“消滅の夜” の再来
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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室矢カレナが暮らしている、洋風のペンション。
遊びに来た槇島睦月が、裏庭のグリルで焼き上がったチキンを齧りつつ、嘆息した。
「ふーん……。駐在所の一吾郎が危うく、このチキンみたいにバラされかけたんだ? 助かって、何よりだね」
わりと、ドライな感想だった。
「事前にアドバイスがあったにせよ、運のいい人です。桜技流を恨んでいる彼らは裏切りや邪魔を許さないから、助かる見込みは30%でした」
睦月は、テーブルを挟み、椅子に座っているカレナを見る。
その視線に気づいたカレナは両手を下げて、皿に置いた。
「昔に行われた『桜技流の活動停止』は、怪異の実情を知らせつつも警察から離脱するために、有効な手でした。現場の警官がどんどん犠牲になったことを除けば」
「当時の現場にしてみれば、『過去の事情がどうであれ、今は警察官なのだから、自分の仕事をしろ!』が本音だろうね?」
その突っ込みに、カレナは同意する。
「ええ……。当時の桜技流も、『幕末の政変に負けたことで隷属させられ、お前らに命とお金を搾り取られていたんだ。そっちの事情なぞ、知ったことじゃない!』です」
「平行線だね……。目先だけ見れば、桜技流が悪者か」
首肯したカレナは、息を吐いた。
「警察を疑問に思う人は辞めますから。残るのは、桜技流を嫌う人ばかり……。今になって考えれば、当時の筆頭巫女だった咲莉菜はよく暗殺されなかったものです」
「重遠たちを敵に回せば、警察が物理的に消えたよね? 冗談抜きで……」
カレナが、付け加える。
「四大流派に加えて、重遠への借りも増える一方でした……。ともあれ、犠牲になった警官の関係者は桜技流を恨んでいます。同じ立場で手を取り合い、独自のネットワークを築いているでしょう」
「片桐は、やっぱり殺されたの?」
緊張した睦月の声に、カレナは苦笑した。
「興味がないから、見ていません……。私の未来予知は因果の追跡で、万能にあらず! 桜技流の暗殺、アンチ桜技流による粛清、交通事故のどれでも、同じ話ですよ? ……警察の干渉は、当分ないでしょう」
「そっか……。アンチであろうとなかろうと、警察が僕にやることは御神刀の取り上げ! 百雷の完全解放を見せたキャリアが消えたのは、渡りに船だよ」
睦月にしてみれば、大事な御神刀を奪いに来た、憎き敵だ。
片桐の死亡は、どうでもいい。
「そういえば、スティアは?」
「重遠が生まれ変わっていないから、そろそろ帰ると……」
――市街地
最後の観光を楽しんでいたスティアは、警官と刑事に囲まれた。
ドラマのような光景に、野次馬がスマホを向ける。
1人の刑事が、歩み出た。
「スティアさん? USFAの駐在武官であるウォリナーさんが、山奥で見つかった。首を切断された死体で、殺害された可能性が高い。……君を探していたことは、調べがついている! 君が隣の県にある多冶山学園にいたことも、確認済みだ! 署まで、ご同行を願う」
クレープを食べているスティアは、何気なく言う。
「多冶山……多冶山……ああ! そのことね? ウォリナーは知らないけど……」
「詳しい話は、署で伺いますから……。乗ってください」
自供したことで、刑事は柔らかい口調になった。
片手で、開かれたパトカーの後部座席を示す。
「私、もう帰るから……USと言えば、忘れていたわ! ありがとう!」
残ったクレープを一気に食べたスティアは、握った拳に黒い球体を出現させた。
拳が隠れるぐらいだが、周囲の光が捻じ曲げられ、どんどん吸い込まれていく。
地上ではあり得えない音が響き、その一方で、凄まじいジェット噴射や様々な光が踊っている。
これは、ブラックホールだ。
本能的な恐怖を感じた警官が、腰のリボルバーを抜いた。
「う、動くな!」
「待て! 周囲に当たる!!」
制止の声は、間に合わず。
パンッと乾いた破裂音が響けば、他の警官も次々に発砲する。
様々な角度から、弾丸がスティアに殺到するも――
どれも軌道が歪み、彼女の拳にある黒い球体へ吸い込まれた。
周囲が騒然とする中で、スティアは拳のブラックホールを収縮させ続け、消滅させた。
「ふ――っ! 私も、やればできるじゃない!!」
一仕事終えた雰囲気のスティアは、満面の笑みだ。
黒い球体があった手を開いては、閉じる。
「全員、銃を下ろせ! これ以上の抵抗は、罪を重くするだけ――」
周囲の警官に命じた人物が警告するも、スティアの挑発。
「いいわよ? 話を聞いてあげるわ! ついてこられるなら、ねっ!」
言うが早いか、スティアが光の柱に包まれ、上空へ飛び去った。
ロケットの打ち上げのように、ほぼ垂直で……。
その場にいる全員が空を見上げて、スティアの帰還を見送る。
「あの先って、金星じゃね?」
この呟きは、大勢の耳に届いた。
『日本から発射された光はロケットではないと、公式発表がありました! 金星の地表へ飛び込んだことは、観測されたものの――』
警察が捜査に行く予定は、今のところ、ない。
金星を周回している人工衛星に、委託したままだ……。
『本日、USFA司令部が丸ごと消えました! ブラックホールと同じ現象のようです! 北米にある基地が一夜で消滅した、“消滅の夜” の再来で――』
スティアは自分の寝込みを襲った連中に、お礼参りをしたようだ。
指摘してくれた刑事のおかげで、報復を忘れずに、熟睡できる。
おやすみなさい……。
過去作は、こちらです!
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