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一度は言ってみたい、この台詞

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 闇夜に、ボゴッと鈍い音が響いた。


 殴られた若者は、そのまま倒れる。



 殴った本人は仁王立ちのまま、叫ぶ。


「降りるとは、どういうことだ!? ああ゛?」


 口の端から血を流しつつ、若者は立ち上がる。


「あいつはヤバいんすよ! バイクで乗り込んだ俺らは、気づけば、篠里(しのざと)のグラウンドとは別の場所にいて――」

「うるせえぇええっ! もう少し、上手な言い訳を考えろや!!」


 男が蹴ったことで、立ちかけていた若者は胸に食らう。


 後ろへ吹っ飛んだ。



 周りの仲間がオロオロしながら、声をかける。


「き、木席皮(きせきがわ)さん! そ、それ以上は……」


 息を荒げた男は(とが)めた奴をギロッと睨むも、頃合いか、と考える。


「てめーらも他人事じゃねえぞ? お前ら、俺を舐めてんだろ!? なあ?」

「い、いえ! そんな事は……」


 周りで立つ若者グループをねめつけた男は、説明する。


針鼠(ハリネズミ)アイアンズの総長だった俺のメンツを潰しておいて、よく顔を出せたもんだ……。言われなくても、室矢(むろや)カレナを連れてこいや!? 今の俺がどこに所属しているか、忘れたわけじゃねーよな? 次に泣き言をほざいたら、てめーらのノルマは10倍だ!」


 若者の1人が、思わず尋ねる。


「ど、どうすれば――」

「お前の頭は、(ニワトリ)か? コッコー! コッコー! さっき『自分で考えろ』と、言ったばかりだろ?」


 至近距離で睨まれたうえに(こぶし)でコンコンと頭を叩かれ、言った本人は震え上がった。


「す、すみません!」


「分かれば、いいんだよ……。じゃ、次は期待しているぜ!」


 お疲れ様でした! を背中に受けながら、木席皮は駐車場の車に乗って、走り去った。



 残った針鼠(ハリネズミ)アイアンズの連中が、地面に座り込む。


 殴る蹴るの暴行を受けた若者は、苦しそうだ。


「大丈夫か?」

「ああ……。しかし、まいったな……。木席皮さんに逆らう訳にもいかないし」


「やるしか、ねーよ……。あの人に盾突けば、地元のヤーさんも動いちまう」

「サツに泣きついても、洗いざらいゲロした後で『はい、さよなら』だしな……」

「あいつらは、自分のノルマだけだ」

「ムショに入っても、せいぜい数年だろ? 意味ないぜ」


「家族もクソで、世間もレッテルを貼って見下すだけ! ダチしか、いねえ……」

「誰にも頼れないよな……」


 暴行を受けていた若者が(うつむ)いたまま、口を開く。


「あいつ……」


「ん?」


室矢(むろや)だよな……。あの……」



 『室矢』を名乗れるのは、重遠(しげとお)の血を引いているか、偉業を成した非能力者のみ。

 しかも、バイクに乗っていて、瞬間的にワープさせられたのだ。


 明らかに、超常的な力を持つ異能者。



「室矢カレナ……。弟に言って、今度は頭を下げれば……」


 溜息を吐いた面々が、暴行を受けていた若者に反論する。


「無理だって、(たく)……」

「気持ちは分かるけどよ?」

「仮にできても、俺らを助ける理由がねーだろ!?」


 黙っていた1人が、覚悟を決める。


「やろうぜ? 次に木席皮さんを怒らせたら、マジで半殺しにされちまう……」



 ◇



 夕暮れを背景に、女子が別れの言葉を交わす。


「バイバーイ!」

「またね、睦月(むつき)ちゃん!」


 人で賑わう駅前から、それぞれ家路につく。


 わずかな時間が終わり、ここからは1人の子供に戻るだけ。



 ある者は電車を待ち、ホームで立つ。


 ある者は自宅へ向かうバスを待つため、行列へ。


 ある者は、スタスタと歩き出す。




 日が暮れた。


 茶色のショートヘアで琥珀(こはく)色の瞳をした女子高生はセーラー服のまま、歩を進める。


 上から人工的な光が降り注ぎ、また暗い部分へ。

 それが繰り返される。


 市街地から離れるに従って、灯りも減っていく。


 予算の関係で、整備されていないのだ。



 槇島(まきしま)睦月(むつき)はスクールバッグを持ったまま、自宅へ向かう。

 春先とあって、寒さは感じない。


 遠くで、バイクのエンジン音……。



 美須坂(みすざか)町のエリアに入る、手前。

 北稲原(きたいなばら)町との境目である麻田川(あさだがわ)にかかっている橋が、遠くに見えてきた。


 車が同時に行き来できて、片側の端には専用の歩道。

 そこへ向かう睦月は暗闇の中で、ピタリと立ち止まった。


 手つかずの空き地で伸び放題の雑草が、夜風で揺れる。


 遠くにある鉄橋は、ステージのように明るい。

 けれど、睦月が立つ場所は、上から半月が照らすだけの空間。



 ヴォン! ヴォオン!!



 バイクの音は、もう近い。


 重なっていることから、複数であると分かる。



 立ち尽くす睦月を囲むように、バイクが次々に停車。

 けれど、エンジンを切らない。


 睦月が逃げないことを確認した後で、エンジン音がなくなった。


 スタンドで立てて、地面に降りる。

 数は、5人ほど。


『槇島睦月だな? 俺たちと一緒に、来てもらう!』

『こっちはバイクだ! 逃げられると思うなよ?』

『逃げようが、針鼠アイアンズの名前にかけて、追い込むからな!』


 顔が見えないヘルメットを被った連中は鉄パイプやナイフを手に、凄む。


 若者の1人が顔を隠したまま、歩み出る。


『すまん……。狙いは、お前じゃないんだ。室矢カレナを呼び出したら、解放する』


 くぐもっているが、声音から、木席皮に暴行された若者だと分かった。


 襲撃犯の1人が、その雰囲気をぶち壊す。


『いくら助けを呼ぼうが、誰も来ねーぜ? もう遅いんだよ!』



 しかし、睦月は笑顔で返す。


「とんでもない! 待っていたんだよ……」

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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