第71話 メダルについて
「思ってたより大したことはなかったかな……アジール村……元アジール村か。あの廃村にはスケルトンが大量に巣食っていたってくらいだ」
俺が話し出すと、フレスコも頷きながら呟く。
「襲撃された商人たちからも聞いてはいたが、やっぱりスケルトンか。しかし、珍しいな。あそこは確かに大分前に廃村になった場所だろうが、人死にが酷かったとか、そういうところだったわけじゃねぇはずだぜ。まぁ、あまりにも目立たない村過ぎて、こっちにも大した情報はねぇから確実なことは言えねぇけどよ」
細かな情報の提供がされなかったのは、そもそもそういったものが残っていなかったからだ。
これについては仕方がない。
「そこのところは俺も少し不思議に思ったな。スケルトンとか、不死者が生まれる原因は、むごたらしく殺された無念とか、血の気配とかに魔力が強力に固められた事による場合が多い。だが、あそこにはそういう気配はなかった」
むしろ空気的には良かったくらいだ。
あそこにすんでもいいくらいには。
《煉獄の森》の危険な空気に浸り過ぎて、麻痺してるだけかもしれないが。
「へぇ、お前、そういうの分かるのか?」
「魔力を見れば、少しだけ、な」
これは事実だ。
アトから得た様々なスキル、その中でも神聖系のそれらが効果を発揮しているのだろうと思われた。
これにフレスコは嬉しそうに、
「いい特技だ。使い出があるぞ、これは」
そんなことを言い出す。
俺は渋面を作って言う。
「早速俺の使い道を見つけるんじゃない」
「組合所属の冒険者に、どううまく仕事を見つけてやれるか、これが冒険者組合長の腕の見せ所って奴だからな」
冒険者組合長といえど、その内実は商売人ということだろうか。
「言い方変えればいいってもんじゃないだろうが」
「でも間違っちゃいねぇだろ?」
「そりゃ、まぁ、そうだろうが……」
反論しがたくて、そう言うしかなかった。
金の大切さは、こうなって俺もよく理解してる。
稼ぐ方法があるのなら稼いだ方がいい。
「ほらな。ま、冗談抜きにお前のその特技は需要がありそうだ。技能を詳しく聞いたりするつもりはねぇが、何か持ってるから分かるわけだよな?」
「俺も自分の技能をそこまで詳しく把握できてるわけじゃないが、多分そのはずだ」
「自分の技能を完璧に理解できてる奴なんて、そうそういねぇから別になんとなくでいいんだよ……でだ、お前のその特技があれば、不死者が発生しそうかどうか、事前にある程度分かるわけだからな。対策も取りやすい。そしてお前は見るだけで報酬をもらえるわけだ……いい商売じゃねぇか?」
「……悪どくないか? 大体そういうのは教会とかがやってるもんじゃ」
「この国じゃ、アストラル教会の影響力なんてたかが知れてるからな。そもそもあいつら、そういう依頼もろくに受けてくれねぇ。高い金を払った場合だけだ。需要を食ったところで大したことは言えねぇはずだ」
「他の宗教団体は?」
「口出ししてきそうなところはないな。大体、アストラル教会がおかしいだけで、普通、鉄火場に聖職者は行かねぇもんだ。まぁ、死者が出た家の浄化とかになってくると問題になるかもしれねぇが、そういう人死にがあった戦場とか、そんな場所を冒険者が見に行くくらいでどうこう言う奴らはいねぇよ」
「……ま、言われてみれば確かにそうか。じゃあ、問題なさそうだったら、俺にそういう依頼を回してくれてもいいぞ。時間があれば受けてやる」
無理して受けるつもりはない。
面倒くさいとかではなく、あまり目立ちすぎるのも問題だからだ。
まぁ、フレスコはその辺りも気を遣ってくれそうではあるが、一応な。
「おぉ、頼むぜ。で、続きだ」
そして話は本筋に戻る。
「あぁ。出てきたスケルトンだが、俺たちで全部倒した。二十体くらいだったかな。魔石も集めてきたから証拠になるだろう」
ごとり、とテーブルに広げるとフレスコは興味深そうにそれらを一つ一つ手に取りながら確認する。
そして、
「お、これか……気のせいか、少し普通のスケルトンの魔石より大きい気がするな?」
首を傾げつつそう言った。
どうも見慣れたものとは違うな、と感じたようだ。
俺的には違いがわからなかったが、フレスコくらいベテランからすると違うのかもしれない。
「そうなのか?」
「あぁ、なんとなくだがな。これはこっちで鑑定できるやつに任せるとするか。しかしスケルトンとはいえ、二十体を四人……いや、三人と一匹か? で倒すのはやっぱり新人離れしてるぜ」
お世辞かどうか、褒めてくる。
「それなりに戦える奴が冒険者登録したらそんなもんだろ?」
そういうこともそれなりにあると聞く。
引退したり首になった騎士とか、どっかの道場から免許皆伝してもらった戦士とかな。
これにはフレスコも頷いた。
「まぁな。でもお前くらい若い奴だと珍しい……と、それはまぁいいか」
「あぁ……そうだ、一つだけ気になるものを見つけたぞ」
思い出したように俺は懐から例のものを取り出す。
「ん?」
「これなんだが……」
手に取ったフレスコはためつすがめつそれを観察し、そして……。
「こいつは……メダルか。ん、紋章が刻まれてるな……これは……!」
驚いたような顔になった。
どうも、どこかに心当たりがある物体だったらしい。
「なんだ。見覚えがあるのか?」
「あぁ、そうだな。こいつはカタリナ様にも報告しておいた方がいいだろう」
真面目な表情でそう言った。
「これから屋敷に戻るから、俺の方から言っておくか?」
とりあえずの提案で、おそらくフレスコからの報告の方がいいだろう、と思ったが意外なことにフレスコは頷いて、
「そうだな……それがいいかもしれねぇ。このメダルもお前が持っていってくれ」
そう言ってきた。
俺は不思議に思って、尋ねる。
「それでいいのか? 冒険者組合の方で確保しておいた方が……」
「いや、そうすると面倒くさいことになりそうだからな。それに、カタリナ様が持ってた方が、役立てられる」
おそらくは、この街の権力構造とかに関わってくる話なのだろう。
そうなると確かにそう扱った方がいいのかもしれなかった。
納得した俺は頷く。
「なるほど、そういうものか……わかった。じゃあ、そういうことで。ところで今回の報酬は……?」
そっちの方も忘れない。
金は大事だ。
これにフレスコは、
「おう、しっかり払っておくぜ。これだ。あと魔石の代金の方は査定してからになるから、後日取りに来てくれ。それでいいな?」
「あぁ、頼んだ」
そうして、冒険者組合での報告を終えた俺たちは、カタリナの屋敷に戻ることにしたのだった。
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それと今回ちょっと書き方変えてみたんですが、どうですかね。
読みにくいとかなかったらいいな、と思います。
どうぞこれからもよろしくお願いします。