紫電一閃・乱舞
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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山奥で誰も通りかからない、祭りが終わった夜。
犬のような顔で二足歩行の食屍鬼たちが、涎を垂らしながら走り出す。
蹄のように割れた足は、むき出しでも十分な機動力を発揮した。
グールの晩ごはんとなった、1人のオタク。
彼は小さな悲鳴を上げながら、背を向けて走り出すも、そのスピードはあまりに遅かった……。
残り3人のオタクが思わず、グールたちの進路から退いたのは、責められないことだ。
グールの両手は、刃物と同じカギ爪。
人から変貌することもあり、耐えがたい臭さと異様な肌が目立つものの、立派な神話生物。
サブマシンガンを持つ警察隊ですら、負けたのだ。
『ガアァアッ!』
グールは雄叫びと共に片手を振り上げ、同時に、その先にあるカギ爪も哀れなオタクを切り裂こうと煌めく。
暗闇を走ったせいで、躓いてコケた獲物。
そのまま、振り下ろし――
「紫電一閃……乱舞」
どこからか、女子の声がした。
それを聞いた兵士の一部が、両手でアサルトライフルを構える。
まだ冷静なグールも、きょろきょろと、周りを見た。
地面に倒れ込んだオタクにカギ爪を振り下ろしたグールは、手応えがないことに気づく。
そちらの腕を見れば、肩の近くで切り飛ばされ、切断面から燃えるように消えていく途中だ。
紫の炎は瞬く間に広がり、グールの片腕が地面に落ちる前に、燃やし尽くした。
――切られたのか?
――いつ?
痛みを感じるよりも、困惑するグール。
だが、それを考える時間は与えられなかった。
ズルリと傾き、落ちていく、自身の首……。
片腕と首を切られたグールは、首の切断面から広がった紫炎により、薄紙よりも早く燃え尽きる。
獲物のオタクに迫っていたグールも例外なく、紫炎で滅ぼされた。
小銃を構えていた兵士の1人が、それを成した人影を見つける。
「誰だ!」
遅れて、他の兵士たちも銃口を向けた。
紫色に光る刀身は短く、脇差と呼ばれるもの。
暗闇に溶け込む藍色の小袖と黒袴だけなら、すぐ見つけられなかった。
その人物は白足袋の上から履いた草鞋を地面に滑らせつつ、切っ先の向きを変えた。
小柄だが、その和装からも、紫色の電気がバチバチと放たれている。
茶髪のショートヘアで、毛先が跳ねたまま。
童顔にある琥珀色の瞳は、ジッと敵を見据えている。
「いると思ったんだよね! 多冶山学園の残党が……」
「む、睦月ちゃん!?」
オタクの叫びが、彼女の正体を告げた。
雲が途切れたことで、月光が槇島睦月の姿を照らす。
天装を身に着け、御神刀の百雷を解放した彼女は、昼とは打って変わって神々しい。
地味な色だ。
昼の巫女服のほうが、よほど立派。
しかし、全く違う。
違うのだ……。
その神威にプレッシャーを感じた兵士は、一斉射撃。
「撃――」
「遅いよ……」
地面から出た、無数の光。
その紫電は、かつての室矢重遠と同じで、自身の敵を一瞬で切り裂く。
立っている睦月が広げた反物のように、それは優美だった。
彼女を中心に咲いた、花のよう……。
地面の下に伸ばしていた、紫色に光る反物は、その上にいる敵兵をレーザーのごとく切り刻んだ。
ボトボトと小銃や肉片を落としつつ、まだ生きていた兵士の1人が母国語らしき言葉で何かを言った。
そのまま絶命する。
意味が分からずとも、恐れを感じていることは分かった。
睦月は、ボソリと呟く。
「重遠のほうが、もっと強かったよ?」
「覗き見は、あまり好きじゃないんだよね……」
片手で持つ脇差。
その切っ先を下ろしていた睦月は、おもむろに片足を踏み込みつつ、夜空にヒュッと振り抜く。
その意味が分からないオタク4人を後目に、今度は血振りの風切音を響かせた後で、ゆっくり納刀。
紫の光が消えて、虫の音や鳥の鳴き声が、戻った。
睦月は左腰に刀を差したまま、オタクたちに向き直る。
我に返ったオタク4人は、彼女の傍に駆け寄った。
「た、助かったでゴザル!」
「ひょっとして、それが御神刀? すごいね!」
「こいつら、何だろう?」
「早く、警察を呼ばないと!」
興奮したように叫ぶ、オタクたち。
その様子を眺めた睦月は和装のままで、顔をしかめた。
「ところで――」
「ありがとう! このお礼は、ちゃんとするから!!」
「いきなり押しかけて、悪かったでゴザル!」
「き、如月ちゃんは!?」
ため息を吐いた睦月は、ハンディカメラを構えているオタクを見た。
「あのさ? いい加減に、そのカメラを向けるの、止めてくれない?」
カメラ目線になった睦月を見たオタクは、慌てて『撮影中止』のボタンを押した後に電源を切る。
「ご、ごめん! ……やっぱり、マズかった?」
まともに思考できる状態ではなく、惰性でカメラを向けていた。
しかし、さっきの境内で、忍に脅されたばかり。
他の3人が、記録係を責める。
「ちょっ! それは、シャレにならんでゴザルよ!?」
「僕は反対したんだけど!」
「あの……。こ、今回の映像は消すから、それで何とか――」
ハンディカメラを弄っていたオタクが、悲鳴のような声を上げる。
「うわあぁああっ!?」
泣きそうな表情に、その場の全員が注目した。
カメラを持つオタクは、ガタガタと震えながら、説明する。
「こ、これ……。生配信だった……。ぜ、全部、ネットで中継されていたっぽい」
「は?」
「え、マジ!?」
「待って、待って……」
血の気が引いた4人は、睦月のほうを見た。
過去作は、こちらです!
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