地元の女神たちが廃校を知った
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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――県警本部
刑事部長が難しい顔で、会議室の前に置かれた長机にいる。
左右に並ぶのは、この県警を動かしている幹部ばかり。
報告をしている刑事は下座の長机の1つで、立ったまま。
「それで……。隣の県警は多冶山学園の跡地へ乗り込み、退魔特務部隊、つまり新設した機動隊の1個中隊がほぼ全滅です……。詳細は不明で、現場に通じる幹線道路は軒並み閉鎖中。また、現場の映像を撮影しようとしたテレビ局のヘリ2機が突如として爆発! 県警のヘリ1機も同じように、撃墜されました。決死隊が生存者の救助をしたものの、残骸の撤去と死体の回収はできず」
上座のキャリアが、口を開いた。
『ご苦労……。座りたまえ』
ガタタと、パイプ椅子が動いた。
『桜技流のほうは、どうかね?』
「ハッ! 守秘義務により、回答を拒否されました。演舞巫女の部隊が出動する気配はなく、様子見ではないかと……。水面下で隣の県警が交渉している可能性はあります」
『皆に知らせておく! 本庁は隣の県警に任せる方針だ。警視庁の特殊ケース対応専門部隊も、出動する動きはない。……我々と隣接していて、応援要請や廃校から被害が拡大する恐れはある! 異常を発見した場合は、すぐ報告するように!』
「「「ハッ!」」」
特殊ケース対応専門部隊は、真牙流の魔法師によるチーム。
日本警察にいる、唯一の異能者だ。
言い換えれば、警察庁は『隣の県警』を見捨てた。
僻地の廃校のために虎の子を失い、四代流派の1つである真牙流と敵対するのは、まっぴら御免と……。
前に並ぶキャリアの1人が、口を開いた。
『ところで……元市長の氷山花の親子だが? 手掛かりはないのか?』
「ハッ! と、特には……」
別のキャリアは、それに関連した名前を出す。
『室矢カレナ……。彼らが失踪する直前、パーティーに招かれていたそうだが? ……現場にいたのは?』
ガタタと、優男の三原巡査部長が起立した。
「ハッ! 私と数名の刑事、所轄の警官であります!」
『ふむ……。君から見て――』
ピリリリリ
「も、申し訳ありません! すぐに切りま――」
ピッ!
『私が、室矢カレナです……。廃校の事件を解決する気もなければ、アドバイザーの名目で引っ張り出された挙句に面倒を押しつけられる気もありませんので……』
スピーカーモードで、会議室に響き渡った。
問いかけていたキャリアは、すぐに応じる。
『三原(巡査)部長! そのままで、スマホを卓上に置きたまえ! ……君が室矢くんか? 氷山花の親子には、しつこく言い寄られたことで恨みがあるだろう? 以前の事件で、“何も覚えていない” という、ふざけた供述をしたようだが――』
『スローライフを邪魔すれば、そちらを潰しますよ? 言っておきますが、室矢重遠の力となったのは、他ならぬ私です。氷山花の親子がどうなったのか知りたければ、同じく招待された千陣流の南乃隊長と千陣家の姫さまである紬に聞きなさい! 四大流派の1つを敵に回しても良いのなら……ね?』
ブツッ ツーツー
会議室に、沈黙が流れた。
ため息を吐いたキャリアは、両肘をついたまま両手を組み、そこに自分の顎を乗せる。
『三原くん。説明したまえ……』
「ハッ! 私がパーティー会場で室矢と会い、名刺を渡したからです! まだ連絡を取った覚えはありませんが……」
『君からは、連絡していないのだね?』
「はい。その通りです」
『彼女には、多冶山学園を制圧できる力があるのか?』
「不明です。ただ、パーティー会場で一瞬の着替えと屋内の天井でプラネタリウムをしたうえに、刑事1人が構えた拳銃を分解! さらに、先ほど名前が出た千陣流の南乃隊長と親しげに会話する場面を目撃しました!」
『分かった。少し、待ちたまえ……』
上座にいるキャリアたちが、マイクを切った後で、ひそひそ話。
やがて、カレナと話していた人物が話す。
『現状では、室矢カレナを被疑者にしない! とはいえ、氷山花のパーティーで見せたように、人知を超えた力がある化生のようだ。幸いにも彼女はこの県に住んでいるため、いざとなれば協力してもらう! ……三原(巡査)部長! 君が引き続き、担当したまえ』
「ハッ! 承知いたしました!」
厄介なことだ、と思いつつ、三原に選択の余地はない。
――篠ノ里高校
夕暮れの屋上。
ベンチに座る槇島睦月は、正面の男子に確かめる。
「話は分かったけどさ? それで、何?」
向き合う男子は立ったままで、見るからに狼狽した。
「い、いえ! ただ、槇島さんの耳に入れておきたくて……。助けてくれるのなら、そりゃ嬉しいですけど」
睦月は自分のスマホで、二足歩行をする犬人間が、ちぎれた、誰かの腕を食っている画像を見た。
「これを送ってきたのが、廃校になった多冶山学園へ度胸試しで行ったきりのお前のダチ……の知り合いか。悪いけど、そいつを助けるために動く気はないよ? 情報は、もらっておく」
「うっす! そいつに心配する家族はいないし、学校をバックレる奴だから、サツが知るのは先です。というか、ろくに捜査しないでしょう。……それ、本物っすかね? 隣の県で大騒ぎになってますし。俺、怖くて」
顔を上げた睦月は、夕暮れのオレンジ色で自分に陰影をつけながら、警告する。
「さあ? 僕が守るのは地元だけ……。こっちで対応するから、あとは忘れなよ?」
「槇島さんがいてくれれば、百人力っす! 俺のダチにも、何かあったら知らせるよう、言っておきます!!」
いかにも不良! という格好。
しかし、腰が低い男子は、先輩を相手にしているかのよう。
その後ろ姿を見送った睦月は、再びスマホの画像を見るも、ふと思う。
「あれ? 今の僕って、裏番長?」
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