舞い降りた女神
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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グラウンドを横切った春花は背後を気にすることなく、高等部の校舎へ飛び込む。
「うぷっ!」
真っ暗な内廊下は、異常に臭い。
まるで、ずっと掃除されていないトイレのようだ……。
女子は比較的こういった状況に慣れているものの、それですら、キツい。
春花は思わず手で口を塞ぐものの、後ろから追ってくる『ウサギの着ぐるみ』は待ってくれない。
ドタドタと、冗談のような足音が近づいてくる。
警察は別の校舎から撃たれ、撤退中。
それを知らない春花だが、すでに彼らを頼りにする気はない。
ここで彼女は、2つの選択を強いられる。
耐えがたい臭さの校舎で上へ行くか、この1階を通り抜け、別の校舎やこの多冶山学園からの脱出路を探すか……。
いずれにせよ、後ろの『ウサギの着ぐるみ』を撒かなければ、ジ・エンドだ。
「どうして!?」
退魔特務部隊も悩んだ、教室の机や椅子によるバリケード。
今度は、春花の行く手を阻んだ。
その時に――
コツ コツ コツ
トンネル内で聞き覚えのある、革靴の音。
春花は暗がりの中で、開けられたままの教室に身を隠した。
(行った……よね?)
聞き耳を立てていた春花は、ゆっくりと顔を出し――
犬とよく似た顔の男と、目が合った。
「ひっ!?」
とっさに足が動き、暗い教室の中で、反対側の出入口へ向かう。
犬人間も、それを追いかけようと――
『ガアアッ!』
ウサギの着ぐるみが、追いついた。
人の獲物を横取りするな! と言わんばかりに、犬人間へ殴りかかる。
重機が作業をしているような音が、響き渡った。
犬人間 vs ウサギの着ぐるみ
勝手に、戦え!
今にも腰を抜かさんばかりの春花は、必死に両足を動かす。
バリケードから遠ざかるも、犬人間が次々に集まり、1階を走っても逃げ切れないだろう。
仲間と戦っている『ウサギの着ぐるみ』に立ち向かうも、決着がつくか、冷静な奴がいたら、すぐに追いかけられる。
何も知らない春花は、できるだけ見つからないためにも、内階段から上へ。
「はあっ……。はあっ……。せ、先輩たちは、逃げられたのかな?」
息を切らした春花は2階の内廊下に移動して、反対側まで突っ切り、さらに上まで登りった後。
この踊り場から、最上階の内廊下に行き、どうにか連中の隙を見つけて――
下からの追っ手を気にしていた春花は、内廊下の角でばったりと出くわす。
暗がりで、相手のグリーンの瞳がパチパチと、動いた。
思わず、声が出る。
「キャアアァアアッ!」
「きゃあぁああっ!?」
釣られて、正面から向き合っている人物も、可愛らしい悲鳴。
再び逃げ出そうとする春花は、ハッと気づく。
金髪にも見える、山吹色のロング。
背中だけとはいえ、トンネルで見たセーラー服。
シルエットも、ほぼ同じ。
女子中学生ぐらいの背丈で、幼い顔立ち……。
「あ、あなたは――」
『ガァアアッ!』
下からの咆哮。
騒がしい足音から、犬人間のグループは負けたか、いったん退いたようだ。
探していた金髪少女の手を取った春花は、端的に説明する。
「ウサギの着ぐるみに、追われているの! 走って!!」
「え?」
戸惑った金髪少女だが、春花に引っ張られ、走り出す。
しかし、この内廊下にもバリケードがあって、追い詰められた。
「あ……」
疲労困憊の春花は、ついに、へたりこんだ。
前のすり抜けは、不意を突いたから。
きっと、同じ手は通用しないだろう。
不思議そうに春花を見ていた金髪少女は、コツコツと前へ出る。
「ま、待って!」
その背中に話しかけるも、金髪少女は床を凹ませつつ、ウサギの着ぐるみのクロスレンジへ飛び込みつつ、片手の掌底。
派手に吹っ飛んだ着ぐるみと、その感触に納得していない金髪少女。
「ん?」
掌底を繰り出した手を見ながら、ワキワキと動かした。
まるでサンドバッグか、水袋を殴ったような感じだ。
『グゥウウッ!!』
ウサギの着ぐるみは怒ったようで、突進しながらの打ち下ろし。
金髪少女は大振りの攻撃を避けつつ、前へ踏み込みながらの右肘。
ハンマーを当てたような音。
相手の右脇に入ったが、あまり怯まない。
「ああ、そういうこと……。擬態しているのね!」
膝を曲げてからのバックステップで相手の間合いから離れた金髪少女は、革靴の底で制動をかける。
金髪少女はペタリと座ったままの春花の傍で両足を広げて、空手のような構えに。
「フッ!!」
独特の呼吸と共に、中段突き。
その進行方向にいた『ウサギの着ぐるみ』は貫通力がある散弾を食らったように手足がちぎれ飛び、胴体にも無数の穴が開く。
「や、やった!? ……え? え? きゃああああっ!?」
勝利を確信した春花は襟首をつかまれ、金髪少女と一緒に横の教室を通り抜け、その窓から下へ落ちていく。
浮遊感が続いた。
思わず死を覚悟するも、金髪少女が先に着地して、その衝撃を引き受ける。
グラウンドと繋がっているコンクリートは隕石が落ちたように、クレーターを作り出した。
小柄な体のどこに、これだけの力があるのか?
そう考えるだけの余裕もない春花はグラウンドの中央を過ぎた頃に、ようやく解放された。
再び座り込みつつも、尋ねる。
「あ、あなたは?」
金髪少女はセーラー服のまま、毅然と立つ。
その翠眼で春花を見下ろしながら、答える。
「スティアよ……。今は、ただのスティア」
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