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8-1 危急存亡の秋

「シルフィ。あなたを臨時の什隊長に任命する。明日の朝、世話をしていただいたテレイアー、ケーラー、パイスを護衛して確実にウガート城へ送り届けて欲しい。部隊はご令嬢の護衛として連合王国軍の三百を用意する」


 この三名は世話役という名の監視役なはず。

 しかも、今の第四騎士団の兵に余力はなく、連合王国軍の三百を更に減らす事は賢い選択と思えなかった。


「…………よろしいのですか?」

「ジャンヌ様直々の命令ですよ」

「……出過ぎた真似をしてすみません」


 ジャンヌ様に何か考えが? それともリナ衛長が?


 尋ねたい気持ちはあった

 けれどもジャンヌ様の顔はいつもの無関心とも憂鬱ともいうべき表情が消え、初めて見るスッキリとした表情に何も言えなかった。。


 普通ならその様子を見て勝利を確信したものと安心すべきところなのかもしれない。

 けれども、その傍で控えるリナ衛長はいつもの凛とした姿でありながら、私ではなくジャンヌ様に顔を向けている。


 リナ衛長は、知らない? …………嫌な予感がする。


 スクルト兄、アレク什隊長、チャールズ部隊長。

 起こらない奇跡に賭け、独断で覚悟を決めた人の結果を私は知っていたから。


「…………」


 けれども、一度そう決断した者の覚悟は固い。

 思考を巡らせ、探りを入れ、考え、解決策を見つけ、説得できるほどの知恵も話術はなく、冷静に話せるほどの体力も精神的余力も戦いの後では私には残っていなかった。


「ご下命に従い、明任務を必ず成し遂げます」

「ええ。期待しています。それでは明日に備えて今日は休みなさい」

「はい。ありがとうございます」


 …………期待


 シャーロット衛長からもらった言葉と違って期待などされていない事をヒシヒシと感じたながら天幕から出る。

 そして入れ替わるように世話役の三人が天幕を入っていき、そういえばリナ衛長はいつ休むのだろうと思いながらそのまま力尽きて倒れ込むように休んだ。




 翌朝、傷は癒え切ってはいないけれど、幸いにも熱はなく動ける程度には回復していた。

 そして私は天幕へと向かい、許可を得て中に入るとジャンヌ様とリナ衛長と共にいた三人に向かって礼をする。


「シルフ、後は頼みました」

「……必ずやご期待に応えてみせましょう」


「シルフ、護衛後にこの手紙をソルト副団長へ渡してください」

「はい」


 続くリナ衛長からの言葉と共に手紙を預かると、三人を連れて外にでる。

 陣幕を出て周囲からの視線を感じながらも進むと、既に三百の部隊は待機していた。


「さぁ、御三方はこちらへ。あなたは……護衛ですね?」


 私の外見を見て男か女かを迷い、恰好からなんとか男と判断してくれたらしい。


「はい、シルフと申します。ジャンヌ様から直々に護衛を命じられました」


「馬はお持ちではないのですか?」

「先の戦いで失いました」

「…………先の?」


 その言葉で何かを察してくれたのか、私には別途馬が用意され、三人は布で被せられた荷馬車へと乗せられた。

 そして、先頭は別の什隊長が先導し、部隊長は馬車前方、私は馬車後方、兵は前後左右、列の長さももふくめて厳重すぎるほどの護衛数ではあった。

 そんな光景を眺めながら行軍を開始し、第四騎士団から離れた所で思わず呟く。


「こんなに厳重にする必要あるのかなぁ?」


 そんな壮観ともいうべき護衛の多さに思わず呟くと、さっそく荷馬車に揺られるだけの状況に退屈した三人と目が合い、その中のケーラーが話しかけてきた。


「たぶん、襲われるのを警戒しているのだと思います」

「襲われる……。賊、ですか?」

「賊もあるかもしれませんが、それなら百も居れば事たりるかと思います」


 ……百も要るのかぁ。


「それよりも問題は共和国連邦と連合王国の間には流浪している傭兵団の方です。それに、再興しようというガーネット王国も一枚岩ではありません。私たちを殺す事にメリットがある者がいるのかもしれません」


 ……世話役なのに?


 そう首をかしげる前に。その三人の身分も立場も詳しく知らない事に気づいた。

 とはいえ、行軍中でドコで誰が聞き耳をたてているかもわからない状況では迂闊に尋ねる事はできない。


「なればご安心ください。私は南セトラ山で戦い生き残り、先の王都ガーネットの出城戦でも戦い生き残りました。この幸運をもって必ずや無事に送り届けてみせます。…………と、言ってはみましたが、ココに居る精鋭の兵が私の働きなど霞むほどの力を見せてお守りしてしまうかもしれませんね」


 そうニッコリと笑みを返す。

 話が下手だったからなのか、ケーラーが呆然とした表情をした。けれども言っている意味は伝わったらしく三人の表情が少しだけ和らいだような気がした。


 そんな何の意味もない会話がきっかけとして、私は帝国での暮らしを話し、三人は王国での暮らしを話し始めた。その話はお互いに当たり障りのない平穏だった過去を話しあう。

 成人するまでは女子として育てられた私には、髪や衣服の話から花や物語の話まで普通に話し合う。


 そんな道のりは整備されている事もあって、道中に何度か小休憩を挟みながら順調に進んでいく。


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