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6-3

 シャーロット副部隊長は日の出とともにジャンヌ様の元へ行き、戻って来るなり部隊を移動して門から矢の届かない距離で隊列を整えはじめる。

 そして私はシャーロット副部隊長の傍に配置され、指示も整列も終えたところで目が合った。


「昨日の答えは出た?」

「いいえ、わかりませんでした」


 一晩考えてもわからなかった。そもそも水堀を越え、城壁も越えるには数も道具も足りていない。

 嘘をついても仕方ないので素直に答えるとシャーロット副部隊長はほほ笑む。


「私もだ。そして、その答えも先ほど知った。大人しくただ待つ。それだけ」

「…………ただ待つ?」


 言われるままに開戦の号令を待ち、構えてからほどなくしてだった。

 目の前の門がゆっくりと開き、掲げられていた共和国連邦の旗は次々とガーネット色で描かれたザクロの紋章へと変わった。


「え? …………えっ?」

「さすがジャンヌ様」


 シャーロット副部隊長が笑みを見せるとかけ声をあげる。


「城は陥落した! これより我らは連合王国のひとつ、ガーネット王国が奪回した城内へと入る!」


 言葉通りただ待つだけでウガート城での戦いは終わっていた。

 その結果に驚き思わず呟く。


「一戦も交えずに勝てるなら、南セトラ山で戦う必要なんてなかったんじゃ」

「それは違う」


 私の呟きにシャーロット副部隊長が遮り私を睨んだ。


「南セトラ山での戦いがあったから第一部隊はココへ回り込む事ができ、村民の関所へ退避と守りの時間ができた。そして、時間は戦況を変え、今こうして第一部隊が到着して敵兵を城外に注意を逸らした事でこの城が内部から陥落するに至っている。

 この結果、共和国連邦は背後に脅威ができ、関所の攻略は難しくなる。連合王国への攻勢にも目障りな存在となるだろう。つまり初手として必要な事だった」

「でも、そうだとしたら私は捨て石にされたという事ですよね?」

「たしかに捨て石と言えるかもしれない。

 ただ、その理由を考えなさい。必要な犠牲を拒めば勝てる戦いも勝てなくなり、守るべき国も、町も、人も守れなくなる。もっとも、夢は夢のまますべてを守ると口だけな一兵士でいたいのなら、私の言葉は的外れとなるけれど」


 そういうとため息つき、少しの沈黙後に門周辺を眺める。


「まぁ、今は私の言葉は上の者が考えた愚かな言い訳としか聞こえないかもしれない。…………ただ、私たちが戦っていないからといってココで戦いと犠牲がなかった訳じゃない」


 その言葉どおり門をくぐれば奪回した直後と思われる倒れた者や痕跡のあとはいくつも残ったままで、夜間に城内での争いがあった事はひと目でわかった。

 そんな、争いのあとの残る活気のない街中を進み、城門前の広場に辿り着く。

 そこには景色には不釣り合いな処刑台と、磔にされて亡くなっている人を降ろす光景があった。


「……あれは?」

「共和国連邦に降伏後、新たな領主によって見せしめとして殺された者を降ろしているのだろう」

「降伏したのにですか?」

「降伏したから、だ。降伏すれば殺すも殺さないもその相手が決める事。新たな領主がその地位を正当化するために前任のウガート公とその関係者を悪人に仕立て上げて殺す。己が大義を示す行動は別に珍しくもない。

 そして、今度は共和国連邦に手を貸していた者も同じ目……いや、生きて降伏したならもっと酷い目にあうかな」

「赦さないのですね」

「先に殺したのは相手だ。例え領民でも赦す理由はないだろ」


 わからなかった。いや、わかりたくないだけなのかもしれない。

 深く考えるのはやめ、そのまま城門をくぐった先にあった大きな広場で再び整列する。


「私の部隊は次の指示があるまでココで待機せよ。あ、そこの小娘(・・)はついてくるように」


 周りから小馬鹿したような笑いが漏れ、思わずにムッとしてしまいながらもついていくとシャーロット衛長が私の顔を見て苦笑いする。


「これから特別扱いする為にはあえて言っている。我慢しなさい」

「特別扱い?」


 その言葉は嘘ではなかった。

 その屋敷のひとつに入ると、簡単に部屋に入り身なりと整えさせられた。しかも髪型は女のコを強調する様にようにリボンを加え、服装は男性という奇妙な組み合わせ。


 ……特別扱いしなくても、ほとんどが断るんじゃ?


 とは言葉にしたら虚しくなる気がしたので言わないでおく。


「あの、どうしてこのような身なりにする必要があるのですか?」

「それはこれから説明する」


 そして、次のの部屋へと向かって待つと、ほどなくしてリナ衛長、ジャンヌ様が護衛も付けずに現れ、なぜなジャンヌ様が驚いた様子で私を見ていた。……て、村で出かける約束を果たせず別れたのが最後なんだから当たり前か。

 そして、リナ衛長の方はなぜか私をつまらなさそうにじろじろと見てなり頷く。


「……なるほど、適任ね。それでは私から説明を致します」


 リナ衛長があらたまった様子で咳払いした。


「ジャンヌ様はこれより連合王国のひとつ、ガーネット王国の公爵家、ウガート公のご子息にお会いしていただきます。ですが、連合王国は表では男、裏では女がそれぞれの地位を築く役割分担された複雑な社会。

 そのため今後の印象を考え、今回はジャンヌ様、ソルト副団長、シルフィに行ってもらう事に致しました」

「なぜシルフィなの? それならリナでもいいじゃない?」


 ……それは私が男だからです。


 真顔で質問するジャンヌ様に対して、リナ衛長は表情ひとつ崩さず答える。


「それはシルフィにはシルフという男役を演じていただくからです。残念ながら私もシャーロットも副部隊長として既に名を知られている可能性があります。しかし幸いな事に、シルフィは無名。加えてジャンヌ様とも面識がございますから」

「そうかもしれないけれど……」


 無名。誰も否定しない事に悲しくなったけれど、事実なのでそこは堪える。


「シルフィは男を演じた経験があり、得意だともシャーロットから聞いております」


 ……いや、演じるどころか本職なんだけど。


 とは言えなかった。


「言われてみれば私にも男と偽っていたような……。ならリボンは外した方がいいんじゃない?」

「失礼いたしました。さすがジャンヌ様です」


 リナが私のリボンを外し、なぜか納得したかのように頷くジャンヌ様。ココで男なんて言えばきっと外される。

 そして、城を奪還した主とジャンヌ様がどのような会談をするのかは、この理不尽を我慢する事以上に興味があったから。


「もちろん、ジャンヌ様のお供は男を二名と伝えております。もしも疑われたとしてもシルフィなら問題なくおさめる事ができるでしょう。ご安心ください」

「そ、そんな得意技が……」


 ジャンヌ様の私を見る目線は

 そして、ジャンヌ様の動きにひたすら合わせるようにという指示を受け、剣を身に着けたまま面会へと向かった。


 屋敷の女使用人に案内され、辿り着いたのは左右に兵士が守る扉前だった。

 開かれると大広間が見え、既に配下らしきモノたちが左右に並んでいる。


「騎士団の方々はその中央で跪き、お待ちください」

「ありがとう」


 言葉に従い、私はソルト副団長と共にジャンヌ様の後ろで跪き待機する。

 その間にも聞こえる左右からの囁きはジャンヌ様を値踏みするような言葉であり、視線であり、決して心地良いものではなかった。そんな居心地の悪い中で待ち続け、部屋が静まったかと思うと奥にあった席に座る気配があった。


「面をあげよ」


 どこか渋い声に従い、三人は顔をあげるとそこにはまだ幼い子どもが座っていた。

 しかも、そのそばには凛として立つ壮年の男性が私たちを見下すように睨み、好意的な印象はなかった。


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