表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1

 ――世界の西に空前絶後の大国があった。

 数々の国家を蹂躙(じゅうりん)し、数々の人民を支配し、ついには世界の頂点(いただき)でさえ手中におさめてしまう。

 しかし、たった今――大国は終焉をむかえようとしていた。



 会議室にながれる重苦しい空気が、ワシの腹を刺激する。

 とてつもないほどのストレスだ。

 しかし、参謀総長はそんなことも意にかいさずに戦況を説明してくる。


「総統閣下。敵軍は防衛ラインを突破し、首都を蹂躙しております。官邸(ここ)への攻撃がはじまるのも時間の問題でしょう……」

「お、おい、軍はどうした? 首都をまもれるぐらいはいたはずだろう?」


 ワシの言葉に、将軍たちはざわめきだす。

 そして、参謀総長が顔を青くしながらワシにいってきた。


「軍の兵力はいちじるしく不足しており、首都の防衛も不可能です……」


 頭のなかが真っ白になった。

――まさに、悪夢だ。

 気がついたときには、自分の眼鏡を参謀総長になげつけていた。


「このアンポンタンどもッ! キサマらを信用したワシの判断力がたらんかったッ!」


 突如、青かった参謀総長の顔が赤く変色する。

「もとは閣下がはじめた戦争です。軍はまきこまれただけで……」

「もういいッ! キサマらなんて大嫌いだバーカッ!」


 そんな捨て台詞をのこして、その場をあとにした。

 ワシがさった会議室から、絶望をうったえる声や嘆息がきこえてくるのだった。



 ガチャ。

 ノブをまわす音とともに、扉がひらかれた。

 自室にはいって、一歩二歩すすんだところで足をとめる。


「おい、おまえ?」


 ソファのうえで妻がよこたわっていたのだ。

 このこめかみからはドバドバと赤い液体があふれている。


「おい、おまえ、返事をしろ。おまえッ!?」


 返事がない。ただ死体のようだ。

 体をさすってみると手からなにかをおとした。


 ひろって見てみると、それは拳銃だった。

 きっとこれで自分を撃ったのだろう。


「……どうしてこうなった」


 ワシは生涯この国につくしてきたはずだ。

 壊滅寸前の経済だって回復させたし、領土だってひろげた。

 ついにはこの国を空前絶後の大国にまで成長させた。


 今回の戦争だってこの国をさらに繁栄させるため。

 それなのに、こんなの……こんなの……。


あぁ、もう――「畜生めぇぇぇ!」


 銃を自分のこめかみにつける。

 そして、そっと(まぶた)をとじた。


 ――バンッ!



 混沌とした意識のなか、視界には不思議な光景がひろがっていた。

 真っ白な空間に本が一冊うかんでいる。


 本の表紙には東洋の言葉と、デフォルメされた人物の絵がかかれている。

 どうやら、漫画みたいだ。


 漫画のページがペラペラとひらかれる。


『呪いがある世界で、チェンソー片手に悪とたたかうヒーローの物語』


 そこにかかれてある内容は、はなはだ奇妙だった。

 けれども、とてもおもしろかった。


 もし死後があるのなら、天国や地獄にはいきたくない。

 そのかわり、漫画のような楽しい世界にいきたい。


 そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ