女神問答
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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高天原にいるであろう、女神の一柱。
天沢咲莉菜。
それも、20歳ぐらいだ。
彼女は巫女服のような衣装で、左腰に刀を差したまま、ステージ上の槇島睦月を見据える。
何をしている? の質問に答えない睦月に、ため息を吐いた。
「ふうっ……。出しなさい!」
咲莉菜はその場に立ったまま、片手を前へ伸ばした。
何かを受け取るように、待つ。
剣道着のような和装の睦月は思わず、左腰から前に出ている柄頭を隠した。
「な、何を――」
「今、そなたが隠した御神刀、百雷のことですよ?」
感情的になった睦月は、すぐに叫ぶ。
「嫌だ! どうして――」
「そなたは、抜くべき時に、抜かなかった!」
誰もが注目している咲莉菜は、冷静に諭す。
「いざという時に銃を抜けないのなら、そもそも、銃を持つべきではありません。同じように、抜刀できない侍にも存在価値はないので……。そなたは、さっきの存在を見ながら、御神刀を解放せず! 重遠が対応しなければ、この一帯は焦土と化したでしょう」
そのセリフに、ざわつき始める群衆。
睦月は自分を見上げている咲莉菜に、向き直った。
「これは……渡さない! 僕が、重遠と生きた証だから!!」
咲莉菜は履いている雪駄を滑らせて、両足を広げる。
ザザッと音が鳴り、上半身は両手で抜刀するべく、動いた。
「言っても分からなければ、実力行使なのでー!」
向かい合う咲莉菜は全盛期の姿で、立派な神格だ。
今の睦月が普通に戦えば、勝ち目なし。
けれど、諦めるという選択肢もない。
「そこまでだ! 2人とも、銃刀法違反と、決闘の現行犯で――」
咲莉菜の傍へ移動していた本庁のキャリアである片桐は、スーツの内ポケットから警察手帳を出して、上下に広げたまま、声を張り上げたが……。
瞬く間で、切っ先を見る羽目に。
右手だけで柄を握っている咲莉菜は初めて、片桐という男を見た。
「そなたは少し、黙っていて欲しいのでー」
相手が可愛らしい女子大生だからか、片桐は止まらない。
「け、警察にこのような態度をとって、タダで済むと思っているのか!? 今なら、罪は軽い! 君たちの御神刀をこちらに渡せ!!」
「若輩なれど、高天原の一柱である私に、よく言えたもの……。分際を弁えろ!」
片手で切っ先を向けたままの咲莉菜は、神威を放った。
波紋のように広がっていく神威により、近い者から次々に膝をつく。
「……ほう?」
一番近い片桐は、ギリギリで耐えていた。
事務仕事がメインの彼には、限界を超えた所業。
咲莉菜は、神威を引っ込めた。
切っ先を下ろし、別の方角を見る。
そちらへ左手を向けながら、ポツリと言う。
「四方鎖縛」
虚空から光る鎖がいくつも飛び出し、山のほうから出現した化け物を縛り上げた。
ドサッと、地に倒れ伏したのは――
一部だけ人の姿を残した、2mほどの怪人だった。
『グアアアァアアッ!』
跪き、上体を前へ折り畳んでいる怪人は、左側へズレすぎた頭部の左半分で呻いた。
よく見れば、頭があるべき部分にも、短い触手の先に目玉が2つほど。
ほぼ全身が、マグマで焼けただれた岩肌と同じ。
筋のように、真っ赤なラインも……。
「五月蠅いのでー!」
口の部分も光る鎖で縛り上げた咲莉菜は、その怪人をしげしげと見た。
「外なる神、スメノースの憑依体? ああ! クトゥーガを召喚した奴らが、しくじったので!」
咲莉菜が指摘した通り、山奥に潜んでいた『深淵を覗く者たち』が魔法陣による召喚儀式を失敗した末路だ。
周囲の気配を探った咲莉菜は、げんなりとする。
「軽く、10体はいるので……」
汗だくの片桐がヨロヨロとしながらも、尋ねる。
「い、今のは……巫術か!?」
対する咲莉菜は、片桐を一瞥したのみ。
睦月のほうを向いて、最後のチャンスを与える。
「やれるので?」
咲莉菜だけで、倒せる。
されど、片桐に調子を狂わされたうえ、新たな乱入者。
少しだけ、気が変わったのだ。
ステージで立ち尽くしていた睦月は、周りの槇島シスターズと下に集まっているギャラリーの視線を浴びたまま、そっと自分の左腰に差している日本刀の柄をなぞった。
まるで、愛撫するように……。
左手で鞘を握った睦月は親指で鍔を押して、鯉口を切った。
上から、開いた右手を添える。
キッと、顔を上げた。
「できるよ! この百雷があれば!!」
右手にダラリと刀を下げている咲莉菜は、笑顔になった。
「では、彼らを斬るのは、そなたです……。発生源のほうは、わたくしが対処します」
言うが早いか、咲莉菜は消えた。
「え?」
「どこへ行ったの?」
周りが驚き、見回したが、どこにもいない……。
今にも倒れそうな片桐は、まだ拘束されている化け物に構わず、ステージ上の睦月を見ている。
その視線をまっすぐ受け止めながら――
「僕の御神刀ね……。そんなに見たければ、見せてあげるよ?」
睦月の右手が柄を握り、ゆっくりと引き抜いた。
普通より短い脇差は、打たれた鋼に特有の冷たい輝きだ。
地上にいる女神の一柱は、いよいよ、百雷を完全解放する。
右手だけでヒュッと振った後に、口上へ。
「満開……」
「百花繚乱・十重二十重」
過去作は、こちらです!
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