7-4
夜間のよる行軍後の明け方。
目の前には王都ガーネットとその西側の川の水をひくように作られた川沿いの土塁に囲まれた小さな出城が見えた。
まだ遠くからではあるけれど、川からの用水路を確保ために作られ守りはあまり向かない事はなくわかる。
「さぁ、共和国連邦へ俺たちの愛を示す時が来た! 全軍突撃!」
日の登るタイミングと共にかけられた独特なチャールズ部隊長の一声によってたった二百の兵で出城の攻略戦は始まった。
その先頭は馬に乗り駆けるチャールズ部隊長に続き、リナ衛長、私シルフが続く。
「…………あの、私の一番槍の話は?」
「あら。最初に尋ねるのはチャールズの第一声だと思ったのですが、ハズれましたね」
たしかに。
愛を示すと言って目を輝かせて突っ込む姿は異様といえば異様だとは思う。ただ、夜間行軍からの奇襲とはいえたった二百の兵で王都ガーネットのすぐ傍の出城を攻め落とそうとしている事がそもそも異様なのだ。それに意気揚々と続く兵たちも含めて。
「心配なさらずともチャールズ部隊長は必ず途中で止まります。シルフはそれを無視してそのまま突撃してください」
「どうしてです?」
「私の策が読まれているならあなたを殺そうという者が待っているからです。そして、おそらく数に意味がない。ココは最少被害で済むようあなたが犠牲になってもらおうというのが今回の策です。ジャンヌ様からも遠ざけられる私ながら完璧な策ですね」
何の迷いも感じさせない自画自賛からはリナ衛長の考えが全くみえない。
ただ、死ねと言われて大人しく従うつもりはさらさらない。
「指示はわかりました。ですが、最後のご期待についてはハズれる事でしょう」
「……愚かですね」
「こんな愚かな私だからこそ選らんだのでしょ?」
「…………」
その答えを得るだけの時間はなかったらしい。
奇襲のおかげかこれも罠なのか、静かに城門が開いているのを見たチャールズ部隊長が叫ぶ。
「全軍とまれ!」
とまる。
⇒進む。
これがリナ衛長の指示だと理解し突き進む。
が、近づいても城門を守っている兵が現れる気配はない。
「まるで、イリス様のときの……」
そう呟き思い出す。あの時は北方諸国が勢いで攻め込み城内に入ったところを火攻めと奇襲で撤退させた。
けれども、たった二百の奇襲の動きを読んだのなら普通に守ればよく、奇計を仕掛ける必要性とも思えない。
何の意図が?
覚悟を決め手勢いのまま城門をくぐっても兵は見当たらなかった。
「……不気味」
思わず立ち止まりそうになる気持ちを奮い立たせて突き進む。
けれど、その予感は間違いではなかったらしい。更に奥の城門上に立つ一人の姿を見つけた直後、その者が手をあげて何かを繰り出す。
「矢……違う!?」
一斉に放たれたと思った数十本の矢に似た物体はその一人から次々と繰り出され、一帯に無差別に放物線を描いて着弾すると次々と爆発した。
その爆発音に驚いた馬に私は振り落とされ、とっさに受け身をとるとその傍で爆発が起こる。
「いったい何が?」
意味がわからないながらも爆発音に対して危険だと認識できたのはイリス様の矢を放つ神技を目にし、黒い炎の鳥を放つ魔法を見た経験があったからなのかもしれない。
「ハハハ、気持ちいいゼ! 弾幕で消し炭になってしまえ!」
そう大声で話す声の度合いで男だとはわかった。そして、シャーロット衛長の言っていた神々の一人であろう事も。
弾幕と呼んだ彼の攻撃は、放物線を描いて着弾しているので認識して避けるまでの時間があり、無差別無誘導なおかげもあって回避が可能な事だった。とはいえ広範囲に連続して何十発と放たれる攻撃に対して瞬時に落下位置を判断して私自身が避ける時間も考えなければならない。加えて近くの爆風と煙も加わればそれけ動ける範囲は限られ視界も遮られていく。
結局、最初に馬で走り抜けた優位はまった活かせず距離を詰める事ができないまま息だけがあがっていった。
「……うん、愚かだな」
リナ衛長の言葉を今さらながらひしひしと感じていると、爆発する矢に直撃したらしい馬の悲鳴が響いた。
が、その直後に魔法もとまり、当たり一帯には煙幕と不快な臭い包まれるけれども不思議と息苦しくはない。
見つかってしまえば次は私の番か……なら。
⇒退く
進む
後ろに一歩下がり……思いとどまる。
こんな今私が下がれば敵は必ず追い打ちをかけてくる。遠くなれば避けやすくはなる。
けれどもそれが城門で待つチャールズ部隊長やリナの一隊へむかえばきっと敵は追いかけ団幕を隊に向かって放つ。それはつまり。
…………全滅。
その言葉が頭をよぎった。
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