第94話 人工精霊の地
「……そんな馬鹿な。僕はこれでも数百年もの間、ここで邪神として崇められてきた存在だよ? そんな僕を君ごときが……」
フォルネウスが頭を抱えながらそう呟く。
どうも契約を結んだ影響で嘘をつきにくくなったのか、言葉遣いというか、俺の扱いが若干悪くなった。
普通なら腹立たしい、と思うかも知れないが、俺としてはなんだか面白く感じてしまった。
なぜなら《従属契約》技能の効果が見れるからだ。
やはり、完全な意思の支配とかではないようだ。
さらに検証を進めるため、俺はフォルネウスに質問をする。
「お? もしかしてそれが地か? さっきまでは大分、猫を被っていたようだな……あぁ、悪い悪い、キャスのことどうこう言ってるわけじゃないって」
猫を被っている、辺りでキャスが不服そうにバリバリと俺の肩で爪を研ぎ始めた。
彼女はあくまで《魔猫》であり、通常の猫とは違う。
したがって慣用句的に使われている猫とも厳密には違うが、しかし同じ単語を使っていること自体は間違いなく、だからこそ悪い意味で使われてそうだと理解して抗議してきたのだろう。
俺の謝罪の意図を理解してか、すぐにキャスはやめてくれる。
こういうところが可愛いというか、いいやつというか、俺の相棒だな……。
そんなことを考えていると、フォルネウスが恨みがましい目で俺を見つめて、
「……なるほど、君もそこそこ僕のことを怪しんでいたのかい? だからこんな罠にはめるようなやり方で、契約を……?」
「いや、そういうわけじゃない。むしろ俺は気を遣ってたくらいだ。この技能、使いにくいというか、ちょっとしたことでも結ばれてしまうから、出来る限りそうならないように気をつけてるんだよ。でも、お前の場合自分から契約を結ぼうなんて言うから。そういうところ、間違ったご神体を持ってく信徒に似てしまったんじゃないか?」
ちょっとうっかりさんな邪神様と、その信徒たち。
そう思うとフォルネウス教もなんだか少し可愛い集団に思えてくる。
実際にはユリゼン連邦全土に向けて急激に規模を広げる、テロも辞さない凶悪な集団なのだが。
そもそも、このフォルネウスと関係があるのかどうかもまだ微妙だし。
俺の言葉にフォルネウスはため息を吐いて、
「……返す言葉もないね……。やってしまったよ。解く方法がないって言ってたけど?」
「あぁ、正確には分からないんだがな。一応、そういう方法があるなら知っておいた方がいいと思って試したことはあるんだが、結局出来なかったんだ」
コボルトたちに対してやってみたのだ。
彼らは俺に対し、力で一度敗北しているから、契約が解かれたところでいきなり逆らってきたりはしないだろう、と思って。
キャスもその意味では俺に襲いかかると言うことはないだろうが、キャスの方が強いからな。
もしもの時のことを考えると、コボルトたちで試すのが最善だったのだ。
しかし結果として全く方法が分からなかったので、どっちで試そうと同じ事だっただろうが。
「……はぁ。結ばれてしまったものはしかたがない。解く方法がないというのも……今後探すつもりはあるかい?」
「今のところ、困ってないし積極的に探そうとは思ってなかったが……」
「そこをなんとか頼むよ。探してくれ」
《従属契約》を結んだ状態で、それでもそこから逃れたい、と思うくらいには意思はしっかりある、というわけだ。
これが人工精霊であるフォルネウス特有なのかどうかは他で試さないと分からないが、こういう例も存在するというのが分かったのは良かった。
「そんなに嫌か……まぁ、当然と言えば当然か。でも俺に協力するつもりはあるんだろう? おっと、これには正直に答えてくれ。命令だぞ」
命令だ、と言ったことである程度の強制力が従属相手に働くと言うことはすでに試している。
実際、フォルネウスは不服そうではあったが、答える。
「……ちゃんと協力するつもりはあったさ。ただ、村が出来て、規模が大きくなったら皆に信徒になって貰おうと思ってただけで」
「なるほど……そんなにあくどい感じでもないな? 最初から俺がそうするって言ってることじゃないか」
「口ではそう言ってたって、為政者というのは過度に宗教を広められたりするのは嫌なものだろう? いずれ反故にされるかもしれないと思ってた。でも今は君に協力して、信頼を勝ち取ろうと……」
俺に見せていたよりも、少しばかり現実をよく分かっているらしかった。
世間知らず風だったのはあえての演技の部分が多かったのかな。
それを考えるとこのフォルネウスという奴は……。
「そこそこ強かなやつってことか。まぁ……それくらいならいいかな。俺も人のこと言えたもんじゃないし」
俺がそういうとフォルネウスは少し驚いたような顔で、
「君は騙そうとしていた僕を許すのか?」
「許すというか、別に信頼し合ってたわけでもないんだからいいだろう。契約結んで、お前は俺に逆らいがたくなっているわけだしな。これから仲よくやって行ければなおさらさ。まぁ、お前は不服だろうが」
「……ここで僕がそんなことはない、と言っても信じないだろうが、君にならやっぱり、ついていってもいいのかもしれないな。でも、その代わり布教のことはよろしく頼むよ。僕は信徒の力がなければ存在していられないんだ」
「あれ? あの依り代に入っているって言う魔石で存在できてるんじゃ?」
「それは事実だけど、これからもずっとってわけじゃない。たぶん、もう一、二年ってくらいだったよ。そこに君たちが来たから……機会を逃すわけにはいかなかったから、色々とね」
「なるほど。分かった……まぁ、何はともあれ、これからよろしくな」
「あぁ、改めてよろしく頼むよ、ノア。今度は心からね」
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