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第三回

 東欧の紛争に端を発した戦火は人々の予想を超える早さで全世界に波及、三度目の世界大戦が勃発した。

 それまでの平穏の裏で蓄積されて来た鬱憤(うっぷん)、不正や不平等に対する怒りが一時(いちどき)に噴火したかの如き血みどろの戦乱は時を置かずに破滅的な様相を覗かせ始め、五年と経たぬ内に世界はかつて無い程の壊滅的な深手を負ったのだった。

 勝者など最初から存在しない戦乱が(ようや)く行き詰まりを見せた頃、天文学的な数に昇る戦費と人命を戦火に()べて生き延びた者達が手に入れたのは、一面の瓦礫の山と焼野原であった。

 世界中のあらゆる地域が戦場と化した結果、当然の帰結として生産活動は有史以来最大の低迷を迎える事となったが、この場合に最も深刻な問題となったのが第一次産業の壊滅であった。

 戦線の無秩序な拡大に伴って埋設された大量の地雷、埋没した無数の不発弾やクラスター爆弾、使用された種々のBC兵器に劣化ウラン弾等の『汚い兵器』、そして禁忌とされた弾道ミサイルの撃ち合いにより、世界中の耕作地の実に五分の四が使用不能となったのである。

 灌漑(かんがい)用水設備の破壊も含め、いずれの大陸に()いても農業大国は再建不可能なまでの痛手を被り、そこからの輸入に頼って来た消費国もまた深刻な食糧難に見舞われる事となる。土壌の汚染は海洋にも確実に広がり、世界中のあらゆる国々が自国民の餓えを解消出来なくなっていたのだった。

 復興と再建にもこの深刻な食糧危機は大きな足枷となり、今ある食糧の備蓄が底を尽く前に元の生活水準を取り戻す事は不可能であった。

 迫り来る命の刻限を目前にして、各国の重鎮は苦肉の策を採る事となる。戦時下で急造された地下壕に人工冬眠の設備を急遽(きゅうきょ)(こしら)え、国民の大半を休眠させる事で生命活動を維持する窮余の一策を採用したのであった。

 皮肉な事に、汚染された環境下であっても石油を始めとする各種資源の採掘や流通には戦前との変化は大して生じておらず、破壊された設備の復旧ですら耕作地全域の除染に比べれば遥かに容易な作業であった。諸々の機器を安定して稼働させ続ける事に関しても、忌憚(きたん)の要らぬ持続がすぐに見込まれる状態となった。

 こうして各国が打ち出した新たな復興計画に基づき、新たな日常が『戦後』の世界に展開された。

 国民の大半が人工冬眠に就いている間に都市部のプラントで食料の栽培を推し進め、備蓄が整った頃合を見計らって休眠を解除し、全国民を復興作業に当たらせる。長い『休眠期』と短い『活動期』を繰り返す事で、死者数を極力抑えながら国土の復興を目指す。

 それが、『戦後』の新たな日常となったのだった。


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