第98話 クザン、面白い話を聞く
「そうそう、ノアだ、ノア」
その言葉にクザンはなつかしさを覚える。
同じ名前の別人かもしれない、そうは思うものの、こんな風に名前が上がる時点で《何かをやらかした人物》に違いない。
そしてまさにノアはそのようなことをしそうな人間なのだ。
彼が彼である可能性は、決して低くないと思い、耳を澄ませる。
男たちは話を続ける。
「確か若いやつなんだろ? というか、ほとんどガキだって聞いたぞ」
「十四だってよ。だが、亜人を多く引き連れてるらしい。そいつらが相当な手練でよ。冒険者組合でもかなりの成果をあげてるらしいぜ。ついこないだ鉄級として登録したばかりだってのに、もう銅級に上がるって。このまま銀級かってくらいらしいが……まぁ、それは流石にしばらく先になるだろうな」
十四歳。
まさにノアの年齢そのものだった。
しかし、亜人を引き連れている?
そのようなコネが彼にあったとは少なくともオリピアージュ家にいた時には一切聞いたことがない。
公爵閣下も当然、知らないはずだ。
それなのに。
気づかれないようにそのようなコネを築いていた、ということだろうか。
あり得ないと言えないのが恐ろしいところだった。
そんなことを思いながら、クザンは続きを聞く。
「何でだ? そんだけ腕があって仲間も多けりゃ、あげてやりゃいいじゃねぇか。腕のいい冒険者が増えりゃ、魔物の被害だって減るし、素材だってたくさん入ってくる。俺たちにとってもいいこった。まさか若いからって冒険者組合長の野郎が渋ってるとかか?」
「まさか。お前だってフレスコの性格は知ってるだろ。あいつは能力があれば年とか種族とかそんなの一切気にしないぜ」
どうやら、この街ミドローグの冒険者組合長は実力主義者らしい。
冒険者組合の責任者というのは性格が大きく分けてふたつに別れる。
権力に阿るタイプか、実力主義者かにだ。
どちらが正しいのかは一概には言えない。
オラクルムではむしろ前者こそがうまくやってくには必要なタイプだろう。
ただこの国では実力主義者の方が好感度が高そうだ。
クザンとしても、そちらの方が好きだった。
「だったらなんでだよ」
「そりゃお前、開拓村の村長になったからじゃねぇか」
開拓村の村長。
その単語は先ほども聞いたが、一体どういうことなのだろうか。
詳細が知りたいが、その辺りについては男たちも知らないようで話題には出てこなかった。
ただ、色々と今のノアについての推測を語る。
「あぁ……忙しいから冒険者稼業に精を出してる暇がなくなったってことか。それなら納得だな……」
「そういうこった。で、今度その開拓村での仕事について、募集が出てるからな。お前が申し込むかどうか、気になってよ」
先ほど話していた本題だろう。
どうやらノアというか、その開拓村は職人を募集しているらしかった。
内容の詳しいところは分からないが、開拓村というのはどんな国でもいつでも人手を欲している。
しかし、そのような募集に率先して応募する人間というのは少ない。
間違いなく過酷だからだ。
すでに発展している村で、安泰な生活をする方がいいからだ。
それなのに、この男はあえて応募について話題にしている。
どういうことなのだろうか。
その点について疑問に思ったらしい、もう片方の男は尋ねる。
「なんだよ、お前は興味があるのか? だったら申し込めばいいだろうが」
「いや、そうなんだけどよ。結構条件が厳しそうで……ただ、一緒に申し込んでどっちかが入れりゃ、補助に一人くらい連れてくくらいはできそうだからな」
「お前、確率上げるために俺を出そうって魂胆だったのかよ」
「別にいいだろうが。お前にとっても悪い話にはならねぇはずだぜ? 何せ、参事会が率先して募集してる仕事だからなぁ。うまくやりゃ、参事会お墨付きの大工やら鍛冶屋やらになれるってもんよ」
どうやら、この男の目的はそこにあるらしい。
確かにこの街ミドローグの参事会に覚えがよくなれば、その後の職人としての生活は安泰だろう。
失敗しても最悪構わない。
それくらいのつもりなのだろう。
だとしたら納得だった。
ただ、どうして参事会がそこまでノアに肩入れしているのか。
これについてももう片方の男は気になったらしい。
「ノアは参事会にコネでもあんのか?」
そう尋ねた。
これはクザンにとっても知りたい質問だった。
これに相手の男は答える。
「あぁ、細かいことはわからねぇが、カタリナ様と懇意らしいぜ。ま、今は開拓村の村長だが、そもそも冒険者だからな。多分、依頼で繋がりが出来たんだろう」
なるほど、そういうことも冒険者にはありうるか。
しかもノアだ。
彼なら、何の気無しにそのようなことをやらかしそうだ、とクザンは心から思う。
ただ、もう片方の男の方はそこまでではないようだ。
少し怪しみつつ、
「そこでうまくやって開拓村の村長の地位までもらったってか? 十四の癖にやり手すぎるな……」
「なんだよ、怪しいってか?」
ただ、男のそんな声に、慌てて首を横に振った。
「違ぇよ。羨ましいと思ってよ。ま、だけど参事会の肝煎ってんなら、受けても悪いことはなさそうだな。落ちたところで別に失うものがあるわけでもなし、一緒に玉砕するか?」
「おっ、その意気だぜ。よっしゃ、前祝いだ! 親父! こっちに酒を!」
そうして、男たちはさらに酒を注文する。
この辺りがいいところだろう。
そう思ったクザンはそこで席を立ち、精算して酒場を出たのだった。
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