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7-9

 矢の射掛け合う小競り合いは、リナ衛長率いる一隊が本隊との合流後にすぐとまった。

 元々、この本隊が王城ガーネットへ最短で辿り着く進路をふさぐためで、川を渡ってまで攻め込む気がないのかもしれない。


 ……わからない。


 ジャンヌ様も敵部隊長も何を考えているのかわからない。

 それでも指示は出される。リナ衛長は隊を治療と休憩に向かわせ私にはついてくるように言いった。そしてジャンヌ様を先頭にリナ衛長と第四騎士団の構える陣を進む。そして、その一角に陣幕があり、その中には天幕があった。

 そして、二人は陣幕前で馬を降り、中にある天幕に入って一言。


「おかえりなさい、リナ」

「申し訳ございませんでした。私は……」

「報告よりもケガの手当が先です」


 無表情で小箱を見せるジャンヌ様その後ろに控える世話役三人。喜びそうな話になぜか嫌そうな顔をしながら用意された椅子に座るリナ衛長。

 が、そこで違和感に気づく。というのも手当する椅子がもう一つ用意されていたから。


「傷の応急手当をするからシルフも座りなさい」

「え? ……え?」

「あれは攻めてくる構えじゃない。だから今は傷の手当てが優先でいい」


 ……なぜそれがわかるの?


 断言するジャンヌ様の言葉は信じられる思えるほどハッキリとし、淡々としたものだった。そこまでハッキリと言った事に対して思わずリナ衛長を見る。

 けれどもリナ衛長はそんな視線に気づきながらも流し、鎧を脱ぎ、傷の部分をみせるために衣服まではだけようとしはじめた。


「あの、私は!」


 男なんですが。そう言生きる前に世話役の一人が声をかける。


「あの、シルフ様は殿方ですから、そのリナ衛長も……」

「あ、そういう設定だった」


 ……設定。うん、ジャンヌ様には男に偽っている女という設定だった。


「私は……かすり傷ですので外で待っています」

「そう。なら誰かを私の代わりに」

「ありがたいお言葉恐れ入ります。ですが、大丈夫です」


 慌てて天幕から出る。

 いくら外見が女に見えるからといっても、触れられてしまえば違いはすぐわかる。男にはたしかな硬さ、女の包むような柔らかさがあり肉体の差は努力だけでは真似る事はできない。女の社会で生き、女としての振る舞いや姿には見慣れているであろう世話役の三人に男だとバレても問題はないが、そこからジャンヌ様が知るところとなる可能性は高い。

 隠し事は一度知られればなかった事にはできない。だからこそ、ジャンヌ様との認識にズレがでるような事は極力さけるべきだと判断した。

 それに、小柄で馬にも乗っていない私はたいした傷もない。


 天幕から出ると、その片隅で念のためにと傷を確認する。

 が、思った通り打撲と既に血も止まったかすり傷、浅い切り傷だけだった。


「…………」


 むしろ、大ケガを負っていた方がよかったかもしれない。

 そうであれば倒せなかった事への諦めも、チャールズ部隊長を見捨てた事への言い訳もも自分へできたから。


 私には残る選択肢があった。そして、二回とも見逃した。


 悔しさに手を強く握り、どうすればよかったのだろうかと振り返る。

 けれども選ばなかった先には死しかなく、何が最善だったのかすらわからない。


「死ねばよかったのかな」


 そんな、黄昏を感じさせるような沈みゆく感覚と疲労による身体の重みを感じている間に、思いのほか時間はが経っていたらしい。傷を包帯したリナ衛長が天幕から出て私を見ていた。


「もの思いにふけて満足ですか?」

「…………いいえ」

「なら、さっさと戻ってきなさい。出来る者には、出来もしない事に悩み、時間を浪費してまで悲劇の妄想に酔う姿はただただ不快です」

「ちがっ! 私はただ!」

「違う。そう思うなら今を見て前を向きなさい」


 …………辛辣な言葉。


 そう思ったけれど、このまま変える事ができない過去を悩むよりはよほど救いのある言葉ではあったかもしれない。


「それと……」


 天幕に入る前に振り返り、リナ衛長は睨む


「戦場で人ひとりの命は軽い。だからこそ命に意味を持たせ、散る事に答えを出しなさい。死ねばよかった。それが第五騎士団のイリス様が第四騎士団へと派遣した事への答えなの?」


 違う。その答えだけはハッキリとしていた。

 そして、リナ衛長は私の答えを待たずにフンッと私を軽蔑して、天幕へと入っていった。




 * * *




 リナ衛長に従い再び天幕の中に入ると既に世話役の三人はおらず、そこにはジャンヌ様だけが座って待っていた。そして、リナ衛長に言われるままにジャンヌ様と対面して座る。


「シルフィ、尋ねたい事があります」

「私が答えられる事であれば」

「出城へ突入した時の事を教えてください」


 その意図はわからなかった。そして、出来事をできるだけ詳細に伝えてみるものの、ジャンヌ様の表情は常人では起こりえない出来事の話に驚く事も呆れる事もない。

 対してリナ衛長は明らかに私の話に疑いの目で見ているようだった。


 それでも我慢強く最後まで話を聞いてもらえ、チャールズと脱出した事まで伝えた所でリナ衛長が苛立った様子でため息をついた。


「それは、どこまで事実なのですか?」

「すべてです。リナ衛長は神技や魔法を見た事はありますか?」

「あります。ただ、私の知る神技や魔法とシルフィの話す神技や魔法とはどこか違うように思えますが」

「え? あ、はい」


 言われてみればそうかのかもしれない。

 南セトラ山で戦った相手も似たような事を言っていたのを思い出した。


「えっと、でもイリス様やクリス様も」

「イリス様は神です。クリス様は……、変です」

「…………」

「…………何か?」


 素直……というよりも遠慮ないなぁ。


 それも団長を補佐する立場であればこその自信なのだろうか。

 それとも最初から…………


「まぁ、なんとなくですがわかりました。つまるところ人ならざる力を持った者が共和国連邦を協力しているのですね」

「はい、それも複数人で。彼らは異世界からクラスでどうとか言っていました」


 私の言葉に首をかしげるリナ衛長。

 対して、ジャンヌ様がなぜか驚き恐怖に凍りついたような気配を感じた。


「シルフィ、出城、それに南セトラ山で戦ったときの相手の名前は聞いている?」

「えっと……」


 記憶を探り、忘れる事のない思い出す。


「南セトラ山ではアスカ、それにスグル。王都ガーネットの出城では蜂矢嵐でした」


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