第96話 クザン一行、ミドローグに到着する
「……ここがミドローグか。辺境の割に結構賑わってるし、発展しているみたいだね?」
クザンがそう呟くと、隣に立つドワーフの少女、メリクーアも唖然としながら、
「あぁ……すごいもんだな。それに亜人たちの表情もオラクルム王国とは全然違ぇな! やっぱり、ユリゼン連邦はいい! ここにずっと住まねぇか!?」
そんなことを言った。
オラクルムでは中々見ることのできなかった屈託のない表情で、彼女にとってあの国があまりいい国でないことがよく分かりなんだか申し訳なく思ったクザンである。
もちろん、オラクルムが普人族至上主義なのはクザンのせいなどではないが、彼もまた国側の人間に他ならない。
だから、あの国の亜人に対する扱いが悪いことに責任がないとは言えないからこその気持ちだった。
しかしそんな気持ちを顔に出すことなく、クザンは答える。
「それはちょっと出来ないかな。僕はそもそも友人を探してるんだからさ。メリクーア、君はここに永住したって構わないよ? ドワーフの職人なら永住権も容易に手に入るだろうし」
別れるのは寂しいが、そこまで気に入ったのなら、と思っての言葉だった。
これにメリクーアはめんくらったような表情で言う。
「そ、そうなのか!? オラクルムじゃあ、街に十年住んでもそんなもんくれなかったぞ」
この台詞に驚いたのはクザンの方だった。
「ええ、そんなにひどかったのかい? 流石にオリピアージュ公爵領じゃそんなことはなかったんだけど……」
確かに、オラクルムは亜人には極めて厳しいが、それはいわゆる《役に立たない》亜人に対してだ。
ドワーフについては鍛冶や工芸など、手先が非常に器用で、そのために比較的手厚く扱っている。
また非常に厳しい移動制限などもあったりするが、それでも突然国の外に出て行かれたりしないようにさまざまな施策をしていると聞いた覚えがあった。
あれはオリピアージュ領に限った話だったのだろうか。
そんなクザンの疑問に、メリクーアは答える。
「私が住んでたのはエルミス伯爵領だぞ。オラクルムのドワーフの多くはあそこにいるからな!」
「あぁ、鉱山業が盛んだし、鍛治も同じだからドワーフが多いとは聞いていたよ。なるほど、あそこが君の故郷?」
しかし、彼女は首を横に振って、
「いや、私はウェブラ侯爵領の方だ」
そう答えた。
クザンはなるほどと頷いて言う。
「そっちはオラクルムの鍛治組合本部があるところだったね……そっちは割といいところだったと思うんだけど、どうしてエルミス伯爵領なんかに?」
「修行だよ。ウェブラ侯爵領の方でも鍛治仕事はたくさんあるけど、そっちは大抵、魔導剣とか魔導鎧とか、かなり複雑で高度なもんばっかり作ってる。普通の腕のドワーフじゃ、いても戦力にならねぇんだ。だからよ」
「でも君、結構な腕じゃないか」
彼女の腕を、クザンは旅の最中、街の鍛冶屋を借りて見たことがあった。
けれど彼女に取って、自分の腕はまだ納得のいくものではないらしい。
メリクーアは言う。
「私くらいじゃまだまだ。まぁ、普通の鍛治の方は親方連中と比べても結構出来るようになったとは思ってるけどさ。魔術を武具に練り込んだり刻んだりするのはな」
「そういうものなんだ……やっぱり職人の仕事は一日にしてならずってところかな」
「そういうことだな。で、そんな私でもこの街の永住権とか貰えんのか?」
本題に戻った彼女に、クザンは頷いて言う。
「多分大丈夫だと思うよ。君の腕は道すがら見せてもらったけど、普人族なら間違いなく一流どころだからね。これはどの国に行っても変わらないだろうさ。超一流のドワーフたちの名工の腕がおかしいだけさ」
神業とか、そのレベルに至っている者をこそ、ドワーフの名工と呼ぶ。
オラクルムにも数えるほどしかない。
メリクーアはどうしてかそこが基準になっているので、自分の腕を卑下してしまうのだろう。
「へぇ、そうなのか……。じゃあ、この街に永住するかどうかはともかくとして、鍛治組合に行って仕事をくれねぇか、ちょっと頼んでみるかな。稼げそうだし。クザンもしばらくここで友達、探すんだろ? その間、路銀に困らねぇようによ」
この言い分に、クザンは苦笑する。
この旅の最中、メリクーアはずっと、クザンの懐具合を気にしてくれていた。
彼女がとても大飯ぐらいで、最初の方はクザンが青くなるほどだったため、それなら鍛治仕事でどうにか埋めようとして始まったことだったが、もうその時の損失はすでに全て返ってきている。
それなのに、彼女はクザンに恩を感じているからか、やめないのだった。
「だから、僕の分まで稼ごうとしてくれなくてもいいんだけどね。そこそこ、路銀はないではないんだ……まぁ、懐があったかいというほどでもないんだけど」
「いいから遠慮すんなよ! あんたと私も友達だろ? その友達を探すんだから、私も協力して当然なんだからよ!」
これは少し言ったくらいでは引かないな、と察し、とりあえず今のところはいいかと仕方なく、クザンは言う。
「うーん……まぁ、そういうことなら」
「よし、じゃあ私は鍛治組合に行ってくるぜ。場所はその辺のやつに聞けばわかるだろ。あんたは?」
「僕はとりあえず酒場にでも行くよ。でもその前に、まずは宿を取っておこう。それほど高くないところをね」
そうして、二人は宿を探しに、ミドローグの街を歩き始めたのだった。
「おっと、そうだったな」
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