第81話 屋敷での話
「それじゃあ、尋問の内容を話すわね」
カタリナの屋敷、つまりは今の俺たちの寝床に戻ってくると、カタリナが待っていて、早速といった様子でそんなことを言った。
彼女の膝の上にはキャスが体をだらりと広げて甘えていて、魔猫としての威厳の一切がない。
まぁ、そもそも魔猫といってもまだまだ子供なのだから当然と言えば当然なのかもしれないが……人なつっこすぎないか?
そもそも俺と《従属契約》を結んでくれる位なのだから、かなり酔狂な魔物であるのは間違いないだろうが。
コボルトたちについては力を示した上でのことだが、キャスについては違うからな。
そうそう《従属契約》といえば、俺の技能に変化があることをついさっき《カード》で確認したのだった。
出来れば戻り次第、それを確認したいと思っていたのだが、この様子だと一旦お預けのようだ。
仕方が無いと俺はカタリナの近くに腰掛け、
「……ありがたい話だがいいのか? 街の秘密に属する事柄になりそうだが」
そう尋ねた。
「まぁ、それはそうね。でも今回の一件で最も貢献してくれたのは、ノア、貴方で間違いないもの。知る権利があるわよ」
「その真意は?」
「色々厄介なことが分かったから、全部話して巻き込んでおきたいのよね」
「正直にありがとう。その方が信用は出来るからいいけどな。で、何が分かった?」
「あの後、街に運んだ魔術師組合長、グライデルを魔封じの牢獄に閉じ込めて拘束したわ。あっ、この白い縄、返しておくわね」
「おぉ、すまないな」
「いいのよ。むしろこれの効果に他の参事会員たちが驚いていたけど、適当にぼかしておいたから、余計な詮索されることないわよ」
「……気が利くことで」
「いえいえ。で、続きね……グライデルが目が覚めてからの話よ」
*****
「う……こ、ここは……?」
魔封じの牢獄の中の饐えた匂いが気付け薬になったのか、魔術師組合長グライデルは頭を振るいながらゆっくりと目を開いた。
すると彼の視界に細い女性の足が入ってくる。
誰のものかと視線を上げていくと、そこには見覚えのある顔があった。
「……カタリナ嬢。そうか、私は負けたのか……」
無念そうであり、また同時に深い納得の籠もったような声だった。
これをカタリナは意外に思う。
「もう少し罵られることを期待してたのだけど、負けを受け入れるのが早いわね?」
「それはそうだ。私が負けたと言うことは、つまりスケルトンキングが敗北したと言うことに他ならない」
「そうかしら? 私、結構逃げ足が速いのよ。うまく逃げたのかも知れないじゃないの」
「いいや、それは不可能だ。そもそも私はあのスケルトンキングに君の生命の奪取を最優先に命じていたからな。何があっても君の命だけは奪おうとしたはずだ。そして無尽蔵な不死者の足に、君のようなご令嬢の貧弱な体力で対抗できるはずもない。つまり、スケルトンキングは誰かに倒されたのだということにしかならない」
「……はぁ、認めるのも癪だけれど、流石、ミドローグとはいえ、魔術師組合長を務めるだけあって、その頭脳の冴えは相当なものね。まさにその通りよ。あの黒いスケルトンキングは倒されたわ」
「気になるのは、誰に、というところだな。やはりあの時の少年と犬獣人か? 何者なんだ。答えていただけるのかな?」
「答えてあげたいけれど、それは貴方の態度次第かしらね……あそこで一体何をやろうとしていたのか、まず先に答えて貰わなければ」
「ふむ……まぁ、そうだろうとも。ただ、概ねのことは分かるのではないかな? 私はずっと君と敵対していたのだから」
「ミドローグの主導権を握りたかったとでも言うの? それは分からない目的ではないけれど……」
むしろ、この街の主導権を争い続けた二人だ。
だからそれが目的、と言われれば一番納得が行くはずだった。
しかし、カタリナはそれに何とも言えないものを感じていた。
それがなんなのかうまく言語化できなくて考え込んだが、意外なことにグライデルが助け船を出すように言った。
「違和感を感じるのかね?」
少し驚いてカタリナは頷き、言う。
「……語弊を恐れずに言うなら、まさにその通りよ。貴方は……別にミドローグの主導権を握るのに、ここまで大それた事をする必要はなかったように思うの。私、自分で言うのもなんだけれど、十四の子供に過ぎないわ。後ろ盾はこの国、この州でも重鎮のお父様だけれど……魔術師組合は十分にそれと争えるだけの力を持ってる。そんな組織の一員である貴方なら、真っ当に争ったところでいずれは私よりも上に立てたのではなくて? 知っていたでしょう。私の置かれた立場を」
「ふっ。君も十四の小娘に過ぎないのに、随分と良く出来たお嬢さんだと思うがね。確かに私は君の立場を理解していた。そうそうにここで結果を残さなければ、いずれは一族の適当な男にその地位を脅かされるのだということもね。そしてその日が来るまで待っていれば、私はきっと、ミドローグを手中に収めることも出来ただろう」
「だったらどうして……」
「それはね、時間がなかったから。それに尽きる」
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