どいつもこいつも恋愛脳!【睦月side】
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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篠ノ里高校。
放課後になった、その中庭。
いたるところで部活動が行われており、様々な音が響く。
人目を避けるように、一組の男女が向かい合う。
「兄貴が世話になった……」
男子は深々と、頭を下げた。
いっぽう、女子は息を吐く。
「成行だから、気にする必要はないよ。……お兄さんは元気?」
「あ、ああ……。おかげ様でな!」
頭を上げたのは、3年の長門誠だ。
対する女子は、1年の槇島睦月。
「その……お兄さんに、家庭の事情を聞いたんだけど?」
「まあ、つまらねー話さ! ジュース飲むか? 座って話したい」
睦月が応じたから、近くの自販機により、それぞれ紙コップを持った。
近くのベンチで、隣り合う。
「夜の商売をしていた母親は、俺まで作った後にいきなり消えた……。父親は顔も知らねえ! 兄貴とはたぶん、父親が違うけどな」
「そう……」
グイッと飲んだ誠は、中庭の花壇を見た後で、気を取り直す。
「俺らの家庭は、そんな感じだ! 兄貴は東京で頑張っているようだし……。『上手くいけば、お前も来ていいぞ?』と言われた。生きる気力が湧いてきたよ」
「地元だと、やっぱり厳しい?」
睦月の質問に、誠は苦笑した。
「そりゃ、な? 兄貴が針鼠アイアンズの総長で……。卒業したら俺も下っ端として悪事をするしかないと思っていたさ! 就職で高校の推薦はないし、応募する気にもならん。どうせ、まともな企業からは門前払いだ」
「言っておくけど、僕のためとか、変に気を利かせないでよ? 迷惑だから。……あと、不良の更生をする趣味はない」
一瞬だけ、言葉に詰まった誠は、睦月に応じる。
「お、おう! 地元で燻る連中に妬まれたくないし、この話は止めておくわ……。そうだ! お前は室矢カレナの友人だろ?」
「……何?」
警戒した睦月に、慌てて否定する。
「いや、そうじゃない! 前にあいつのクラスへ乗り込んで、喧嘩を売っちまってな……。本当は、自分で行って詫びを入れるのが筋だけど……。『次はない』と言われちまってて」
「ハイハイ……。連絡先も知らないから、代理で謝っておいてと?」
両手を合わせた誠に、睦月が答える。
「言っておくよ……。用件は、それだけ?」
「おう! 兄貴を含めて、色々と迷惑をかけたな? 本当に悪かった……」
ベンチから立った誠は、飲み切った紙コップをゴミ箱に入れた後で、去った。
――翌日
槇島睦月が外間朱美と一緒に登校して、1年4組に入ったら……。
「睦月ちゃん! 中庭で告白されたって、本当!?」
「誰?」
「3年の長門先輩!」
クラスの女子が、一斉に群がる。
「ね? どうだった? OKしたの?」
「えー! あの先輩、怖いよ……。ねえ、睦月ちゃん。やめたほうが――」
「ダメだよ、ユーちゃん! そういうこと、言ったら!」
お前ら……。
他人事だと思い、目をキラキラさせやがって!?
顔を引き攣らせた睦月に構わず、他のクラスの女子まで加わり、盛り上がる。
「うーん……。意外だな! 睦月ちゃんは『年上の優しいお兄さん』がタイプだと思っていたのに」
「それ、どこ情報?」
「ウチの兄!」
「ただの願望じゃん……」
「睦月ちゃんの好みは、グイグイと引っ張ってくれる年上だよね?」
「いいえ! 苦楽を共にする同年代! これは譲れない」
「自分の色に染められる年下は?」
「ね! で、返事は?」
ハッとした睦月は、すぐに否定する。
「僕は、長門先輩に興味ないよ。『室矢に謝っておいて』と頼まれただけ……」
露骨にガッカリした女子は、口々に文句を言う。
「なーんだ、つまんない!」
「1組の室矢さんも、謎だよね? どういう男子が好みかな……」
高校時代の室矢重遠を思い出した睦月は、切なくなった。
それを見ていた女子が、茶化す。
「お? 睦月ちゃんにも、やっぱり好きな男子がいるのかなー?」
「ん……いると言うか、昔の話だよ」
――翌日
登校した槇島睦月は、机の上に置いたスクールバッグから教科書とノートを取り出して……
「え!?」
机の中で、妙な手応え。
触ったものを摘み、そーっと、出してみる。
封筒だ。
“読んでください。お願いします”
ひょっとしなくても、ラブレターのようだ。
すると――
「ああ、それ? 朝から皆が、せっせと入れていたよ」
近くに立つ女子が、あっけらかんと教えてくれた。
他の女子も集まり、口々に言う。
「睦月ちゃんに好きな男子がいると広まったらしく、焦った男子が一気に動いたっぽい!」
「モテモテー!」
「邪魔しないから、ゆっくり読んでね?」
いったん机の上に出せば、軽く10通はある。
「うわあ……」
思わず、声が出た。
「あ! ロッカーにも入ってるみたいだよ?」
嘘だと言ってよ!
「前から、槇島さんのことが好きです! 僕と付き合ってください!」
「ごめんなさい」
「槇島! 俺と一緒に、陸上をやらないか!?」
「面倒だから、嫌です」
「彼女と別れてきたから――」
「そちらの事情は知りませんし、あなたとは付き合いません」
「睦月ちゃんが好きなのって、俺だよね? 気づかなくて、ごめん――」
「違います」
「俺は女子を10人ぐらい、抱いていてさ? 睦月ちゃんも、きっと――」
「帰れ!」
敬語で喋る睦月。
最初の1人に会ったことで、その流れを断ち切るのが難しくなったのだ。
海岸に打ち上げられたクジラのように元気がなくなり、心配した有志によってラブレターの受付は終了。
その流れを見ていた室矢カレナは、大爆笑。
けれど、ある日、彼女が登校したら――
「ん?」
手応えを感じて、それを出せば……。
1通のラブレターだった。
過去作は、こちらです!
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