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体温が低くでも良い事なんてほとんど無い

作者: 琉慧

 時節は七月。 今年も早や半年以上が過ぎ、いよいよ夏がやってきました。

 先々週辺りから全国的に天候が悪く、私の住む地域も連日雨の線を拝む日々が続いており、気温もさることながら湿気の方もじわじわと上昇中のようで、まだ熱帯夜とまでは行かないですが、寝苦しい毎日をお過ごしの方も少なくは無いでしょう。


 高気温と多湿。 悲しいかな人間の身一つではその二つの悪環境をどうする事も出来ません。 しかしその環境をボタン一つで一挙に解決出来る利器を我々は手中に収めています。 ――そう、エアコンです。


 年々上昇傾向にある真夏の異常なまでの高温を乗り切る為、この空調設備をあえて利用しないという人はほぼ居ないでしょう。 そして今日こんにちの三十度に迫る高温にさらされて、ここ数週間の内にエアコンを解禁した人も多いと思います。


 ちなみに私も既にエアコンを解禁していて、今年初めてエアコンの冷房機能を使用したのは――四月前半です。


「早すぎるだろ」と思われた方、その思考は正常です。

「あ、その気持ち分かる」と共感された方、私と同じ体質をお持ちの方かも知れません。


 さて、ここまで長い前置きでお茶を濁しておいて、今回私が何を伝えたかったのかと言うと、私はとても体温が低いです。


「低いって言っても、36度前後でしょ?」と思われた方、その思考も正常です。 しかし私にとっては36度ですら微熱です。 何故なら私の平熱は34度台ですから。

 普段は34.5度前後、体温の高い時で35度に迫るか迫らないか、真冬では34.3度を記録した時もあります。


 調べてみたところ人間の平均平熱は36.9度前後と言われているようで、その平熱と私の平熱とを比べてみると、その差は2度以上。 普通の人より暑さを感じやすい私が四月という春先からエアコンを使用していた理由がお分かりになったでしょうか。


 まぁ何も平時からエアコンを使用している訳ではなく、室内で出来る有酸素運動やストレッチをした際に過度な発汗をうながさないよう一定の時間だけ冷房で部屋を冷やしていたというだけですが、平熱が低いという事は運動などで体温が上昇した場合、34度が35度以上になっただけでも身体が体温を下げようと発汗を促してしまうんです。 故に春先の肌寒い季節でさえちょっとした運動による体温上昇でも発汗を被ってしまうほど、私は暑がりで汗っかきです。


 暑がりで汗っかきと言うと、言葉は悪くなってしまうかも知れませんが一般的に連想されるのは『肥満』という二文字でしょう。 では私は太っているのか。 答えは、いいえ。 十数年前から身長に対する平均体重をやや下回る程度の健康的な体重を維持しています。 毎年の会社での健康診断の結果も入社時から9割A評価です。


 ならば何故そこまで平熱が低いのかと問われると、正直なところ私にも理由は分かりません。 もはや『体質だから』としか言いようがありません。

 子供の頃から寒さに強かった事は今でもよく覚えていますが、今もその体質は変化していないので、恐らく私は幼少期からずっと体温が低かったんだと思います。


 通常、低体温だと免疫力が低下し風邪に掛かりやすいだとかの身体的な問題が出てくるはずなんですが、私はほとんど風邪を引かないほうで、そのうえコロナ禍でマスク着用と手洗いが徹底された今日こんにち、風邪という症状はどこ吹く風だとのたまってしまうくらいにここ数年体調不良とは無縁でした。


 ――と言った風に、多少の暑がりと汗っかきの嫌いはあるものの、私にとって私の低体温はそこまで問題視するほどのものではありませんでした。 ひょっとすると、「一般の平均平熱をはるかに下回る低体温で難無く暮らしているなんて特異体質みたいで格好良い!」と思われる方も居るかもしれません。 ですが、そうした体質が持てはやされるのは創作の世界のみで、現実ではこの体質はほとんど良い事なんてありません。

「私、平温34度台なんだよ! ふふん」と自慢げに鼻を鳴らす事が出来るほど誇れる身体能力ならばいいんですが、如何いかんせん異常なまでの低体温ですから、「え? 体温34度台? 血通ってないんじゃないの?」といった風に冷然と気色悪がられる事はけ合いです。


 ならば先に私の言った『私の低体温はそこまで問題視するほどのものではない』という言葉は嘘だったのかと言われると、嘘でも何でもありません。 本当に私個人的には問題視していません。 個人的(・・・)には。

 ――そうです。 私の体質は、一歩社会に出た時が一番辛いのです。


 まず私は、エアコンの暖房が苦手です。 というか、嫌いです。 あの人工的に作り出された暖かさがどうにも肌に合わず、自室の気温が10度前後の真冬ですら暖房を付けないほど嫌いです(そもそも寒くないので付ける必要も無いのですが)。


 しかし外の施設では冬の時期はどこへ行っても暖房、暖房、暖房――乗る機会は一年に数度程度ですが、とりわけ冬の電車内は私にとって最悪の環境ですね。 頭がぼーっとしてくるほど車内に熱が籠って一秒でも早く下車したくなります。


 暖房も気温設定を20度前後に抑えていてくれればまだ我慢は出来るのですが、私の勤める会社で言うと大抵25度から26度辺りに設定されていて、あまりに暖房の熱がこもった時は仕事中に腕まくりすらしている時があるほど暑くて参っています。 一度30度設定にされているエアコンの操作盤を見た時は呆れて眩暈めまいさえ覚えました。


 意外と知られていないのか、エアコンの冷暖房の温度設定の意味を取り違えている人は多いようで、冷房ならば温度を下げれば下げるほど、暖房ならば温度を上げれば上げるほど、その温度に見合った冷風温風が出ると勘違いしている人が居るようですが、いくら温度を上げ下げしようが出てくる冷風温風の温度はほぼ一定で、あの温度設定は『そのエアコンの設置されている室内の空気温度が、設定した温度になるまで冷/温風を出し続け、設定温度に達したらサーモオフ(室外機を停止)させる』という意味ですからね。 例えば暖房の30度設定だと部屋の空気温度が30度になるまで温風を出し続けるという事になりますから、気温云々以前に私が呆れて眩暈を覚えた理由にも納得してくれたでしょうか。


 少し話は逸れましたが、いくら30度設定などという馬鹿げた温度設定をされていようとも、会社の暖房をいち社員である私の独断で切る事は出来ません。 よっぽど室内が暖まった時は上司の誰かが気を利かせて切ってくれる時もありますが、私の勤める会社の事務所内はどうも寒がりの人が多いらしく、私が暑いと感じる室温は他の人たちの快適な室温のようで、冬の間に暖房が切られる事はほぼ無いに等しいです。


 しかし夏ならば逆に冷房が効かされて快適になるのではと思われるかも知れませんが、ここでも例の寒がりの人たちの声を優先しているのか、明らかな高温多湿なのに冷房が付いていない時があるのです。 暖房の時と同じく、いち社員の私が勝手に冷房を付ける訳にもいかず、そういう時は電源式の卓上扇風機で何とか発汗を抑えている始末です。 それさえも温風を掻き回しているだけでお世辞にも涼しいとは言えませんが。


 先述した寒がりの人は、きっと一般の平均平熱を持つ人なのでしょう。 だから多少の気温上昇にはさほどこたえない一方で、冷房による気温下降や冬の季節に弱いのだと思います。 まったく私と真逆の体質という訳ですね。


 体温がたった2度違うだけでこれほどまでに気温のさらされ方に影響があるとはあまり考えにくい事ですが、人間より平熱が5度ほど高い一般的な鳥類が温暖に強く寒冷に弱い体質を持つところを見るに、きっとそのたった2度程度の差異でもここまで気温の曝され方に多大な影響が出るのでしょう。 同じ人間なのに不思議なものです。


 そして、人間の体温を左右するのは何も気温だけではありません。 食事をしている時、人間は大きく体温が上昇します。 これは食べたものを消化し吸収する為に胃腸が活動を始め、その際にエネルギーを消費し体内に熱が作られて体温が上昇するという仕組みです。


 昔から言われ続けている、脳と身体を目覚めさせる為に朝食はしっかり摂ろうというあの教訓も、体温の低い朝に食事を摂って体温を上昇させ身体のパフォーマンスを最適に整えるという、そうした科学的根拠が背景にあるからこそ継続されてきたものなのです。


 しかし悲しいかな体温の低い私にとってこの作用は諸刃もろはつるぎになりかねません。 冬の季節の食事にはそれほど影響はありませんが、夏の季節の食事は本当に気を遣います。 お米やお肉などの一般的な食事でさえ食べ始めて5分ほどで身体に熱を覚え始め、食べ終わる頃には多少の発汗をこうむります。


 そしてこれがラーメンやお鍋などの熱々の食べ物、果てには香辛料入りの食べ物になるともう大変、食べ終わった頃には頭から水を被ったのかと思われるくらい後頭部がびしょ濡れで大惨事。 とても夕食の前にお風呂は入れません。


 あとは夏の時期に目的地への移動が徒歩の場合、5分程度の移動距離でも目的地に着いて足を止めた瞬間に汗が噴き出るなど、とりわけ私の低体温は夏の時期に厳しいです(酷暑日であれば低体温だろうが平均平熱だろうが関係なく同等の汗を掻くでしょうけれど)。


 昔は雰囲気を含めて夏という季節がたまらなく好きだったのですが、一歩外へ出れば汗という防ぎようのない生理現象が嫌でも付きまといますから、出来る事ならば年中冬であって欲しいと思うほど今は冬が好きです。 炎天下のなか外出した後に冷房の良く効いた部屋で身体を涼めるあの感覚は今でも好きなんですけどね。


 ここまで低体温のデメリットについてつらつらと書き連ねて来ましたが、低体温が如何いかにこの社会にとって暮らし辛いという事が分かっていただけたでしょうか。 唯一のメリットと言えば、寒さに強い事くらいでしょうか、本当にそれくらいしか思い浮かびません。 そのメリットさえも完全ではなく、0度近い気温だとさすがに寒さを感じますから、一般の人よりやや寒さに強いだけです。


 そして私の周りには私以外に低体温の方が居ないので、かなりかたよった意見になっているとは思います。 ひょっとしたら、低体温体質だけど寒がりだというかたもいらっしゃるかも知れないですね。 機会があればぜひ一度低体温体質を持つ人たちと意見交換をしてみたいものです。


 それから、今回こうしたエッセイを書かせて頂いて、一部の表現で寒がりの人を引き合いには出しましたが、別に平均平熱の人や寒がりな人を憎んだりさげすんだりする目的で書いた訳では無いので、そこだけはご理解いただけると助かります。 むしろ平均平熱の方々をうらやましいとさえ思っています。

 冷房が効き過ぎて「さむい!」と身体を震わせながら上着を一枚余分に羽織ったり脚に薄い毛布とか掛けてみたいですもん私。 真冬に事務所内で腕まくりなんて本当はしたくないんですよ! 絶対周りの人に「この人どんだけ暑がりなんだよ……」って引かれてると思います。

 もし皆さんの周囲にも普通の体型なのに暑がりな人が居たら「あぁ、この人もしかしたら低体温で暑がりなのかもな」と優しい目で見守ってあげてください。


 それにしても、私が結婚する相手を選ぶ時は出来る限り私と似た体質を持つ人を選ばないと、結婚した後にエアコンの使い方で喧嘩しそうで怖いです。

「なんでこんな寒いのに暖房付けてないの?! バカなの?!」

「さっむ! クーラー冷え過ぎ!」

 みたいない馬鹿げた言い合いから発展して離婚なんてしたくないですからね。


 ――などと心配しつつ、今日も私はエアコンのリモコンをおもむろに手に取り冷房を付ける。 設定温度は22度。 あぁ涼しい。 早く冬が来ないかしらと窓から見える山を見る。 夏らしい濃緑こみどりの葉に風が吹き、ゆらゆらゆらと揺れていて、つつましやかに聴こえてくるのは耳に久しい蝉の声。


 私の望む、冬の季節はまだ遠い。

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