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1ー5

「はぁ、いつまで泣いているのよ」

「だって……」

「あのねぇ。今さらだけどあなたが戦った相手はこう見えても帝国でも優秀な……優秀な? ……バカな騎士なの」

「そこ訂正する!? てかそこを下げたら慰めになってないよ!」

「で、ココは帝国領。つまり私たちはあなた達を助けに来たってこと。わかった?」

「ほんっと今さらだよ! そして私を無視しないで!」

「うっさいわねぇ! 元はといえば、あなたが最初に説明しなかったからでしょ」


 ほんとその通りだと思う。確認しなかった私も私だけど。


「私の名前はイリス。で、この仮面を被っていたやたら黒いのはバカ」

「バカ!?」

「私は、シルフィです」

「あら、いい名前ね」

「二人そろって私を無視!? 私の名前はクリスだよ!」


 やりとりからしてイリスはお嬢様、クリスはその護衛の騎士で、たまたまココを通りかかったところで異変に気づいて立ち寄ったのかもしれない。


「あ、あの……じゃあ、その、私の、私のお母さんは?お父さんは? それに他の人たちは?」

「生き残った人は森の方に逃げ込んだとこのバカは言っているけど……」


 私の問いにイリスとクリスはキョトンとした顔で見合わせた後、再びこちらを見た。


「あなたのお(うち)は?」


 イリスに聞かれ、私は家の方を見る。家は先ほどよりも炎に包まれ、今にも崩れ落ちそうだった。

 もしまだ中に居たら。そう思い慌てて家へと駆け出そうとする。けれどもクリスが腕を掴んで阻んだ。


「ダメだ。危なすぎる」

「で、でも! まだ中にお母さんが居たら」


 クリスを睨み、掴まれた腕を必死に振り払おうとする。

 そんな私の前にイリスが立ち、ため息をついた。


「そうね。確かめなければわからない。けど、家の中に居たなら間違いなく生きてはいないわ。現実を見なさい」


 どうしてそう言い切るの。


「で、でも、もし!」


 諦めきれず振り解こうとしてもクリスは強く握り、痛む腕は感覚をなくしていく。


「ごめんね」


 クリスがそう言った直後、私の意識は急激に遠のき、母が外に逃げた事を願いながら視界が真っ暗になった。




 意識が戻ったとき、空の日は傾き土と石でできた一部の倉庫を除いて火は村をほぼ燃やし尽くし、灰と黒の広がる世界となっていた。そして、他の色を探しても目にとまるのは真紅の色と共に倒れる人の姿ばかり。


 そんな変わり果てた光景になっても生き残った人たちはいたらしい。目覚めた時には既に井戸の周りに集まってきていた。

 そして、倒れたスクルト兄の方には涙を流しながら寄り添う一人の若い女性の姿もあった。


 あれは……スクルト兄の婚約者のティアさん。無事だったんだ。なら、もしかしたら……?


 けれども願いも虚しくいつまで待っても父も母も戻ってはこなかった。

 

 イリスとクリスは村の人たちと話し、私が目覚めた事に気づくと戻ってきて、無言で首を横に振る。


「…………」


 行方不明。それが意味する事は言葉にしなくてもわかった。

 ようやく訪れた平穏に安堵の笑みはなく、私も村の人たちもただただ悲しみの包まれた。


「私、どうすれないいのかな。お父さん、お母さん…………スクルト兄」


 返事はないとわかっているのに呟く。そう呟けばどこからともなく返事をくれるような気がしたから。

 けれどもその返事は期待とはかけ離れたものだった。


「もう少し早く来てくれれば」


 村人の一人が怒りを押し殺しきれなかった悔しさの叫びに驚き顔を向ける。

 その一言で井戸で集まっていた人たちの周りの空気が変わっていくのを感じた。それは悔しさでありながら私の感じる悔しさとは何か違う。

 そう、まるで嫌な予感みたいな。


 そう呟いた村の人が立ち上がるとクリスを睨むと叫んだ。


「どうしてもっと早く助けに来てくれなかったんだ! なんで弱い俺たちが襲われなくちゃいけないんだ!」


 私は何を言っているのか理解できなかった。

 

 クリスとイリスは村を襲ってなんかいない。むしろ守ろうと駆けつけてくれただけなのに。

 それなのにどうして責めるの。

 

 私は………………


⇒「…………」

 「違う。おかしいよ!」


 私は止めに入る事ができなかった。その言葉には悲しさと悔しさに満ち溢れ、私がスクルト兄の事でクリスに向けた感情と同じように思えたから。


 でも、じゃあこのモヤモヤした嫌な感じは何?


 その答えを求めてクリスを見る。続いて悲しさと悔しさに満ちた村の人たちの方を見いたけれどわからない。

 ただ、クリスは何も言い返さなかった。イリスも同じく悲しそうな顔をするだけだった。


 どうして、どうして何も言わないの?


 イリスなら言葉でハッキリと言うと思っていたからこそ、尚の事わからなかった。

 そして、何も言わない二人に対して、他の村の人たちは罵声を浴びせはじめる。


「お前らなんて居なくなればいい!」

「弱い者を守るためにいるのだろ」

「死んでしまえ」


 その罵倒はやがて激しさを増し、最初は迷っていた人たちも言い返さないことをいい事に声の数も多くなり、大きくなるにつれて言葉は汚くなっていく。


 ……違う……違う!

 これが、本当に私の知る人たち?


 先ほどまで悪者たちを前に逃げ回り悲しみに暮れていた人たちが助けに来たイリスとクリスに対して罵る。それも、今は助けに来てくれたと知っているはずなのに。


――醜い。


 大勢でたった二人の女性を責め立てる異常な様子に誰も止めないのかと村の人たちを見渡す。中には目を逸らしている傍観者たちもいた。

 でも、誰も止めに入ろうとしない。


 どうして?


 罵詈雑言を浴びせる人たち、それを見て見ぬふりをする人たち。その姿はどれを見ても私の思っていた弱者と言われる人たちの姿でも、善良な人でもなかった。そして気づく。


 今、ただ見ているだけの私も? ううん、彼ら以上に醜いんじゃ。


 他の村人たちより二人を知り、傍に居ながら何もしていない私もその一人なのかと思うと胸が痛み、何もしない自分に吐き気がした。

 そんな時だった。罵声をあげていた村人の一人が小石を拾い、クリスに向かって投げつけてきたのは。


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