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4-2

 城内も街も日に日に慌ただしくなっていく。そして、あの会議から三日後の事。

 サクラ騎士団に招集がかけられた。集まった騎士団をイリスが眺め、話し出す。


「朗報よ。これよりサクラ騎士団は先行して城外に出て戦う。先陣を任された事を名誉に思いなさい。

 指揮は副団長のクリスが執る。なお、アール、シルフィ、あなたたちとその配下の者は私についてきなさい」


 どうして私たちだけ?


 そう言いたくなる疑問をぐっと堪えて頷く。

 こうして、他の者たちがと共に準備をはじめ、馬に乗ったクリスの一団がなぜか北区側の門から出陣していくのを見送るイリスの後ろに立っているとちらりとこちらを見た。


 どうして私たちだけ……


 そう言いかけた所で後ろにノエルたちの事を思い出し、口を噤む。


「よく我慢したわ」


 イリス様は微笑んだが、別に褒められたいわけじゃない。

 城門を出た騎士団を見送り終えるとイリス様が振り返る。


「さて、私たちも行動に移る。ついてきなさい」


 そう言われて向かった場所には街から集められたらしい装備も揃わない大勢の兵士らしき人たちが集まる城内の広場だった。

 そして、演壇のところまで行くと、イリスが立ち止まって振り返る。


「アール、シルフィはついてきなさい。他の者はココで待機ね。あ、シルフィはこれを持って続きなさい」


 そう言って指さした先にあったのは白地に赤丸のついた旗だった。


「天の主神さまを表す日? にしては赤?」


 言われるままに旗を手にイリス様に続いて演壇に上がる騒めく兵士たち。そこから伝わる声は疑問視する声ばかりで歓迎も敬意も感じない。


 ……まるで目の前の者がすべて敵みたい。


 心配になってイリスの方を見るけれども気にする様子すらない。それどころか集まった兵士を軽蔑する目で見渡し。


「只今をもって私、サクラ騎士団の団長のイリスが総大将を務める。以後、私の命令をアルフォンソ伯爵の命令と思って従うように」


 そう澄んだ声で告げた。

 純白の衣装を身に包んだ少女の言葉に対して集められた兵士たちの多くが更に騒めく。半分は資質を疑う者で、もう半分はたかが少女に従えるかという者。そのどちらの声からもやはり好意や敬意は感じられない。

 そんな騒めきがおさまるまで待つとイリスはため息をつき、言葉を続ける。


「既に了承は受けている。以後、私に歯向かう者はアルフォンソ伯爵に歯向かうと心得て言葉になさい。それと私の資質を疑うなら私に従うこの者たちを一対一で見事倒してみる事ね。その勇気がある者は名乗り出なさい。名乗り出る勇気すらない雑魚なら大人しく従いなさい」


 イリスの挑発まじりの言葉に周囲は静まり返り、そして二人の男が手をあげた。


「北区、什長のダリウスだ。確かめさせていただきたい」

「東区、什長のギース。同じく試させてもらう」


 どちらも見事な体格の大男で、肉付きもいい。

 けれどもイリスは二人を見て興味なさそうにため息をついた。


「そ、無謀な自信は褒めてあげる。ちょうど二人だから……、後ろの二人のうち好きな方を選びなさい」


「なら、こいつの相手をしたい」

「なら、こいつの相手をしたい」


 そういって二人が近づき指さしたのはアールの方だった。


 まぁ、当然といえば当然だよね。私なんかまだ子どもだし、女ぽいし、華奢だし、勝ったところで……


 そうぐっと拳を握り堪えていると、イリスがまた溜息をついた。


「で、あなた達はどちらが強いの?」

「俺だ」


 そう自信を持って名乗り出たのは東区のギースの方だった。その返事にイリスが頷く。


「なら、あなたは旗を持つシルフィと相手なさい。そっちのあなたはアールが相手ね」

「ちょっと待て!」


 その一言にイリスは睨む。


「意見があるならシルフィに勝ってからになさい」


 その一言でどういうわけか、どうやら私はこの町一番の強者と相手をする事になってしまった。




 こうして向かった先は、エースやアールとも戦った闘技場だった。

 敵が迫っているというのに闘技場の観客席に集まっている。直属の兵が城を守っているとはいえ、その悠長さに驚きながらもイリスがアールとダリウスは闘技場の中心に立った。


「これより第五団伍長アールと北区什長ダリウスの対戦を始める。ダリウス、礼儀もルールは設けないから遠慮なく戦えばいいわ」

「わかった」

「アール、うっかり殺さいないように」

「承知しました」


 前回同様に丁寧に頭を下げるアール。頷くイリスとの間には信頼関係を感じ、余裕ある姿が羨ましい。


「はじめ!」


 その呼びかけと共に斬りかかる什長。

 が、次の瞬間にはアールが什長の剣を弾きとばし。


「斬り捨て御免!」


 と腹に足で蹴る姿があった。そして、什長はそのまま跪いて動かない。

 その圧倒的な差に周囲は静まり返り、イリスはため息をつく。


「はぁ、少しは見せ場を作れるよう手加減なさいよ。これじゃあダリウスが口だけの雑魚みたいじゃない。ただの事実だけど」

「それは命令になかったので」

「まぁいいわ。勝者、伍長アール」


 そのあまりにもかけ離れた実力差に会場は騒めいた。


「続いて、伍長シルフィと什長ギース。来なさい」


 倒れ込む北区什長はよろけながらも立ち上がり、二人が退出したところを入れ替わりのように入る。

 観衆からの刺さるような好奇に満ちた慣れない視線は否が応でも緊張してしまう。


「俺は、さっきの男みたいに間抜けな事はしないからな。女だろうが子どもだろうがこの場で、いたぶって、なぶり殺しにしてやる」

「うんうん、その意気込みはよし。シルフィは初めての実戦ね。こう言っている事だし間違いで殺してもいいわよ」

「え、初めて? な、舐めやがって!」

「あら、舐めるより足で踏みつけられる方が好みみたいね」


 キョトンとして私を見るギース。


「えぇ……」


 私はイリス様の言葉に思わず苦笑し、少しだけ緊張が和らいだような気がした。


「これより第五団伍長シルフィと東区什長ギースの対戦を始める。同じく礼儀も条件も設けないから好きに戦えばいいわ。はじめなさい!」


 その言葉と共に身構える。

 けれども先ほどの北区什長と違っていきなり襲い掛かってくる、事はなかった。

 私よりも明らかに大人で体格大きな男。見た目からは簡単に私を一捻りできるように見え、相手もそう思っているはずだ。


 イリス様が殺してもいいと言ったから? それともアールとの試合を見たから?

 いずれにしても、強さを証明するには勝たなければならない。


 イリス様の一言を思い出し、剣を握り直した直後だった。

 私の様子を伺っていたギースが走りだし正面から斬りかかる。その剣を振り上げた隙を突こうとして。


⇒かわす。


「ぅわっ!?」


 素早い振りに思わず後ろに距離をとった。

 そこに隙はなく、大振りしない軽やかな動きは見た目からの想像に反するもので、経験がなければ判断を誤っていたかもしれない。


「ほぅ……」


 一方で、一振り後に距離をとったギースも私に対して驚いたような呟きをした。

 その様子をみてイリス様がため息をつく。


「シルフィ、あなたは手加減をしなくてもいいのよ」

「な、手加減だと!」


 いやいやいやいや、最初から本気だよ!


 さっさと倒せという指示からして、イリスにはギースが隙だらけに見えているという事なのかもしれない。でも、私にはまだわからない。

 

 ただ勝つだけならエースのような奇策も一つの手ではあるかもしれない。けれど、衆人環視の中でそのような手段を見て周囲はどう思うか。そんな私にできる事は


⇒堂々と戦う

 奇計を使う


 それでも意思を貫く。


 素早く力もある相手に小手先の技では力で押されるだけ。なら。


 ……まずは迷いを絶つ。


 エースとの模擬戦で感じた事を思い出す。

 勝つ意思で前を見て、考えるより感じとり、判断より早く身体を信じて動く。


 ……迷うな。その一瞬の直感を信じるんだ。自分の、自身の。


 覚悟を決め、今度は私から走り出す。

 その一撃はあっさりと受け止められた。けれども続けて素早く二撃目を振り、相手の動きを見る


 隙は? 違う、見るの隙じゃなく変化だ。


 そう三撃、四撃と続けざまに打ち続けた直後だった。続けざまに振る私に対してギースが動いたのは。


「…………!」


 くる。そう認識するよりはやく身体の方が動いていた。

 その身体はギースの降る剣を間一髪でするりとかわし、意思と身体が一致した頃には既に一撃を与えていた。


「かはっ!」


 おそらく痛みで跪くギース。


 しまった。加減を忘れた。いや、でも……


 少しして立ちあがる姿に安堵して距離をとる。その直後だった。


「勝負あった。伍長シルフィの勝利」


 ……シルフです。


 イリス様の言葉が会場に響いた。


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