第62話 カードの内容
からん。
と、魔道具の長方形の部分、その端の切れ目の入っている部分から《カード》と思しき鈍色の薄い金属片が出てきた。
フレスコはそれを手に取り、しかしあまり見ずにそのまま、
「……ほれ、お前の《カード》だぞ」
とそのまま手渡してくる。
フレスコは彼自身の言う通り、個人情報と言うのを重視しているようだった。
個人情報、という概念自体それほど古いものではないが、昔からぼんやりと様々な人間が感じていたことでもある。
それが具体化して権利化してきたのが、最近だ、と言うだけだな。
《カード》によって、個人に所属する極めて個人的な情報すらも、《カード》と言う具体的な物体に反映してしまう関係で、その情報の取り扱いは歴史的に問題になってきた。
細かいことは省くが、やはりそれについては大切に扱うべきであり、少なくとも公開する場合、公的な目的がない限りは本人の同意なり許可なりが必要だろう、と言うところで世界的に一致しているわけだ。
例外も勿論ないわけではない。
国家によって取り扱いはさまざまだからな。
独裁国家に個人情報を大切に、と言ったところで聞く耳持たれないのは普通である。
ともあれ、この国においてはそう言うことはなく、ある程度重視されると言うわけだ。
少なくとも、冒険者組合発行の《カード》の内容を直接見ない程度には、な。
「……わふ(殿、これはどうすれば……)?」
マタザが困惑しつつ《カード》を手にして俺に視線を向けてきたので、俺は答える。
「誰にも見せたくないのならそのようにすればいいし、見せたい相手がいるのなら好きに見せればいい。まぁ、仲間だけに限った方がいいのはもちろんだがな。人に利用される場合も考えられる」
「わふわふ(それについては承知しております。ただ、殿がご覧になりたいか、と思いまして……)」
そのマタザの言葉は少し意外だったが、何か俺に強制されているような圧力を感じて、と言うわけでは表情から見てなさそうだ。
それならば、と思って俺は言う。
「見せてくれるならありがたいが、いいのか?」
「わふ!(もちろんですぞ!)」
そう元気の返答してきたので、俺は、
「じゃあ、頼む。当然、俺はこの内容を他人に決して口外することはないことを、命に賭けて誓う」
そう言うとマタザは焦ったような表情で、
「わ、わふわふ……(い、命など決して……)!」
と言ってくるが、これについてはな。
通常他人に決して話さないような事柄だ。
「そういうものだからさ。まぁ、あんまり気にするな……どれどれ」
なんとか止めようとするマタザを尻目に、早速の確認に入った。
するとそこにはこのような内容が記載されていた。
名前:マタザ
性別:男
種族:犬獣人
称号:なし
根源技能:《犬魔精7》《犬魔足軽4》
派生技能:《遠吠え5》《群統制4》《槍術4》
一般技能:《かみつく2》《引っ掻く2》《疾走1》《剣術3》《飛剣3》……
「おっ、結構色々増えているな……!」
感心すると同時に、おっと、危ないな、というものもいくつか見つかる。
というか、根源技能の部分はほぼアウトに等しいな。
まぁ、魔物系の技能というのをもつ人間、と言うのは実の所ゼロではないと聞いたことがある。
亜人系には意外にいるということだから、これも言い張れば結構なんとかなるのかもしれない。
ただ、俺的にはそこそこ危険を感じるな……。
けれど、フレスコの気遣いによってその部分を彼は見ていない。
《カード》の機能でもあるのか、灰色表示になっていて、他のコボルト達にその部分を見てもらうと、どうやら見えないらしい、ということがわかった。
これは少し面白い検証になったな。
俺の《カード》をタップしていって、それぞれの《従属契約》の相手の技能を覗いた時、灰色の表示の部分は結構あったりするが、そこもまた、俺以外には見えないのだ。
これは従属契約の相手にすら見えなかったが、マタザのそれは、一応マタザには見えるらしかった。
これは予想していなかった相違になるだろう。
まぁ、どれだけ役に立つのか、と言われると微妙だけどな。
そもそもコボルト達の技能を見るだけなら、それこそ《従属契約》だけで事足りてしまうのだし。
まぁ、灰色表示される部分が誰に見えるのか、見えないのか、一般的に理解できただけ、だいぶ役に立ったとも言えるか……。
「で、どうだった?」
フレスコが興味津々に俺たちにそう聞いてきたが、あまり細かい話をしても藪蛇だろう、と思った俺は彼に言う。
「いえ、あまり面白い結果でもないですね。身につけている一般技能がいくつか表示されたくらいで」
「へぇ、てっきり大した経験もないかと思ってたが……参考までにどんな技能が?」
「裁縫とか製材とかが多いでしょうか。あとは、建築とかですね……」
「……なんでだよ」
勿論、アトの薫陶によるものだが、ここもカバーストーリーはある。
「私たち、というか、犬獣人たちのみんなは、中々のサバイバルな生活を送っていたからでしょうね。必要に駆られて、全部覚えたんでしょう」
「そうか……まぁ、わからんでもないか」
結局俺の怪しげなこの言葉に仕方なく納得したような表情で頷いた、フレスコだった。
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