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時間切れ。後日、修正するかも。

 私は怠け者であり、無能であり、空気の読めない人だ。そして何より争いが嫌いだ。

 だから私は剣を握らない。私は事を起こさない。なんにでも首をつっこむ神を自称するアイツと違って。


 第四騎士団の団長である私が何かをするという事は、私に従う誰かが死ぬという事だから。

 第四騎士団の団長である私が何もしないという事は、私が守れた誰かが死ぬという事だけど。


 だから私はいかなる戦いにも関わりたくなかった。

 今回の件も、主上の命令としてイリスと共に北方諸国の略奪対応とアゼイリア騎士団と共に東方の国境警戒のいずれかを選ぶしかなく、私の完璧な仮病を見破ったリナに加えてシャーロット、ソルトさんの助言もあって楽な国境警戒を選んだ。…………そう思い込んでいた。


 二千の輜重を運ぶ小荷駄隊として長期行軍し、いざ関所に辿り着いてみれば関所を盾にできる西側は山、山、山。しかも関所から西に山一つ越えた唯一の盆地にはアゼイリア騎士団が既に駐屯していた。

 そして、警戒を理由とした近隣の領主からの支援は有限であり、徴用せずに二千もの兵を長期滞在するには自給するしかない。支援と自給、その両方の条件が整う場所が関所前に広がる東側の盆地しかなかった。


「…………最前線。嫌な予感しかしない」

「私も感じました! これが相思相愛以心伝心というやつですね!」

「……それでいいよ」

「ありがたき幸せ!」


 あの時からリナは今の状況を予想して戦略を練っていたのかな?


 ニコニコと私を見るリナがあの時に何を考えていたのかはわからない。

 いや、今も何を考えているのかわからないけれど。




 駐屯しつつ屯田をはじめて数か月。


 人が集まる所には物が集まり、物が集まる所には人が集まるもの。要は道という流れに留まる理由ができれば村はすぐ大きくなります。まぁ、その理由が大変なんですけれどね。


 民部衛長を任されたシャーロットの言葉だった。


 もともと川もあり、帝国と共和国連邦、連合王国とを繋ぐ唯一の主要(・・・・・)街道の地。

 西に関所に加え、手勢の兵が住める場所を建て、暮らすための支援物資でモノも金も仕事も潤沢ではあった。加えて、共和国連邦では政変があったらしく略奪から逃れてきた者も貧富を問わず多くいた。

 

 しかし、その多くは関所を越える事はできない。貧しい者が賊になる危険があり、貧しくなくても移住には多くの金と手続きが必要だったから。

 結果、その受け皿となったこの場所は人が集まりだし、最初ほぼすべてが兵士という治安維持にも賊対策にも人員過剰な事もあって一度賑わいだせば商人も傭兵集まっていった。

 そして、戦争時に臨時で雇う傭兵を含めれば兵は五千にまで膨れ上がり、多くの人が住む地となっていった。


 そんな人とモノのの流れができればどうなるのか。人の行き交いを噂、情勢、動向といった情報も流れるようになる。その人の流れを利用した情報収集と調整には治部、管理に民部が大活躍してたらしい。


 そんな頻繁な物資と人の流れとただの監視にしては増えすぎた騎士団兵。

 今思えば戦争の兆候は十分すぎるほどあったし、過剰な成果は威嚇と警戒される理由として十分ではあった。


 ……勤勉な有能というのも問題ね。


 紅茶を飲み干しため息をつき、改めて思う。


 やっぱりこんな私について来る理由がさっぱりわからない。

 だからその質問は既に一度した事がある。そしてリナも答えてくれた。


「たしかに、私たちが兵を率いれば百分の一の兵でも勝ち、仕事をすればジャンヌ様の数十倍はこなす事でしょう。ですが私たち八衛長では十万の兵を率いる事ができても八衛長の誰もこの第四騎士団を率いる事はできません」

「どうして?」

「ジャンヌ様にわかるように言えば、勤勉で有能な私たちはその力を信頼され、評価され、居場所を感じたいのです。ですがその相手が誰でもいいわけではありません。ジャンヌ様だからついていくのです。仮に私が率いたとしても他七衛長は第四騎士団を離れていく事でしょう。……たぶん」

「…………」

「あぁ、私を見下す鋭い目、そして無言でも突き刺さる言葉。そんな無慈悲なお姿からたまに垣間見える虚をつく優しさ。あ、あと決断で大事を間違えない。そのすべてが有能な怠け者であるジャンヌ様の魅力なのです」


 …………うん。今思い返しても私を褒めると見せかけてただ自画自賛していたよね。

 それどころか怠け者と私をバカにしているよね。それがリナの評価に対する私の感想であり、私が団長を辞めたいという強い意思を持つ根拠でもあった。


 要は神輿は軽くてバカがいいという事。……私には神輿の価値も無いというのに解せない。


 自分を貶した終えた事で満足し、はぁっと大きく息を吐いて気持ちを切り替える。


「休憩は終わり。次はなに?」

「はい、すぐに!」


 リナはすぐさま目の前に一式を一瞬にして片付けて私に扇子を返すと、続いて村での駐留中に作ったらしい地図と資料一式が目の前の机に並べられた。

 さらに既に待機させていたらしい副団長のソルトと副部隊長のシャーロット、チャールズに加えて新顔に男五人も加わる。


 …………いつの間に?

 

 というのも今さらだと諦め作戦の話を始める。


「それは情報をお願い」

「コホン。それでは私から状況の説明を行います」


 そうリナが話しはじめ、地図に駒を置き、各動向を伝えていく。

 その情報をどうやって仕入れて、どう構築しているのか気になる所ではあるけれど、本題からズレるので言わない。


 目的はただ一つ。共和国連邦と帝国との全面戦争を起こさず、関所より東に留めて置く事。

 なぜなら帝国は北方諸国の略奪を追い払い、南のガイア帝国との戦いに力を使い、共和国連邦との全面衝突に対処するだけの体力が足りないため。加えて東側は近年の侵攻で征服した地。時は経っているとはいえ北方諸国からの略奪対処と所領の保障を条件に面従腹背しているだけの諸侯も多くいるから。


 そして現在、帝国の関所前に二万、南東の連合王国中央部に三方面で展開する計五万の共和国連邦の遠征軍がいて、ウガート城とその近くにある王都ガーネットからも数日の距離がある。

 ただし、共和国連邦の遠征軍は各城を掌握するために落とした王侯貴族は謹慎させていて、ウガート城のように戦わないまま降伏した城以外では既に処刑も行われている。

 さらに、ウガート城を落とした知らせはすぐに広まり同じ手段はとられまいと警戒もされている。


 大きな地図をもとにスムーズに駒を進めながら説明するリナの話はとてもわかりやすい。


「続いて私たち第四騎士団の動きです。駐屯時の兵力は五千。五部隊に分かれ、先行した第五部隊が南セトラ山を占拠、それを支援する第四部隊が後続として支援にまわり関所攻略を目指す共和国連邦の先発隊が交戦を開始。前線したものの敵勇将の存在もあって両部隊の部隊長は討死、部隊は壊滅しました。

 その間に四衛長を含む第二、第三部隊の計二千は村の民と共にほぼ撤退を完了し、関所の守備隊、アゼイリア騎士団とも合流。関所の守りを固めています。

 私たち第一部隊は、それら目立った動きに紛れて南方の山林を経由して敵の背後に周り、外壁に敵兵を集めて注意を引き付けるている間に城内部でガーネット王国兵が将を討ってウガート城を攻略。今に至ります。

 ただし、奪回したカーネット王国兵は疲弊しており、今も傭兵と王国兵が半々で城を守り、出撃して戦える兵はあまり期待できないでしょう」


 以上が駐留時からいくつか想定し、今回実行した戦略のひとつに対するリナからの報告だった。

 そして、過去の経過に対してこれからの作戦を議論し私が最終的な承認をする。それがリナの人材育成案でありいつもの流れだった。


 …………正直、私には時間を浪費するだけの無駄としか思えないけれど。


 始まるなり新顔たちは私の顔色を伺いながら必死に案を出す。ココから南セトラ山を目指し背後を強襲する案、難攻不落のウガート城で準備をして籠城する案、共和国連邦の地へ攻め込む案、そしてウガート城の攻略と同じ手段で王都ガーネットを落とす案。


 リナの苛立ちを隠した巧妙な笑顔に、私は思わず扇子を開けて口元を隠してため息をつく。


 …………今回も全員が落第かぁ。


 当たり前といえば、当たり前なのかもしれない。

 リナが求める最良は戦わない勝利、次いで確実な勝利なのだ。情報を駆使したリナが相手では、不確実な情報しか持ちえない新顔たちは負ける事が普通なのだ。


 それにしても、ワイワイしている姿をただ眺めているだけなら大丈夫なんだけれどなぁ。


 そもそも、そんなに焦らずに動かなくとも背後であるウガート城を落とした時点で当初のほぼ目的は達成されている。

 作戦を議論する目的は、ウガート城の人たちを見殺しにするか、逆に支援してガーネット王国再興を手助けするかの違い。別に私たちか主導で動かなくてもガーネット王国の再興を目指す者たちが勝手に動くのだから。


 逆に今ここで誰か第一部隊を解散させて意図が読めない不安を逆手にとる、なんて案を出してくれれば私が団長権限を使って即採用するのに。

 もっとも、そんな事をして帰還すれば物理的に胴と首が離れ離れになってしまうので、そのまま団長をやめてそのままさらに東の国へ行く。……というのも悪くないかも。

 いやいや、そもそも私は旅をする能力なんてないし、屋敷から逃げた最長距離がシルフィの家だったよ!

 

「ジャンヌ様、いかがなさいましたか?」


 リナの言葉に我に返ると、いつの間にか部屋は静まり返りみんなが私を見ていた。

 私は扇子で口元を隠しながら無言でリナを見返すと、リナは不服そうながらも頷いた。議論は煮詰まったらしい。手元の地図が既に原形をとどめていないほどに駒が動かされいた。


「そう。それではだれか結論をまとめてちょうだい?」

「それでは私が!」


 そう名乗り出たはソルトさんだった。張り切る姿を微笑ましく思いながら頷くとソルトさんは簡潔に答えた。


「はい。ガーネット王国は王都ガーネットを落とすために動き出し、帝国の支援を期待して私たちに援軍として頼む事でしょう。その態度と条件で支援か撤退を判断していただき、ジャンヌ様が各自が出した案から決断していただく。という結論に至りました」


 …………はぁ?


 さっきまでのあの議論からどういう経緯でそうなった。そもそも私はその案を聞き流していたから覚えていないのだけれど…………

 原形すらない結論にそうはならないでしょと思わずリナを見る。


「兵を大切にしたいというジャンヌ様のお気持ちに沿った案となっております。あとはジャンヌ様の意のままに」


 驚く私を満足そうに見て頭を下げるリナと苦笑いするシャーロットの様子からして導いた人が誰なのかは明らかだった。


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