第70話 冒険者組合、帰還
「……すまない、依頼の報告をしたいんだが……」
冒険者組合に戻ってすぐに受付にそう尋ねた。
受付は初めて見る若い顔で、俺の言葉に少し困惑していた。
「ええと……《カード》のご提示を願えますか?」
それでなぜ困惑していたのか察する。
普通なら先に提示するものなのだろうな。
「あぁ、そうだな。これだ」
「はい、ありがとうございます。失礼します……っ!? あっ、ちょ、ちょっとお待ちくださいね!」
俺の《カード》の表示を見て、職員は急に慌て出し、どこかへと駆け出して行った。
それを見送りつつ、俺が、
「……なんだか慌ただしかったな……」
そう呟くと、マタザが、
「わふわふ、わふ、わふふ?(初めて見る顔でしたから、殿がフレスコ殿から直接依頼を受けたことを知らなかったのでは?)」
そう推測を述べた。
それには納得できるところがある。
「なるほど、それはそうかもな。俺があの職員の立場でも慌てそうだ……厄介な冒険者かも」
組合長という最上位の立場の人間から目をかけられているらしい人間が、ふらっと一般の受付にきた。
おそらく上司からもよく見ておくようにと言われているのだと思われる。
これは面倒だ。
「にゃ……」
キャスが不満げにそう言った。
「冒険者組合長の根回しが悪いんだって? 言うな、キャスは。まぁ俺たちは別に悪くないよな……」
そんな風に雑談していると、再度慌てるように急いでこちらに来た職員がほっとした顔で俺たちに言う。
「あっ、お、お待たせしました……どうぞこちらへ、ノア様、マタザ様、リベル様、キャス様……」
全員分の名前を言うあたり、俺だけでなく他の三匹もまた、重視されているらしいとわかる。
俺は受付に頷いて言った。
「あぁ、分かった」
******
「おい、ノア、職員を脅かすんじゃねぇよ」
冒険者組合長の執務室に入るなり、フレスコが不躾にそう言ってきた。
俺は肩をすくめて反論する。
「いやいや、それは私が悪いわけじゃないでしょう? 冒険者組合長の方から、その辺りはしっかりと根回ししておくべきだと思いますよ」
「貴族のように、か? 俺はそういうタイプじゃねぇんだよ。だからお前もその喋り方はやめろ。すげぇ口が回るから慣れてるんだろうがよ、一枚壁があるみたいで気に入らねぇ」
急に意外なことを言われたので、俺は少し面食らう。
「喋り方ですか?」
「それだそれ」
「……あぁ、丁寧な言葉ですか? でも私と組合長はいわば上司と部下の関係にあるのですから、これくらいは当然では」
通常はそういうものだ。
実際、王宮でもそうだったし、公爵家の屋敷でもそうだったし、学園でもそうだったし……と今まで所属してきた社会を頭に思い浮かべていると、それを察したのかどうか、フレスコが言ってくる。
「宮廷とか官吏とか、貴族社会じゃ、そういうもんだろうけどな。ここをどこだと思ってる?」
「それはもちろん、冒険者組合」
「だろう? 冒険者ってやつはなぁ……」
その続きを奪い取って、
「粗野で荒くれ者で無法者だから、丁寧な言葉なんて使わない、ですか?」
少し皮肉げにそういうと、フレスコも鼻で笑って、
「そりゃ流石に言い過ぎだろうが、法律くらい守るぞ。少しくらいはな」
ちょっと問題のあることを言った。
「その言い方じゃ、場合によっては破るって言ってるようなものですけど」
まぁ、みんな法律を守ってるわけじゃない。
守るのが難しい場合だってある。
それについてフレスコが口にする。
「臨機応変に対応しなきゃならねぇこともあるだろ? 気にしてられねぇ時がな」
「例えば?」
尋ねると、フレスコは言った。
「そうだな、《海嘯》とか《氾濫》とかの時は、特にそうだ」
「あぁ……でもそれは例外でしょう。そういう時には、むしろ法を守る人間の方が少なくなる。火事場泥棒から始まって、その機会をうまく使ってやろうと殺人まで始める者まで出てくる」
そういうところに居合わせたことがあるわけじゃない。
だが、歴史を俺は学んだ。
実際にそこに居合わせた人間の話も聞いたことがある。
そういうものだと。
これに対してフレスコは実際に見たことがあるのかもしれない。
深い年輪のような感情がその顔に現れて、
「例外なのかな。それこそが人間の本性ってやつじゃねぇのか?」
何かを諦めたようにそう言った。
これはあまりよくないことを思い出しているのだろうな、と思った俺は、
「この街の冒険者組合長はどうも、哲学談義がお好きなようですね」
少し茶化しながら空気を変えようとする。
「……悪いな、そういう話がしたいわけじゃなかった。だが、まぁそんなもんなんだからよ。俺に対してはもっと気楽に話をしてくれってだけだ。それくらいじゃ、人の本質ってのは変わらないもんだろ?」
「それこそどうなのかって気がしますけどね……形をつけることで、よくなる場合もある。何も知らない獣の本性を、教育で整えてやれるのが人間というものですよ」
一般論だが、間違ってはいないだろう。
人は教育によって善性を得る。
逆かもしれないけどな。
学ばなければ、人は善悪を知ることもないのかもしれない。
それにしてもフレスコは教養があるようで、皮肉げに俺にいう。
「お前みたいに整えられたはずの獣性を剥き出しにし始めるやつもいるみたいだがな」
どうやら藪蛇だったらしい、と思った俺は首を横に振って、
「……この話はやめましょう」
そう言うと、フレスコは勝ったような顔で頷いて言った。
「それがいいだろうさ。で、答えは?」
「分かったよ、フレスコ。だけどそれこそ、しっかり根回ししておいてくれよ。じゃないとお前はどうして組合長にそんな偉そうな口を聞ける?って言われるかもしれないだろうが」
流石にここまで言われて今まで通りの口調は貫けない。
ただ色々言われるのも面倒なので釘を刺しておくのは忘れない。
「おっ、なるほど、それがお前の普段の喋り方か……ふむ。他人に命令するのに慣れた奴の喋り方だな。やっぱり……」
これでフレスコは結構な知りたがりのようだ。
「詮索は無用だぞ」
「少しくらいは許せよ。お前も俺の詮索をしていいぞ」
反対にそう提案してくるが、俺はそれを嘲るように、
「おっさんの詮索なんて誰がしたいものか」
そう言うと、フレスコは肩で笑い出し、
「ははっ、言うじゃねぇか。ま、いいだろう……で、依頼の方はどうだった。報告を聞くぜ」
真面目な顔になってそう言ったのだった。
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それと今回ちょっと書き方変えてみたんですが、どうですかね。
読みにくいとかなかったらいいな、と思います。
どうぞこれからもよろしくお願いします。




