深夜の駐在所にて……
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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山奥にいる集団は、異常な雰囲気。
わずかな照明で座っており、遭難しているようにも見えるが――
「奴らは殺されたか……」
「生贄がいなくても、やれる!」
その言葉に、他の者たちが一斉に頷いた。
「我ら『深淵を覗く者たち』は、ここから世界を混乱と破壊に戻す!」
立ち上がり、地面に魔方陣を描き出した。
――30分後
魔法陣から現れた、車の半分ほどの大きさで、燃えている炎の輪。
同じ大きさで3つあり、同じ中心で1つの球体を描くように、それぞれ動き続けている。
「ス、スメノース!?」
「早く、魔法陣に封じ――」
ボオオッと炎の触手を伸ばした外なる神は、あっという間に、魔術師や邪神の教団員を呑み込み、取り込んでいく。
「助け――」
最後の1人を吸収したスメノースは、粘土をこねるように、集団の体を弄り出した。
◇
4人のオタクが暴走した挙句に襲われ、槇島睦月が救出したことを知らない、美須坂駐在所。
そろそろ、深夜に差し掛かる。
玄関にある交番と同じオフィスでは、事務デスクに肘をついて、自分のスマホを弄っている萩原一吾郎がいた。
警察官の制服と装備を身に着けている。
自分1人であることから、ボソッと呟く。
「早く、明日が終わらねえかな……」
事務用の椅子にもたれれば、ギシッと嫌な音。
一吾郎は、応援でやってきた警官のグループを泊めている。
神社のお祭りは明日も続くため、豪華な食事と酒でもてなした。
空き部屋の雑魚寝だが、民宿の代わりに……。
これぐらいの接待をしなければ、逆恨みをされる。
むろん、一吾郎の自腹だ。
駐在の警官は、昼だけの日勤。
けれど、深夜に電話が鳴り、対応してもらった日には、どう思われるやら……。
早めに数時間の仮眠をとり、こうやって、入れ違いの不寝番。
そうすれば、自宅に居座っている応援の奴らの相手も、最小限で済む。
「繁華街がないから、楽といえば楽――」
プルルル
ガチャッ
「はい、美須坂駐在所! 緊急でなければ、明日の対応に――」
『この時間帯にすぐ出るとは、感心なことだな? 本庁の片桐だ』
低い、男の声。
背筋がゾクッとした一吾郎は、座ったままで、背筋を伸ばした。
「お、お疲れ様です! どのような、ご用件で?」
『君は……そうか、今は公務中だったな! 今ネットで、とある動画が注目されている。例の槇島睦月が出演して、御神刀を使ったようだ。真偽はともかく、刃物を振り回していたことは事実のようだから、その現場を押さえつつ任意同行で引っ張れ!』
こんな夜中に、無茶を言うな!
心の中で叫んだ一吾郎は、胃が痛くなる思いで説得する。
「お、お言葉ですが……。ここは、住人同士が監視し合っている町でして……。今の時点で通報がないため、現場は周りに人家がないエリアだと思われます。山と同じで遭難する場所ゆえ、深夜に探しても特定すら難しいです。それに、明日も祭りが予定されており、そのメインイベンターの槇島が拘束されれば……」
『ふむ……。そうだな。今はリスクが高いか……。分かった! 明日の朝から、槇島の動きに注意してくれ! 祭りが終わったら、槇島に同行を願う。……私も行くから、安心したまえ』
言うだけ言った片桐は、電話を切った。
長く息を吐きながら、卓上の固定電話に受話器を置く。
「何なんだ、本当に――」
ギィッ
今度は、正面のドアが開かれた。
コツコツと入ってきたのは、スーツを着た若い男。
優しい雰囲気で、話し出す。
「失礼します……。こちらに駐在の萩原さんは、いらっしゃいますか?」
立ち上がった一吾郎は足早に歩き、来客用のカウンターの椅子に座りながら、肯定する。
「俺ですよー! あ、そこに座ってください! ……どうしました? 紛失か、盗難ですか?」
会釈した後に、座った優男。
彼は、1枚の名刺を取り出した。
“菅原法律事務所 菅原良盛”
緊張した一吾郎は、相手を観察しつつ、尋ねる。
「弁護士の先生が、どういった用件ですか?」
「私は、槇島睦月さんの代理人です。正式に委任を受けました……。ネットでバズっている……ああ、『注目されている』と言うべきですね! その動画で槇島さんが迷惑に感じており、相談に参った次第でして」
一吾郎が恐る恐る、質問。
「槇島さんが、撮影させたんですか? 『御神刀を使った』という噂も出ているようですけど……」
笑みを浮かべたままの良盛は、あえて答えない。
「萩原さん……。世の中には、人間が触れないほうが良い領域もあるのです。先日の多冶山学園は痛ましい事件でした……。話が逸れましたね? 今後の槇島さんへの問い合わせは私が窓口となりますので、ご承知おきください」
良盛は、立ち上がった。
最後に、アドバイスをする。
「槇島さんは、日本の四大流派である千陣流と桜技流の重鎮です。かく言う私も、桜技流の関係者……」
出口へ向かった良盛は、途中で振り返った。
「仮に『御神刀』と呼ばれる物があれば、それは桜技流にとっての神域でしょう。……賢明な判断を期待します」
最後だけ、低い声になった良盛は、今度こそ、駐在所から出ていった。
すぐに、ブロロと車のエンジン音が響き、遠ざかる。
一吾郎は残された名刺を見たまま、ポツリと呟く。
「俺……前世で、何か大罪を犯したのか?」
もはや、どう動いても、誰かを怒らせる。
しかしながら、明日の朝までは、平穏な時間を過ごせるだろう。
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