうな企画があるのに……。いっぺん、話してくれない? もう1人は、いないほうが良いと思うよ? あの子も頑張っているのは、分かるけどさ……。正直なところ、次元が違う」
プロデューサーの口説き文句に、水口は社長の方針ですからの一点張りで、平謝り。
「どうか、あの3人でお願いいたします」
「ん……。分かった! 社長に、俺の意見を伝えておいてね?」
私が要らない子で、実は真逆だった……。
呆然とした『まどか』は、フラフラと歩き去った。
内廊下のベンチに座り、スマホで、いつもチャットしている相手に愚痴る。
すると、返信。
:酷いねー! その2人、潰しておく?
物騒な返事をしたコクリコに、すぐ否定する。
彼女たちは、売れない自分と組んでくれたうえ、仕事をさせてくれたと。
:まどかが、そう言うのなら、いいんだけどさ……
◇
『この名刀は、室矢家の初代当主である室矢重遠さんが使っていたそうで! プリムラの1人で、同じ室矢であるカレナさん? 見覚えはありますか?』
明るい司会の声で、席に座っている本人が微笑んだまま、答える。
『そうですね……。彼が刀を使っていたのは、事実です。懐かしい……』
見たこともない、という返事をマイルドに。
だが、司会はそのニュアンスを無視して、脚本の通りに進める。
『室矢さんのお墨付きも出たところで! 専門家の方々に値段を出していただきましょう!』
ドラムロールの後で、デジタル数字が並んでいく。
『1,000万円! これは、すごい!!』
有名な鑑定士が訳知り顔で、説明を始める。
『はい……。彼は、異能者として――』
控室へ戻った、3人。
苦笑いの皐月が、カレナに言う。
「よく、キレなかったね?」
「私も、有象無象にぶちまけたりはしませんよっと!」
カレナは言いながらも、小上がりの座布団をつかみ、壁へ放り投げた。
腹が立っているらしい。
恐る恐る、まどかが訊ねる。
「やっぱり……偽物?」
「まあね……」
「刀は美術品で、ぶつければ折れて曲がり、刃が欠けます」
説明したカレナは、小上がりの畳に座り込み、用意された和菓子を食べる。
「そもそも、異能者が使う武器は、十分な強化に耐えられる物でなければ――」
コンコンコン
『すいませーん! 挨拶に伺ったんですけど……』
最近は、カレナと皐月の存在感が増しており、現場での扱いが見るからに良くなった。
女子中学生の新人では、あり得ない。
まどかはそう感じながらも、2人のついでに、愛想がいい芸能人から挨拶された。
過去作は、こちらです!
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