枕営業という現実(後編)【まどかside】
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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「この度は、弊社のタレントが失礼いたしました!」
90°の角度で頭を下げた、スーツ男。
片方の腕で、隣に立つ男子――私を気遣ってくれた男子に因縁をつけていた――を小突く。
「す、すいませんっ!」
その男子も、横に倣った。
ここに、私を気遣ってくれた男子の声。
「1つ、聞くけどさ……。何に謝ってんの?」
頭を下げていたスーツ男が、顔を上げた。
「はい! 悠月様へのご無礼をお詫びすると共に、その埋め合わせをご提案したく――」
「要するに、『機嫌をとるから、親には言わないか、ごまかしてくれ!』ということ?」
あけすけな物言い。
この業界にいるだけあって、スーツ男も、ぼかしながら肯定。
「私の口からは、とても……。悠月さまが気に入られる子をご用意いたします! 弊社は男性タレントに強い事務所ですが、系列の女子が多い事務所にも顔が利くので! 悠月さまの接待でしたら有名どころも呼べますし、何人でもOKです! その際に、悠月さまが面倒なことを考える必要はございません」
やっぱり、そういう接待があるんだ……。
私は、悠月くんの様子を窺った。
今いる場所は、ディアーリマ芸能プロダクションの本社にある社長室。
大手の芸能プロだから、とても広く、高級ブランドと思われる家具が並ぶ。
応接セットも置かれていて、私と悠月くん、綾小路社長の3人が座っている。
いっぽう、悠月くんに絡んだ男子と、そのマネージャーらしき男は、横に並んで立ったまま。
私を呼んだマネージャーの関さんは、そもそも関わっていないため、ここで事情を聴かれた後に、すぐ帰された。
そういうわけで、当事者の1人である私は、この聞きたくもない会話に……。
悠月くんはソファーに座ったまま、ため息を吐いた。
「あのさあ……。ウチ、それほど甘くないの! さっきの出来事だって、俺の護衛がずっと見ていたと思うぜ? 今は、親も知っているだろうよ」
スーツ男は、食い下がる。
「悠月様のお力で、そこを何とか――」
「こいつの顔を二度と見たくない! 話は、それだけだ……」
まさかとは思うけど、この男子を引退させろ、という話?
同じことを感じたようで、スーツ男が見るからに焦った。
「ま、待ってください! 彼は、ウチの看板グループの1人でして! ほ、他のことでしたら、可能な限り、ご要望にお応え――」
「悠月家の史堂として、告げる! こいつを俺から見えないようにするか、それとも、ウチと潰し合いをするか、その二択だ」
決定事項だ。
スーツ男は、真っ青に……。
すると、隣の男子が、ポツリと言う。
「親の威光でビビらせて、恥ずかしくねーのかよ?」
ちょうど静かなタイミングで、その声はよく響いた。
全員の注目を浴びた男子は自棄になって、叫び出す。
「お前だって、悪いだろうが!? この子につきまとうストーカーがいる時に、紛らわしい! 暴力を振るわれた俺はこうやって、大人の対応をしているだろ? その犯人のお前は偉そうに、グチグチと――」
「山崎さん……。今の条件で、持ち帰っては? 彼は悠月家の人間として、述べたのですから」
ここにいるべき社長は初めて、口を挟んだ。
綾小路桔梗。
30歳ぐらいの美女だが、低い声で、貫禄もある。
「これ以上は、おたくがウチを巻き込むと判断しますが? 悠月財閥に加えて、我々ムルタ・グループも敵に回すとは、景気がいいことですね」
慌てた山崎は、首を横に振った。
「い、いえ! そちらを巻き込むつもりは、決して! この度は会談をセッティングしていただき、厚く御礼申し上げます。……悠月様。そちらの名刺の番号か、事務所を訪ねていただければ、いつでも歓迎いたしますので! ……お前は来い!」
「ちょっ! 俺の話は、まだ終わって――」
見るからに不服そうな男子は、スーツ男に引きずられるように、社長室から出ていった。
バタンと扉が閉められた後で、対面のソファーに座っている社長は、呟く。
「さようなら、山崎さん……。もう、会うことはないですね」
怖い!
静かに震える私。
ソファーで隣に座っている悠月くんが、疲れた雰囲気で、後ろにもたれた。
「やれやれ……。災難だった……」
対面で社長が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません! 今回のスポンサーとしての出資や、悠月さまの出演に関しては、そちらの条件を呑むという形で、対応いたします」
「俺の一存では、返事をできないけど……。別に、ここの芸能プロは悪くなかったし……。この子が困っていたからね」
悠月くんの返事に、顔を上げた社長は、自分のソファーに座った後で微笑んだ。
「弊社のタレントをお気遣いいただき、恐縮です……。警備体制の見直しで、二度はないと、お約束いたします」
「あー、うん……。今日は疲れた……」
社長は、私をチラリと見た後に、提案する。
「本来の打ち合わせ、ですが……。よろしければ、こちらの川奈野を担当にしましょうか? 先ほど申し上げたように、今回のプロジェクトは弊社の持ち出しで構いません! これ以上、ご心労をおかけしたくないので……」
横に座っている悠月くんが、チラリと見た。
「まあ、いいけどさ?」
んん?
これ、枕営業をしろ! という話?
あ、社長の目力が、すごい……。
過去作は、こちらです!
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