第77話 後始末
「……とりあえずは、これでいいかな」
グライデルの手足をギッチリと縄で縛って、汗を拭う。
別に体力的に疲れたわけじゃないが、いきなり目が覚めたら、とか思うと少しばかり緊張した。
精神的なところからくる冷や汗だな。
ともあれ、しっかりと縛れたので、俺は後ろの方から見ている二人を呼ぶ。
「おい、カタリナ、グレッグ。もう出てきても大丈夫だぞ」
するとガサゴソと草むらから這い出してきた。
俺たちの戦いの激しさに、最初見ていた位置からだいぶ後退していたようだが、しっかりと声の届く距離にいてよかった。
あんまり離れすぎると、この辺でも普通に魔物は出るからな。
俺の感知にもそれなりに引っかかっている。
まぁ、スケルトンが大量にいた時のような異常を感じるような数ではなく、普通の森の中の魔物の分布であるから問題ないが。
でもそれは俺たちにとって、であって、グレッグとカタリナには些か厳しいだろう。
「本当かしら……? グライデルは魔術師。たとえ縄で縛ったところで、魔術を放つことは可能なのでは……?」
カタリナが疑わしげにそう言ってくる。
その割にだいぶ近くまで来ているが、ただ最後の一歩を踏み込まずに少しだけ距離をとっている感じだ。
カタリナの言う通り、グライデルが魔術を放てるとしたらそのくらいの距離では無意味だと思うが、精神的なものだから仕方ないか。
とりあえず彼女の恐怖というか、疑いを晴らすために説明してやる。
「確かに普通ならそうだろうが、縄自体にしっかり魔術が込められてるからな。これは《魔封じの白縄》と呼ばれるもので、縛られた者の魔力を吸収する性質のあるものだ。他に色々な仕組みで魔術師を魔術が使えないような状態におく力がある……」
「そんなものが……でも、魔導具店では見たことがないわ。牢獄に魔術師を閉じ込めるときは、魔法陣で強力な結界を張ることで魔術を封じるものだし……」
魔術師の能力封じ、というのは実際にかなり難しく、その方策は少ない。
現実的には魔術師が犯罪などを犯して牢獄に入れられるときは、牢獄それ自体が特別性の材質で出来たものであったり、大きな魔法陣によって結界を作成し、それによって魔術封じをしている場合が大半だ。
移送するときなどは完全に意識を失わせたり、またはその本人よりも強力な魔術師を見張りにつけるなどする。
しかし、この《魔封じの白縄》はそんな苦労をせずとも、縛るだけでそのような効果を発揮する。
みんな使えばいいのに、と思ってしまうが、それが出来ない事情がしっかりある。
「これは素材に色々と貴重なものが必要だし、浄化系の魔術も要るからな。普通の魔導工には作るのは難しいものだ」
「えっ、それなのにどうしてノアは持っているの……?」
「まぁ、それは色々とな」
この色々の内容は、素材については《煉獄の森》で入手したし、技術についてはアトが持っていたというに他ならない。
つまり、アトが製作した品だ、ということだ。
彼女は魔法の袋こそくれなかったけれども、それなりに道具やら武器やらを提供してくれた。
そのうちの一つだ。
俺もそのうち作れるようになりたいものだが、今の俺の技術ではこんなものはまだ夢のまた夢だ。
まぁ、技能はあるのだし、コツコツと頑張っていくしかない。
技能はなんでも与えてくれる神の祝福などではないのだ。
あくまでも本人の頑張りを、はっきりと特定し数字的に表してくれるに過ぎない。
そしてその数字だとて、完璧に信用できるわけではないというか、高い数字を持っているからといって、低い数字でしかない者には絶対に技能的に勝てるというわけでもない。
この辺の扱いは慎重にいかないと、簡単に死ぬところなのでよくよく注意していかなければならないことだ。
アトもあまり技能の数字は過信するべきではない、と言っていた。
あれはあくまでも、最大のパフォーマンスを出した時の数字でしかなく、それは絶対に出せることも、常に出せることも意味しないから、と。
だからこそ技能を使いこなすためには常の訓練が必要だし、努力し続けるしかないのだとも。
その教えにしたがっているから、俺たちはまだ生きていられるに過ぎない。
もしもそれを忘れたら、その時こそ俺たちは死ぬのだろう。
そんなことを俺が考えているとは露とも思っていない、カタリナは呆れたような表情で、
「……なんでも出来る器用な人は違うわ。きっと貴方が自分で作ったとか、そんなところでしょ」
と言ってくる。
まぁ、ハズレではあるが……曖昧に笑って、
「さぁ、どうかな」
とだけ言っておくことにした。
それから俺は、
「まぁ、拘束器具の話はいいさ。これからどうする? こいつには聞かなきゃならないことがあるだろう?」
と、グライデルに視線を向けた。
これにカタリナは頷いて、
「ええ、どうしてスケルトンなどを作っていたのか、とか、先程の通話相手は誰か、とか色々聞かなければならないことがあるわ。でも、ここで聞くのは……どうかしら。一度街に連れ帰った方がいいと思うのだけれど、大丈夫かしら?」
そう聞いてきたので、俺は答える。
「あぁ、それくらいまでなら、縄の効力も十分持つはずだ。ついた後はしっかりと魔封じのかかった牢獄にぶちこむべきだけどな……あっ!」
話しながら、ふと思い出したことがあってそんな声を上げてしまう。
そんな俺にカタリナが、
「ど、どうかしたの?」
と尋ねてきたので、
「いや、肝心なことを忘れててさ」
「それは?」
「簡単な話だ。素材の回収をしなきゃなって。マタザ、リベル、キャス! スケルトンキングの素材、しっかり全部集めようか!」
仲間たちにそう言った俺を、カタリナがほっとしたように見つめ、
「何か大変なことが起こったのかと思ったじゃない。それなら私たちも手伝うわ。ね、グレッグ」
「そうですな。それくらいでしたら私たちにも出来るでしょう」
そう言ったのだった。
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