一度は言ってみたい、この台詞
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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闇夜に、ボゴッと鈍い音が響いた。
殴られた若者は、そのまま倒れる。
殴った本人は仁王立ちのまま、叫ぶ。
「降りるとは、どういうことだ!? ああ゛?」
口の端から血を流しつつ、若者は立ち上がる。
「あいつはヤバいんすよ! バイクで乗り込んだ俺らは、気づけば、篠里のグラウンドとは別の場所にいて――」
「うるせえぇええっ! もう少し、上手な言い訳を考えろや!!」
男が蹴ったことで、立ちかけていた若者は胸に食らう。
後ろへ吹っ飛んだ。
周りの仲間がオロオロしながら、声をかける。
「き、木席皮さん! そ、それ以上は……」
息を荒げた男は咎めた奴をギロッと睨むも、頃合いか、と考える。
「てめーらも他人事じゃねえぞ? お前ら、俺を舐めてんだろ!? なあ?」
「い、いえ! そんな事は……」
周りで立つ若者グループをねめつけた男は、説明する。
「針鼠アイアンズの総長だった俺のメンツを潰しておいて、よく顔を出せたもんだ……。言われなくても、室矢カレナを連れてこいや!? 今の俺がどこに所属しているか、忘れたわけじゃねーよな? 次に泣き言をほざいたら、てめーらのノルマは10倍だ!」
若者の1人が、思わず尋ねる。
「ど、どうすれば――」
「お前の頭は、鶏か? コッコー! コッコー! さっき『自分で考えろ』と、言ったばかりだろ?」
至近距離で睨まれたうえに拳でコンコンと頭を叩かれ、言った本人は震え上がった。
「す、すみません!」
「分かれば、いいんだよ……。じゃ、次は期待しているぜ!」
お疲れ様でした! を背中に受けながら、木席皮は駐車場の車に乗って、走り去った。
残った針鼠アイアンズの連中が、地面に座り込む。
殴る蹴るの暴行を受けた若者は、苦しそうだ。
「大丈夫か?」
「ああ……。しかし、まいったな……。木席皮さんに逆らう訳にもいかないし」
「やるしか、ねーよ……。あの人に盾突けば、地元のヤーさんも動いちまう」
「サツに泣きついても、洗いざらいゲロした後で『はい、さよなら』だしな……」
「あいつらは、自分のノルマだけだ」
「ムショに入っても、せいぜい数年だろ? 意味ないぜ」
「家族もクソで、世間もレッテルを貼って見下すだけ! ダチしか、いねえ……」
「誰にも頼れないよな……」
暴行を受けていた若者が俯いたまま、口を開く。
「あいつ……」
「ん?」
「室矢だよな……。あの……」
『室矢』を名乗れるのは、重遠の血を引いているか、偉業を成した非能力者のみ。
しかも、バイクに乗っていて、瞬間的にワープさせられたのだ。
明らかに、超常的な力を持つ異能者。
「室矢カレナ……。弟に言って、今度は頭を下げれば……」
溜息を吐いた面々が、暴行を受けていた若者に反論する。
「無理だって、拓……」
「気持ちは分かるけどよ?」
「仮にできても、俺らを助ける理由がねーだろ!?」
黙っていた1人が、覚悟を決める。
「やろうぜ? 次に木席皮さんを怒らせたら、マジで半殺しにされちまう……」
◇
夕暮れを背景に、女子が別れの言葉を交わす。
「バイバーイ!」
「またね、睦月ちゃん!」
人で賑わう駅前から、それぞれ家路につく。
わずかな時間が終わり、ここからは1人の子供に戻るだけ。
ある者は電車を待ち、ホームで立つ。
ある者は自宅へ向かうバスを待つため、行列へ。
ある者は、スタスタと歩き出す。
日が暮れた。
茶色のショートヘアで琥珀色の瞳をした女子高生はセーラー服のまま、歩を進める。
上から人工的な光が降り注ぎ、また暗い部分へ。
それが繰り返される。
市街地から離れるに従って、灯りも減っていく。
予算の関係で、整備されていないのだ。
槇島睦月はスクールバッグを持ったまま、自宅へ向かう。
春先とあって、寒さは感じない。
遠くで、バイクのエンジン音……。
美須坂町のエリアに入る、手前。
北稲原町との境目である麻田川にかかっている橋が、遠くに見えてきた。
車が同時に行き来できて、片側の端には専用の歩道。
そこへ向かう睦月は暗闇の中で、ピタリと立ち止まった。
手つかずの空き地で伸び放題の雑草が、夜風で揺れる。
遠くにある鉄橋は、ステージのように明るい。
けれど、睦月が立つ場所は、上から半月が照らすだけの空間。
ヴォン! ヴォオン!!
バイクの音は、もう近い。
重なっていることから、複数であると分かる。
立ち尽くす睦月を囲むように、バイクが次々に停車。
けれど、エンジンを切らない。
睦月が逃げないことを確認した後で、エンジン音がなくなった。
スタンドで立てて、地面に降りる。
数は、5人ほど。
『槇島睦月だな? 俺たちと一緒に、来てもらう!』
『こっちはバイクだ! 逃げられると思うなよ?』
『逃げようが、針鼠アイアンズの名前にかけて、追い込むからな!』
顔が見えないヘルメットを被った連中は鉄パイプやナイフを手に、凄む。
若者の1人が顔を隠したまま、歩み出る。
『すまん……。狙いは、お前じゃないんだ。室矢カレナを呼び出したら、解放する』
くぐもっているが、声音から、木席皮に暴行された若者だと分かった。
襲撃犯の1人が、その雰囲気をぶち壊す。
『いくら助けを呼ぼうが、誰も来ねーぜ? もう遅いんだよ!』
しかし、睦月は笑顔で返す。
「とんでもない! 待っていたんだよ……」
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