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8-4

「うああぁぁぁぁ!」


 考えるのはやめ、戦いに加わる。

 馬の扱い、馬上での基本的な戦い方は第五騎士団で経験があったけれども多人数相手の実戦は初めて。馬が怯えず走り続けられるように、敵も避けられる進路を選びながら、馬上から剣を振り続ける。

 馬上で身体の動かせる範囲は限られているし、騎馬は馬の大きさとその速さこそが武器だから。


 そして、そんな駆け回ろうとする私に正面から襲い掛かって足止めしようとする敵騎馬。


「くっ」


 まだ扱いなれていない馬という事もあったのかもしれない。馬は立ち止まってしまい、降りたほうがいいと周りを見渡す。

 既に劣勢となった王国再興軍の兵は什隊長二人を守るようにかたまっていて、その周りを走っていた私は完全に孤立し、立ち止まってしまった今は襲い掛かる敵兵を前に手が降りる場所もなければ打てる手立てもなかった。


「これまでか」


 悔しさに思わず歯を食いしばり、こんなつまらない戦いで死ぬのかと思った直後だった。


「我は第四騎士団什隊長ドラシール参上!」


 その叫びとして現れたのは第四騎士団の旗を掲げる隊だった。

 数は多くない。けれどもその一言に応える声は気力旺盛で、その大声につられて敵兵の注意が私からそれた事に気づいた。


 今しかない。


 手綱を手に馬を走らせ、脱兎のごとく逃げる。

 このタイミングでの増援。ジャンヌ様とリナ衛長による指示なのは明らかで、彼らには勝つための策があるはず。

 ならば、これ以上やられないためにと馬を走らせ王国再興軍と合流する。


「なんだ、生きていたのか」

「余裕です! そちらは」

「我らが負けるはずがない!」


 お互いに嘘をついているのは明らかだったけれど、そのそばで戦う兵を思えばこその言葉だった。

 そんな私の前に再び現れる一騎の姿。


「俺の名はソス傭兵団の団長サクソソス。貴様らの女隊長は今すぐ姿を見せ、勝負せよ!」


 女隊長?

 どう考えても私の事だよねと、睨むサクソソスに応えるように前に出る。そして、空気を読むかのように対峙したところで敵味方の兵の争いは止まった。


「俺の名は名乗った、次は貴様が名を名乗れ」

「私の名前はシルフ。第四騎士団の什隊長です」

「男か。それにしては小さく女々しい姿だな」


 気にしている事を!


「まぁいい。では俺と勝負ししろ。俺が勝ったら他の者も含めて降伏しろ」

「私が勝てば?」

「頭を失えば、傭兵団はどちらにしろ逃げる。それで、返事は?」


 わかった。やむを得ずそう答えようとした時だった。


「断る!」


 割り込み突撃したドラシールが槍の一撃はなち、サクソソスがかわして舌打ちする。


「しらけた。命拾いしたな」


 そう捨て台詞を言うとサクソソスは馬を走らせ声をあげる。


「お前ら、俺ら力を示すのは既に済んだ! 退却するぞ!」


 ドラシール隊と入れ替わるように引き上げるソス傭兵団の動きも判断力も抜群だった。

 この戦いでの死傷者の多くが王国軍の兵で、ドラシール隊も実数は十騎と四十名で追撃できるほどの余力はなかったから。


 そして、応急処置をしている間に、ほどなくして城の守備兵も集まり三百に膨れた一隊はウガート城へと目指す。


 勝った? 負けた? いや、それよりも…………


 戦った兵に笑顔はなく、私の判断も指揮するべき者として戦いに巻き込んだ無能としか思えなかった。


「…………」


 かける声すらも思いつかない。

 そんな私は酷い顔をしていたのだろう。ドラシールが私の顔を見て苦笑いした。


「人を率いる事に怖じ気づきましたか?」

「…………そうかもしれません」

「いや、そこは怒って否定してくれないと困るのだけど」


 ドラシールは頭を兜越しに掻き、ため息をついた。


「まぁ、そんな貴方になら話した方がいいでしょう。実は、今回の警護でシルフを見守るようにリナ様から命令されていました。そして、合わせてこう言われたのです。『素質がないなら死なせてかまわない』と」


 その言葉に驚き顔を上げる。


「それって」

「兵、什隊長、部隊長。団長。どんな立場でも初めてというのは上手くいかないものです。ましてや王国軍の中でとなれば兵の扱いも制限されて思い通りにいかなかった事でしょう。実際、遠目に見てその扱われ方も行動も見捨てても差し支えないほどのものだったと報告を受けています」


 報告?


 誰から聞いたのかとは気になったけれど、話を止めないように聞き続ける。


「そして今回のシルフ様の行動も指揮もハッキリと申し上げれば拙いものでした。ただ、それでも最善を尽くそうという行動はしていた。繰り返しますが、どんな方でも初めてというものがあります。そして、その時々よって状況が異なる戦場は、常に似ても初めての判断が伴います。

 今回の採点は落第です。ですが、予め率いる兵との関係を持つことができていれば、その採点も及第点になると感じました」

「……そうでしょうか?」

「その迷いを大事にしてください。少なくとも三人のご令嬢にかけた言葉もフランク什隊長に指示した命令も私は嫌いじゃない。そして、あえて立ち向かって突入した事も、見捨てず再度突入した愚行も含めてね。

 悔いは人を成長させ、失敗は成功の礎となる。機会は能力に応じて平等に、評価は成果に応じて正当に。これがジャンヌ様の率いる第四騎士団なのです」


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