第64話 権力闘争
どうやら、カタリナは随分とこの冒険者組合長に買われているらしいな、とそれで理解する。
しかし、ふと、ん?と思った。
「今、トラン侯爵家を継ぐ方に賭けている、とおっしゃいましたか?」
そこだ。
ここに俺は引っかかった。
俺の言葉にフレスコは少し首を傾げてたあと、なるほど、と言った様子で答える。
「……そうか。聞いてなかったのか? こりゃ、余計なこと言ったかもなぁ……」
そう言っている割には、そんな雰囲気はあまりないというか、どこか演技っぽいものを感じるな。
あぁ、質問自体あまりすべきではなかったかも、とそこで思うも、もうこれはどうしようもない。
何も聞かないのも不自然だし、仕方なく俺はフレスコの話に乗ってやる。
「つまり、カタリナ様がトラン侯爵家を継がれるかどうか、今は微妙だということでしょうか?」
貴族家というのは、我が家もそうだったが常に誰がそのあとを継ぐかで揉めている。
俺の家の場合は幸いなことに弟にその気が全くなかったために、いくら周りが囃し立てようとも俺が継ぐ、で家族の意思は揺らがなかった。
最終的には《聖王》技能と教会のせいでこんなことになってしまったから笑えるが。
ともあれ、普通はそんなものが介入して来ずとも揉めているのが普通だということだ。
それこそ、実の兄弟間であっても、だ。
ただ、カタリナには兄弟はいなかったはずなのだが。
一人娘となれば、中々に揉めようがないのではないか。
この国では基本的に長子相続であったと思ったが……そこに男女の区別はなかったとも。
だが、この疑問に対する答えも含めて、フレスコは答えてくれた。
「あぁ、そういうことだな。もちろん、トラン侯爵の実の子供は今、カタリナ様しかいらっしゃらないから、その点じゃ問題はない。まぁ、夫人は第三夫人までいたと思うから、これから先もその状況かと言われると断言はできないが……長子相続の原則から言ってカタリナ様優位は変わらないな。だが、まぁ、この国は男女の権利にさほどの差はないとはいえ、古くからのよくない伝統も残ってる。貴族とは、外敵から領民を守るもの……つまりは戦うものだ。だからこそ、女より男が上に立つことが望ましい、とな。カタリナ様の場合、彼女が侯爵になるよりも、親族から男を入れるべきではないか、という意見も強いんだ」
「なるほど……」
ユリゼン連邦、アルタイル州。
ここは以前はアルタイル王国であったからして、その頃の伝統が一部残っているわけだ。
究極、貴族制度自体がそうだと言えるわけだし、それにこびりついている偏見とかもそう簡単には拭いされはしない。
そう言う話だ。
「ですが、それについてはトラン侯爵がはねのければそれで終わる話では?」
「そうされている……というか、そうされようとはされた、かな。だが、そう簡単な話でもなくなってるんだ」
「と言いますと……?」
「ユリゼン連邦の連邦政府、つまり中央議会に代表議員を送る時期が近づいている。その中で、トラン侯爵と対立しているフラウゼン辺境伯というのがいるんだが……この人がな。どうも、トラン侯爵家内の状況に首を突っ込んでいるらしい。もちろん、そうとはわからないように、巧妙にだ」
この言い方は、貴族でなければ分からないことだろう。
つまり、カタリナではない人間に継がせるべきだ、と主張するトラン侯爵家の親族にそのフラウゼン辺境伯というのが助力して、揉めさせている、という話だな。
そうなると、トラン侯爵としても大変になってくる。
代表議員の座を争っている相手なのだが、権勢も似たようなものだろう。
俺も名前を聞いたことがあるしな。
そんな相手が手を突っ込んできているとなると、無理に収めようとすると大きな隙が生まれる。
だから下手に手を出せなくなってしまっているのかもしれない。
細かい事情はそれこそ、トラン侯爵家の人間ではないと分からないだろうが、まぁ、俺も貴族だった。
大まかなことは理解できた。
実に大変だな。
そして……あぁ、そういうことか、とも思った。
カタリナが、この街を任された理由だ。
俺はそれを口にする。
「つまり、カタリナ様になんらかの手柄を立てさせて、それをもって彼女が未来のトラン侯爵にふさわしいと、トラン侯爵家内外に示したい、とそういうことですか……」
「そういうこった。今の説明でそこまで到達できるんだからお前の出自は……っと、悪いな。これ以上は突っ込まねぇからそんな目で見るなって」
「別に普通の目ですけど」
「そうでもなかったぞ」
「それで、そんな話を私にして、一体どうされたいのですか? たった今、冒険者になったばかりの新人に過ぎないんですけどね……」
嫌な予感がしつつも、これは尋ねるしかなかった。
そもそも聞かなくても何か言ってくるのは目に見えているしな。
さっさと聞いてしまった方がいい。
フレスコはこれに頷いて、
「ま、お前はそんなカタリナ様が刺客に襲われてるところを助けてくれたわけだ。だから、信用できるやつってことになる。そうじゃなけりゃ、ほっとけばそれで全て終わってたわけだからな。フラウゼン辺境伯が望むとおりに」
「まぁ……」
そんなに信用していい人間とも言えないとは思うが。
俺はカタリナをどうこうしようとは思わないが、教会と対立していたりとかなり面倒な身の上だ。
まぁ、面倒なことはフレスコもカタリナも察してはいるからいいのか。
その上での話だな。
「だから、カタリナ様の力になって欲しい。そう思ってな……」
「そう言われましても……」
俺にはやらなければならないことがある。
強くなるという目的が。
具体的には教会に十分に対抗できるくらいに。
他のことをやっている暇は……。
しかしフレスコは言うのだ。
「お前にも利益はあるぞ。うまくいけば、カタリナ様からの信頼は絶大、トラン侯爵だって同じだ。そうなれば、この国での大きなコネが出来る。お前がどこの誰だかわからねぇけどよ。そう言うコネがあるって、いざと言うとき、すごく役に立つんじゃねぇのか?」
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