第67話 廃村にて
「……それで流石にこれは予想外だったな……」
「にゃあ」
「わふ、わふわふ(確かにそうですな、殿)」
真夜中、たき火を囲みつつ、俺が呟いた言葉に、キャスとマタザが慰めるようにそう言った。
「わふ、わふ……わふわふ(しかし恐ろしいですね、主。ここに例のものが出るというのは)」
そう言ったのは、コボルトソルジャーのリベルである。
周囲を少し震えながら観察しているのは、ここに来る前に言われたことが原因だ。
ちなみに、周囲にはいくつかの家々があるが、いずれもボロボロというか、ほとんど崩れ落ちている。
家以外にもおそらくはかつて、どこかの宗教団体の教会だったのだろう建物とか、井戸やら集会場やらと、様々な施設が存在しているが、どれも放置されて長い年月が経過しているようだった。
実際、ここはいわゆる、廃村、という奴だ。
かつてはここに人が住んでいたのだろうが、捨てられてかなりの年月が経っている。
一年二年ではないだろうな。
五年十年、という感じか。
まぁ、詳しい村自体の情報は残っていないらしいからそれは分からない。
しかし、なぜそんなところで俺たちが夜を明かしているかと言えば、カタリナから冒険者組合を通じて出された依頼のためだ。
彼女は、俺に対してある問題を解決して欲しい、と言ってきたが、まさにそれがこれだった。
冒険者組合を通じて依頼としてくれたのはその方が俺の冒険者組合内の成果となるからだ。
加えて、フレスコに対する情報提供の意味合いもあるのかもしれないな。
俺に、こういう依頼を出しましたよ、という報告である。
そうしておけば、俺が何か裏切りなどをしたとしてもすぐに分かるだろうし。
そういう意味でもカタリナは決して見た目通りの人畜無害な少女ではないわけだ。
まぁ、協力相手としてはその方がいいか。
何も知らないような純粋無垢な少女よりも、ずっと利用しやすい。
現状、俺の方が遙かに利用されそうな空気感を感じているし、実際にこうして利用されているわけだが……俺ってそういう星の下に生まれてきたのかも知れないな、ということについては最近とみに感じるな。
なんだか悲しくなってくるのでこれ以上考えるのは止めよう。
ともあれ、その依頼内容なのだが、この廃村の近くには街道が通っている。
そこを商人たちが通り、街から街へと行き来して商品の流通を支えている……のだが、ここ一月ほど、その流通に問題が生じているという。
その理由は、この廃村周りで魔物が出現し、商人たちを襲うからだ。
もちろん、商人たちもそれに対抗するため護衛を雇って対応しているのだが、そうなるとコストも馬鹿にならなくなってきて、最後には商品価格に転嫁されてくる。
徐々に物価の高騰がミドローグの街で起こり始めていて、これを都市参事会が問題視しているのだという。
だからどうにかするために調査員などを派遣したりもしたというが、残念ながら何の成果も得られていない、と。
そのため、俺にはここで何が起こっているか、そして何かが起こっているのならその解決を、というざっくりとした依頼が出されたのだった。
魔物が出ているのだから、魔物が発生していて、その原因を断てばいいのだ、というところまでは分かる。
だが、その原因がなんなのかまず探さなければ……。
そのためには、その魔物を見つけなければ。
今はそんなところだ。
「……にしても、出てこないな? この廃村辺りから発生しているのは間違いなさそうなのに」
依頼のためにと支給された地図を見ながらそう呟く。
そこにはいくつかの赤いバツ印が刻まれていた。
印の意味は、今まで確認された限りの、この辺りで襲われた者たちの位置だな。
全てではないものの、ほとんどがこの辺りに集中している。
中にはただ普通の魔物に襲われただけ、というパターンもあるだろうが、この集中の仕方は確かに俺でなくても違和感を感じる。
何かは絶対にあるはずだ。
そもそも……。
「わふっ!」
「にゃあ!」
マタザとリベル、キャスがほとんど同時に立ち上がり、そしてそう声を上げる。
なぜか。
それについては彼らが見ている方向を見れば俺にも分かった。
そこにいたのは、落ち窪んだ眼窩、肉のついていない腕、カタカタと音を立てながら動く、奇妙な骨の一団だったからだ。
俺も索敵はしていたのだが、他の皆の方が先に気付いたのは、おそらく匂いが原因だろうな。
独特の死臭が、近づいてくると匂ってくる。
ああいった不死系の魔物は主に死体などを材料に発生するものだ。
大分死亡してから時間が経っているだろうが、それでも拭い去れない死の匂いというのが存在する。
キャスたちはそれを敏感に嗅ぎ分けたわけだ。
ちなみに、キャスとリベルとマタザ以外のコボルトたちは、置いてきた。
依頼の内容的に、あまり大勢だと出てこない可能性もあったからだ。
しかし、余計な心配だったかも知れない。
そしてそれ以上に、少ない数でここに来たことを少しだけ後悔した。
「数が多いが……みんな、いけるか?」
骨の人……つまりはスケルトンが二十体はいるのだ。
四人、というか一人と三匹だと、単純計算で一人五体である。
しかしそんな俺の言葉に全員が、任せろ、とでもいうように頷いたので、
「よし、じゃあ行くぞ!」
俺がそう声をかけると同時に、全員が地面を踏切り、向かったのだった。
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