第9話 名前と技能借用
「……よし、決めた。お前の名前はキャスパリーグだ!」
「にゃっ!」
子猫を抱き上げながら俺がそう言うと、子猫……キャスパリーグは同意するように一鳴きした。
この名前の由来は、古い時代に王国に凶事を齎したとされ、また精霊の現身だったとも言われる伝説の大猫の名前からだ。
普通の猫につけるには些か不吉に過ぎるが、今の俺の置かれた立場と、この子猫の正体……魔猫であるということを考えると、むしろ適切なのではないだろうか?
他にも色々と考えたのだが……シロとかタマとか安易かつ単純な名前しか浮かばず、他にいいのがなかった。
一応、子猫……キャスパリーグにいちいち尋ねてみたりしたのだが、このキャスパリーグ……長いな、キャスでいいか……にも好みがあるらしく、やっと反応してくれたのがこの名前だったのだった。
「普段はキャスって呼ぶからな。いいよな?」
「にゃにゃっ!」
「よし!」
お互いに納得したところで、再度、《カード》を見てみる。
すると……。
「おっ、やっぱり反映されているな……神様が見てるってのか? 信用できないが……けど、《神の頭脳》とか、それに近いものはあるんだろうな……」
名前:キャスパリーグ
性別:雌
種族:魔猫(幼)
称号:ノアのペット
根源技能:《魔猫2》
派生技能:《火炎吐息2》
一般技能:《風属性魔術3》《水属性魔術2》《猫闘術3》
大体こんな感じだ。
それぞれの技能とか称号については一応タップできるが、いずれについても概ねの内容は分かっている。
ただ一つ気になるのは《猫闘術3》で、これだけタップしてみると………
猫闘術:猫による猫のための猫の闘術。
としか説明が出てこない。
ふざけている。
俺の身につけている剣術とかだともっと詳しい説明が出るのだが……。
まぁ、魔物の技能とかはこんなものなのだろうか?
こんなことなら、モンスターテイマーなどに見せてもらっていればよかったな……。
《カード》の記載は基本的に生死に直結して来るので、よっぽどでなければ他人に見せることはない。
どうしても見せなければならなくても、名前部分だけを表示させ、他の部分は非表示にするということが行われている。
そういうことが出来るのだ。
称号についても非表示にするのは、特に貴族にはありがたくない称号がついている者が少なくなく、ここを表示させると身分証明を求めて見せてもらった方が危機に陥るということもありうるからだ。
例えば……城の門番がとある貴族令嬢に《カード》の提示を求めたのだが、慌てていて称号の部分が表示されたままになっていた。そこにはこう記載してあった……《壁の華》《行き遅れ》《お局》……。称号は他人の噂話などでも一定程度広がると、そこに表示されてしまう。従ってそんなことが起こるのだ。これを見てすぐに危険を悟った門番は慌てて、しかしゆっくりと顔を上げると……その令嬢の顔は悪鬼羅刹のごとく殺気を帯びていたという。一歩間違ったら殺されていた、とはその門番の言だ。ただし、そういうことにはならず、常識も弁えていた令嬢だったので、自分のミスを認め、何事もなかったように城に入っていったという。
ちなみにこの話には後日譚があり、そのような令嬢の行動が門番によって広められた結果、我慢強く、またそれでも自制心を失わない出来た令嬢として知られるようになり、とある伯爵に婚約を求められ、そのままめでたく結婚となった。
当然、不名誉な称号は全て失われ、今では異なる称号がついているだろうが……流石にその時以来、気をつけているのだろう、全くその称号は広まっていないのだった。
まぁ、そんなことがあるから《カード》というのは取り扱いに気を遣わなければならない。
俺の場合だって似たようなものだしな。
《聖王》なんていう技能があるせいで、高位貴族の生まれであるにもかかわらず、こんな森の中で猫一匹とサバイバル生活を送る羽目になっているのだから。
……意外と今のところ快適というか、楽しくはあるけれど。
キャスは可愛いし、食料も問題ない。
ゴキブリは最初辟易したが、正直焼いた後のそれは香ばしくて結構美味だった。
エビに似た味がして、まぁ食えなくもないというか、ずっと食い続けてもいいくらいだ。
それでも数が確保できるか不安だったが、キャスがちょろちょろと洞窟の奥の方で確保してくれているのでむしろ余裕がある。
多分この森で結構な数、繁殖している虫なのだろう。
毒の不安もないではないが……俺もキャスも全く腹は壊していないし、体に不調もない。
だから問題はないはずだ……。
「……さて、キャスに名前もつけたところで、次は俺の方だな。《従属契約》じゃ、従属相手の技能を借りられるって話だったけど……色々試してみるか」
そう思って、まず使い方から考えてみる。
とりあえずは《カード》だ。
そう思って、色々な部分をタップしてみると、キャスのステータスの表示、その中でも技能の部分を長押ししてみると、技能自体の説明ではないものが表示された。
「……ええと、『このスキルを借用しますか?』はい、いいえ、と……とりあえず、はい、にしてみるか……」
怖いから、様子見に、いいえ、を押して他の技能でも出来るか試すというやり方もあっただろうが、俺は割とせっかちな方だった。
それにあくまでも借用する、だから、返せるんじゃないか?という期待もある。
じゃなければ別の表現になるだろうしな……。
だから大丈夫なはず。
そう自分に言い聞かせつつ、どんな変化が訪れるか待った。
すると……。
「おっ? こ、これは……」
ふっと、頭の中に今までの自分には決してない、知識……のようなものが流れ込んでくるのを感じた。
なぜ、ようなもの、なのかといえば、言葉に出来るようなものではなかったからだ。
どういうことかというと、例えば……そうだな、歩き方、とか、走り方、とか座り方、とかそういうレベルでのやり方、というものが自然に理解できる感覚が得られたというか。
そんな感じなのだ。
そしてそれは何についてなのかというと……。
「ちょっとキャス、少し離れてくれるか?」
俺がそういうと、キャスは俺の背後にささっと避けた。
よく言葉を理解しているな……やっぱり魔物だから普通の猫より賢いのか?
まぁ、普通の猫は猫で言葉を理解してるなって思うときは結構あるから、似たようなものかもしれないが。
それは今はいいか。
今は検証だ……。
俺はそして、力を入れる。
どこにか。
腹と、喉にだ。
「行くぞ……《火炎吐息》!」
すると、俺の腹から熱気が上がってきて、ついにそれは俺の口の中から、ぼうっ!と吐き出されたのだった。
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日刊表紙は厳しいのかな……。
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