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妖記憶屋、開店です  作者: 雲咄
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白いキャンパスに、青だけを足したかのような晴天の日。そんな陽気な空とは裏腹に、一人の青年が下を向き肩を落としながら歩いているのが目立った。

「ハァ……」

二十代前半だろう、青年はスーツに身を包んで首筋に汗をかきながらため息を吐く。

「またダメだった。絶対あの反応は落ちたに決まってる」

青年はどこかの会社で面接をした後だったのだが、練習したはずなのに質問には答えられなかったものがあったり、目線はさ迷ったり、挙句の果てには面接中にも関わらず顔を下に向けてしまった。

挙句の果てには、

『君、確か名前は猫島君だったよね?そんなんで何しに来たの?やる気ある?』

と、呆れながらも言われる始末。

(分かってるよ。俺だって、必死になって頑張ってるのにそれが上手くいってないことも。何より、自信が何よりも足りてないことに)

あの会社に行く前に、何度やったのかも分からないぐらい面接練習だってした。その時は完璧にやれていたはずなんだ。

「他の奴らは、結構上手くいってんのに……。なんで俺ってこうなんだろ」


猫島涼太。茶髪のストレートに、苗字の通り猫目なのが特徴の彼は、現在就活に悩んでいた。何ヶ月も前から就活の為にと練習をしてきたし、自分に合いそうな会社だって、同胞に協力してもらいながらもやってきた。……それなのに、結果は全敗。

どこに行ったって、自信がないせいか『君、やる気ある?』という一言で全部落ちてしまう状態に陥ってしまっていた。

(大体、やる気ある?ってなんだよ。俺だって、必死になって溶け込もうとしてるのに、態々心抉るような言葉吐きやがって。その上、仲間にだって笑われているし。……あぁ、でも、ずっと昔にこんな俺に自信をつけさせてくれたやつがいたっけ。……あれ?それって、誰だったけ……)

何となく、そんな奴がいた……はずだ。覚えていないが、確かにいたはずなんだ。

涼太は、自分がなぜ忘れているのかは分からないのに、その理由を知っているからか冷や汗が垂れているのを感じた。


――永年生忘症


涼太のようなモノの中ではそう呼んでいるこの記憶の忘れは、靄がかかったように分からないのではなく、まるで記憶という物が鍵を閉められ海に沈められたかのように思い出せなくなることを言う。

実際、涼太は何度思い出そうとしてもかすりもしなく、手を伸ばそうとも届かない様なもどかしい気持ちしか残っていなかった。

(なんだっけ……。たかが数百年の前の話なはずなのに、なんで思いだせないんだよ……!後、もうちょっとで分かりそうなのに、何で!!)

「くそっ!………って、ここ、どこだ?」

 人通りが少ない場所を歩いていたのは確かだが、それでも、こんな辺鄙な場所まで来ようと思って歩いていたわけではない。何なら、逆に周りをよく見て進んでいたと思ったが、記憶を探ろうと集中しすぎてこんなところまできてしまったのか。

「この歳で迷子とか、他の奴らに笑われそうだな」

 自分でも恥ずかしいことだと自覚しているからか、涼太は少しだけ赤面させて元来た道へ戻ろうと踵を返すと――

「……あれ?こんな所に家なんてあったっけ?」

 今時珍しい古風な家に、枝垂れ桜と赤い彼岸花が咲いている。

(ん?古風な家に、桜と彼岸花ってどこかで聞いたことがあるような……)

 そう思い、足を止めてしまった涼太はじっとその家を見ていると、その家から一人の人間が戸を開けた。

 黒い髪に、まるで彼岸花そのものの色が具体化したような赤い目。これまた何の柄もない黒い着物を着たその人間は、男性なのか女性なのか分からない顔立ちで、完璧な笑みでこう言ったのだ。

「いらっしゃいませ。猫又様でございますね。本日はようこそいらっしゃいました」

「……猫又って何のこと?」

「ふふ。そんなに警戒しなくとも大丈夫ですよ。ここは『記憶屋』。妖様方の記憶を思い出すのを手伝いする場所でございます。そして、私はここの当主です。何なりと、お申し付けくださいませ」

 一度も絶やさない笑みを浮かべながら、この『当主』と名乗った人間はまた言うのだ。


「大切な記憶、取り戻したくないですか?」


 と。

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