第7話 技能とは
《魔猫》とは、その名の通り、いわゆる猫系統の魔物である。
通常の猫と異なる部分で一番分かりやすいのは、成体になった時の大きさだろう。
地方に行くと《大猫》とか《巨猫》とか言った異名で呼ばれてもいて、そのサイズは人がその背中に乗れそうなほどに大きくなるのだった。
しかも、その辺の魔物など相手にならないほどに強いと言われている。
その上、先ほど見たような吐息系統の技能のみならず、幻術系なども使いこなすらしく、出会ったらさっさと逃げた方が賢いとまで言われているほどだ。
そんな存在の、幼体が……。
「お前、なのか……?」
「にゃあ」
わかってるのかわかっていないのか、呑気な顔をして後ろ足で体をかきながら返答をする《魔猫(幼)》だった。
その仕草には庇護欲とか、そういったものを刺激してくる抗い難い魅力を感じてしまい、俺はその頭を優しく撫でる。
機嫌良さそうにごろごろと喉を鳴らし、なんだか平和な空気が流れる……が、
「いや、そういうことじゃないんだよ。そもそも……お前、《従属契約》ってなんなんだ?」
手に持ったまま、表示したままの《カード》を再度確認した。
そこにははっきりと、
従属契約:魔猫(幼)の文字がある。
この《従属契約》というのは、どうやら新たに生えた俺の技能らしいのは確かだ。
なぜそれが分かるかといえば、一般技能欄にではなく、派生技能欄に記載してあるからだ。
ここで一般技能とか派生技能とか根源技能について説明しておくと……。
まず、俺の根源技能《聖王》。
これはその人間の存在そのものを現した技能であるとされていて、技能と言いながらも、技能というより存在意義とかそういうものに近い、と言われる。
だからこそ、根源、の名前がついているのだ。
俺の根源技能は《聖王》だが、他の人間だとどういうものが表示されるかといえば、有名どころだと《剣聖》とか《魔帝》とかになるだろう。
これは、その名称通りの才能が成長していくにつれ身についていく保証のように看做されていて、それが故に昔から前例のある、強力な根源技能が得られた者はたとえ平民であっても将来の道は明るい。
ただ、平民の持つ根源技能というのは大半が《剣士》とか《弓術士》とか、そのようなものばかりで、いわゆるレアと呼ばれるそれを持っていることは数十万、いや、数千万人に一人、とかそのレベルだが。
対して貴族というのは平民よりもずっと良い根源技能に恵まれやすい。
これは古くからレア度の高い根源技能を持つ者同士が掛け合わされ続けたからと言われ、それがために貴族というのは平民よりも平均的な能力が高くなる傾向がある。
貴族が平民たちを治めるという構造を下支えする理論的かつ現実的な根拠でもあり、だからこそ、貴族にとってはどんな根源技能が与えられるかは極めて重要な話なのだった。
ちなみに、根源技能が与えられるタイミングだが、これには色々な説がある。
有名なのは、教会が掲げる《教会で行われる洗礼によって神々が人の身に根源技能を下ろす》というものだが、俺としては正直怪しいと思っている。
確かに《カード》に表示されるのはまさにその時から、なのだが、その《カード》、洗礼式を境に、新しいものに交換されるからな……。
古くなると不具合が出るから、とか、洗礼を迎えた子供を祝うために、とか色々と理由が掲げられているが、それは後付けで、あくまでもその時にどうしても新しい《カード》に変えたいだけではという気がしている。
ちなみに、教会において正式な洗礼式を行うのは主に貴族、そして平民でも有力な商家とかになってくる。
では他の平民たちはどうやって自らの根源技能を得るのか。
これは簡単な話で、十四を越えたら、様々な団体から《カード》が発行されるのだ。
たとえば、ど田舎の村に住んでいたら村長から与えられるし、冒険者になろうと組合に行けば、そこで発行される。
商人の場合も同じだ。
しかし十四より前の段階で発行されることは、平民の場合、まずないと言っていい。
貴族の場合は教会から生まれた時に発行されるから話が違ってくるのだが、この仕組みの違いも、根源技能についての教会の説明が怪しい、と俺が思っている理由だった。
ともあれ、自分の根源技能を知れるのは十四からだ、ということになるが、それまでは技能を使えないのかというとそういうわけでもない。
技能には、根源技能以外に派生技能と一般技能というものがある。
このうち、派生技能は、根源技能を元にして「生えて」来るものであるが、一般技能は日々の生活をする中で、根源技能とは全く関係なく身につくものとされている。
たとえば、俺の一般技能《剣術3》であるが、これは単純に剣術の修行をしたから身についたもので、根源技能とは一切関係がない。
これが、根源技能が《剣士》とかだと、派生技能のところに《剣術〜》の表示がされたりする。
加えて一般技能のところにも表示されている場合もある。
そしてそのような場合……たとえば、一般技能に《剣術3》、派生技能にも《剣術3》という表示があると、一般技能にしか《剣術3》がない者よりも強いのだ。
ただ、単純に足し算のように《剣術6》並の強さになるのかと言われると必ずしもそうではなく、人によるが、三割り増し程度になるとか、そういう差が出るのだった。
この辺りの関係もそこまで詳しくは解析されていないが……これは技能を神から与えられたものと考える教会が、過度な研究を禁止しているからだな。
しっかりと調べてその仕組みを明らかにすれば、もっと技能を有効に扱えると思うのだが……と何度思ったか分からない。
だが、貴族として生きていく以上、教会には逆らうべきではなく、だから諦めるしかなかった。
今の俺なら教会などどうでもいいというか、気にしたところで捕まったらどうなるか分からないし、好きに研究してもいいだろう。
だからこそ、今のこの《従属契約》が極めて気になっていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回は若干説明回感が強かったですね……。
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