第72話 それの示すもの
「……また随分と大変な品物を持ち帰られましたね」
フレスコに言われた通り、メダルを持ち帰り、カタリナに早速見てもらうと、彼女は額を押さえながら悩ましげな表情でそう言った。
どうやら、本当にかなり問題がある品物らしい、とそれでよく分かる。
俺は気になって尋ねる。
「そんなにですか? 私には見覚えのない紋章なのですが……」
これにカタリナは深く頷き、それから少し逡巡する。
果たして俺に話していい内容か、と悩んだのかもしれない。
しかし最終的には覚悟を決めたように説明をしてくれる。
「それはそうでしょうね。これはこの街ミドローグの魔術師組合長の個人的な紋章ですから……」
なるほど、と思った。
そんなものを魔物が持っていた、となると非常に問題がある話になってくるだろう。
そして同時に不思議に思った。
どうしてそんな人物の持ち物が、ということをだ。
俺は率直に尋ねる。
「魔術師組合長のもの? ですが、なぜそのようなものを、スケルトンが……」
これにカタリナは首をゆるゆると横に振りながら、答える。
「あまり考えたくはないことですが、スケルトンと彼に、関係があるからだと考えるのが自然でしょう」
それは分かっている。
だが、問題は《一体どんな関係があるのか》になってくるだろう。
そしてこのカタリナの反応からして、その内容はよくない方だ、ということになる。
俺はその推測に従って、カタリナの様子を伺いながら言う。
「つまり……あのスケルトンたちは……」
カタリナはそれに、深く頷いて、
「おそらくは、そういうことではないかと。私はあまり魔術に詳しくはないのですが……ノア様はスケルトンなどの不死者には、発生原因はいくつかあることは?」
俺にそう尋ねてきた。
魔術について、貴族はそれなりに学ぶものだが、国や家によって内情は異なる。
オリピアージュ家ではほぼ必須だったが、それは父や弟の才能を見れば分かる通り、魔術の家であるからだな。
そうではない武門であれば、そこまで造詣が深くないことも少なくない。
カタリナの家はそちらの方なのかもしれない。
そもそも年齢も年齢だし、これから学ぶと言うのも考えられるか……。
ともあれ、俺は言う。
「もちろん、知っています。自然に魔力が凝るか、遺体の持つ怨念などによって魔力が集約され、発生するか……」
代表的なのはその二種類、だがカタリナが聞きたいのはこれではないだろう。
案の定、彼女は頷いた後に先を促すように言ってくる。
「それは自然に発生する場合だと聞きました。他にもう一つあるというお話があったかと思うのですが……?」
俺ももちろん、話すつもりでいたから、頷いて答えた。
「はい……人工的に、魔術によって発生させることも可能な魔物。スケルトンはそのうちの一つです。もちろん、召喚術などを使うのであればまた話は違ってきますが……」
召喚術は様々な魔物を呼び出すことができる魔術系統であり、魔法陣や供物などの工夫によって自らの力を遥かに超えた存在すら呼び出すことが可能だ。
ただし、その性質上極めて危険であり、これに失敗して滅びた国もあると伝えられている。
世の中には絶対に手を出すべきではない強大な魔物がいるものだが、そういうものがどこから来たのか、というとそういった国を上げた馬鹿げた召喚術により、他世界から呼ばれたのではないかと言われているものもいるくらいだ。
人は自分の分を知っておけと言うことだな。
そこまでは知らずとも、カタリナも召喚術の難しさは知っていたらしい。
「召喚術系統の魔術は極めて高度であると聞きますが?」
そう尋ねてきたので俺は答える。
「それはそうですね。その辺の腕の良くない魔術師に容易にできることでは……。ただ、スケルトンを人工的に発生させることもまた……」
「難しい、ですか?」
そうなのだ。
スケルトンを発生させる。
これは魔術的には可能だ。
しかし簡単なこととも言えない。
簡単だったら、それこそみんなやるだろう。
無限に戦力を作り出せるようなものだからな。
だが、実際にそれを行っている者はほとんどいない。
このほとんど、というところが肝だが……。
とりあえず、俺はカタリナに言った。
「ええ、技術的にも、そして魔術師の倫理的にも……不死者を人工的に発生させることは、死霊術の領分になります。この技術を、大抵の国では禁術としておりますので……」
そういうことだ。
特にアストラル教会は死霊術を極めて強く禁じている。
アストラル教会が強いところほど、死霊術は忌避されているわけだな。
それにアストラル教会でなくとも、死霊術は人の魂を弄ぶものだとして忌避感が強い魔術系統だ。
そのため、多くの国で禁じられているのだった。
この国でも、基本的には禁止だった覚えがある。
それなのに……。
「けれど、それに手を出した者が、この街にいる、そういうことですのね……」
カタリナが目を伏せて、そう呟いた。
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