第87話 ノアの立場
これは俺にとって渡りに船で、ただ俺の望みが受け入れられるかどうかは謎だったから、とりあえず少しずつ聞いていくことにした。
「……欲しいものというが、どのくらいのものまでなら可能なんだ?」
俺の言葉にカタリナは意外そうな顔で、
「あら? てっきりまた、何も要らないって言うかと思っていたのだけど」
と言ってくる。
実際彼女を以前助けたときはそう言っていたから、今回もそうなる可能性を考えていたのだろう。
俺も今抱えている問題がなければ、確かにそう言っていたとは思う。
だが、背に腹は代えられぬというか、必要な望みを叶えられる絶好のチャンスを得られたのに使わないと言うのも違うだろう。
俺は決して業突く張りのつもりはないが、何の欲もないと言うわけでもない。
欲しい時には、しっかりとそう言うのだ。
だから俺はカタリナに言った。
「あの時は本当に欲しいものがなかっただけだ。今回はちゃんとあるからな……で、どうなんだ。俺の質問に対する答えは?」
つまり、どこまでの願いなら叶えてくれるか、と言う点についてだな。
これにカタリナは少し考えて、
「まぁ、あくまでもこの街ミドローグの都市参事会が与えられる範囲のものになるから……爵位とかは無理よ。お父様だったら可能だけどね。一番分かりやすいのは、金銭になるかしら。他には魔道具とか、あぁ、地位とかは別に要らないわよね?」
「地位というと……?」
「あら、これも意外ね。興味があるの? そうね……参事会員の地位とか、都市官吏の職とか、どこかの村の村長とかかしら? どれも貴方には……」
意味がないものよね、と言いかけたカタリナだったが、俺は俺にとって都合の良さそうなものがそこにあるのを理解する。
だから言ってみた。
「そうでもないさ。どこかの村の村長っていうが、それっていうのは……今は存在しない村の村長の地位とかでもいいのか?」
「え? そ、そうね……開拓村の村長とかってことかしら? まぁ、それくらいなら可能というか、簡単ね。そもそもミドローグ周辺の土地については開拓は奨励されているもの。自ら開拓した土地についてはその村の所有として扱われるし。街道使用料とか、その辺りの税金については払ってもらう必要があるけれど、これについてはある程度開拓がなされるまでは無税なのが慣例よ……って、ノア、貴方まさか本当に……?」
「開拓扱いになるかどうかは分からないが、今回、グライデルがスケルトンの隠し場所に使ってた村あたりの土地を貸してくれないかと思ってな。出来れば譲り受けたいくらいなんだが……」
「なるほど、それで村長の地位なんかを聞いてきたのね。でも、どうして? 住む場所ならここでいいじゃないの」
「いつまでもカタリナの世話になってるわけにはいかないだろう。それに、色々とやりたいことがあるからな。魔道具や魔術の実験とかさ。そうなると、流石にミドローグの街の中でやるのは危険だし、ああいう少し離れた場所に使っていい土地があれば便利だろうと思って。他には、犬獣人たちに走り回れる森が近くにあった方がいいかな、とか色々とな」
どうも言い訳っぽい言い方になったな、とは思いつつも、しかし言っていることはいずれも本気だ。
カタリナは俺の話を聞き、ほっとした様子で、
「じゃあ、別にミドローグの街から出て行きたいとか、そういうわけじゃないのね?」
と尋ねてきた。
なるほど、彼女としてはそれが心配だったわけだ。
俺はカタリナにとって、ちょうどいい頼み事をするのに役立つ冒険者だ。
それが急にいなくなると困る、というところだろう。
だから俺は言った。
「もちろんだ。せっかくこの街で冒険者になって、依頼を受けて金を稼げるようになったんだ。それに、カタリナとも知り合って仲良くなれたんだし……いきなり出て行きたい、とかは思ってないよ。この街と、あの村の両方に拠点を置きたい。そんなところかな」
どちらも行き来しつつこれからやっていく。
それが理想かなと思う。
ノーマルコボルトたちも含めると人数が多すぎるというのもあり、俺がいない間に彼らをこの街に置いておいて、何か問題が起きたら怖いというのもある。
その点、あの村を拠点にして置けるなら、そうそう何か起こるということもないだろう。
出現する魔物も《煉獄の森》とは雲泥の差だし、彼らだけでも十分に対応できるはずだ。
俺の話をここまで聞いて、カタリナは納得したのか、少し考えてから言った。
「……分かったわ。そういうことなら、あの村……確か、アジール村って言ったわね。あのあたりの土地の使用権を貴方への報酬としましょう。ミドローグの自治権の範囲内だから、普通に貸すことができるはずよ。譲渡については……一応、貴方を開拓村の村長という立場にすることで最終的には貴方に帰属するように出来るよう手続きを進めていくわ」
「そんなことが出来るのか?」
「この国というか、この州は元々は貴族制だからね。私は爵位を与えることはできないけれど、開拓した土地は開拓した者のもの、という価値観は今も生きているの。細かな法律上の手続きは色々とあるけれど、その辺りはこっちの方でなんとか出来るから、大丈夫なはずよ。それでいい?」
「あぁ、もちろんだ。頼んだよ、カタリナ」
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