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第55話 家宰の思うこと

 この少年は一体何者なのだろう。

 それが、トラン侯爵家の家宰であり、現在はカタリナの補佐を主に業務としているグレッグ・バートンの純粋な疑問だった。

 この少年、それはノア……「ただのノアだ」とだけ名乗った少年についてだ。

 「ただの」なんて、そんな枕詞は正直言って、付けば付くほど、逆に怪しさを増すだけだ。

 本当に唯人ただひとなのだったら、そんなものは付けないし、言わずとも周囲がそのように判断する。

 しかしこのノアは、誰もがそう判断しないだろうという、目の離せなくなる魅力があった。

 そもそもの出会いからして、グレッグも、それにグレッグの主人であるカタリナも注目せざるを得ない状況だったのだ。

 それは、ノアが、彼らを襲撃した者たちを容易に倒してしまったこと。 

 襲撃者たちは、半分が元々、護衛として雇われていた者たちで、さらにもう半分は道を進める中でどこかに隠れていたのか現れた者たちだった。

 その経緯からして、明らかにカタリナの命を狙うために計画的に配置された者たちだと分かる。

 身につけているものはいずれも無頼の人間のようなものだけで、揃いの拵えとかそのようなものは一切なかったが、それがむしろその推測を裏付けている。

 たとえ無頼だろうが、いや、無頼だからこそ、彼らは自分自身の力を誇示するために何か分かりやすい証明のようなものを身につけていたりすることが多い。

 一番分かりやすいのは刺青だろう。

 同一の盗賊団とか裏社会の組織に所属することを示すために、邪悪を起源とするような由来を持つものからデザインされたマークや、組織名などを刻んだ刺青を彫り込むのだ。

 それによって集団の同一性と帰属意識を高め、さらに他人に見せて圧力をかける。

 集団で誰かを襲って倒された場合、そこから足が付くことも多いが、それでも彼らはいいのだ。

 自分たちはどこにでも転がっていて、だから気づけばお前の首筋を蛇のように噛み付いているだろうと、そう言う主張そのものになるから。

 死体になってすら人を脅すことをやめない、それが彼らのような存在なのだ。

 それなのに、今回の襲撃者たちには、そのものたちのような雰囲気がありながらも、体には何も刻まれていなかったし、持ち物にも共通点は全くなかった。

 まるで、自分たちは無頼の人間で、どんな集団とも関わりのない人間たちですよとあえて示すかのように。

 そういう者たちが使われるのは、まさに今回のような、権力者に対する暗殺目的だ。

 そして、彼らのような使い道を初めから想定される者たちと言うのは、ただの裏社会の人間よりもよく鍛えられ躾けられていることが多い。

 簡単に言えば、強いのだ。

 それが集団で襲いかかってきた。

 本来の護衛……半分は雇った者で、もう半分はカタリナに初めから仕える者たちだったが、彼らですらもかなり苦戦し、残り数人になるまで減らされたほどの手練である。

 弱いわけがない。


 それなのに、ノアは、ノアたちは、鎧袖一触、という雰囲気で倒してしまったのだ。

 グレッグは実際にその場を見たわけではないが、生き残った兵士たちが確かにその状況を目撃していた。

 彼らが言うには、ノアが先頭にたち、凄まじい剣さばきでほとんどを倒したらしい。

 さらに獣人たちもいずれも強者で、傷一つ負うことなく倒していったとも。

 どこからか強力な魔術すら放たれていたと言うのだから、その戦力たるや恐ろしいものがある。

 そんな彼が、ただの人のわけがない。

 これは誰が考えてもそうなる。

 それなのに本人はそうとしか言わない。

 これもまた、恐ろしい話だった。

 だからこそ、グレッグはまず、ノアとカタリナがあまり関わらずに済むようにことを運ぶべきだ、と考えた。

 ノアの力は脅威だ。

 こちらに向けられないようにしなければならないが、かといってカタリナとあまり深く関わるようにするのも危険だろうと。

 だからこそ、何か謝礼を渡して、それで終わりとできれば一番だった。

 けれどノアはそれすらも欲しがらなかった。

 彼は助けられたからそれで十分だと、他には何もいらないと、そう言ったのだ。

 これは少しばかり怪しいと思った。

 今回の襲撃、それをこのように撃退することで懐に入ろうと考えたのだろうか。

 そうも思った。

 けれど、その必要はないだろう、とすぐに理解できた。

 カタリナを狙っている者たちにとっては、カタリナに取り入るよりもその命を奪った方がずっと都合がいいからだ。

 ノアのような戦力がいるなら、あえて遠回りする必要もない。

 つまり、ノアは本気で、助けられたからそれでいい、と考えている可能性が高かった。

 もちろん、グレッグとしてはそういうのであれば、ぜひそのまま行って欲しいとすら思った。

 けれど、グレッグは自分の主人のことをよく知っていた。

 助けてくれた恩人に、何も謝礼もすることなく、放す訳がないということを。

 若い時の、トラン侯爵もそうだったな、と思い出す。

 その血を確かに受け継いでいることを思いつつも、厄介なことになった、と心底思った。

 この気持ちは、カタリナがノアに向ける視線に何か熱いものが宿っていることを理解した時にさらに強まった。

 それははっきりと名前をつけられる感情では、なさそうではあった。

 しかし状況が……自らが危機に陥った時、見目麗しい、同年代の少し野卑な雰囲気の男性に助けられる。

 それが生み出す感情がなんなのか、グレッグも枯れているとしてもわからないはずもない。

 このままでは……。


 だからこそ、グレッグはノアから引き出したのだ。

 彼の望みを。

 それは意外なもので、ノア自身はともかく、連れの獣人たちは、身分を証することが難しいために、何か証明となるものが欲しいと。

 そんなことだった。

 これは渡りに船で、グレッグはカタリナに献策することにした。

 これが大きな間違いであったことを、そしてまた、幸運でもあったことを、グレッグはこの時まだ気づいていなかった。

読んでいただきありがとうございます!

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