表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/128

第48話 意思疎通

「か、勝った、か……」


 トドメを刺した後、邪樹人の絶命を確認して、俺は腰が抜けるように地面に座り込んだ。

 もちろん、少し離れた位置ではあるが、マタザたちコボルトがもう一匹いた邪樹人を倒したことも確認した上で、だ。

 手助けが必要だろう、と考えていたが、どうやら俺が思っていた以上に彼らは成長していたらしい。

 ほぼ十対一であっても、邪樹人にコボルトが勝利するというのはなかなか見られない。

 それほどの力の差があるのだ。

 けれど彼らは、この一月でアトの地獄の特訓に耐えたのだ。

 アトに比べれば邪樹人など大した敵ではないだろう。

 俺も俺で、あまり戦っている最中に恐怖のようなものを感じることはなかったからな……。

 アトの方がずっと恐ろしい。

 その程度の相手に過ぎなかった。

 アトが「皆さんなら勝てますよ」と軽く言った時にはこいつ、と思ったものだが、今にして思えばむしろ控えめな評価だったのかもしれないと思うほどだ。

 そんなアトが、


「……皆さん、お疲れ様でしたわ」


 そんな風に言いながら、俺たちの元に近づいてくる。

 彼女は今回の戦いを後方でしっかりと見ていたのだ。

 当然だろう。

 彼女は感知系の技能を大量に持っているし、どれもレベルが高く、多少の距離があったところで妨害されるようなものではない。

 だからこそできることだ。

 それはただ覗きをしていたというわけではなく、もしもの時は手を出して俺たちを助けてくれるつもりだったことも分かる。

 戦いの前は、「私は一切手出しをしません。たとえ誰かが死亡したとしてもです」そんなことを言っていたくらいだが、実際にはそんなことをするつもりはなかったのだ。

 その証拠に、というわけではないが、コボルトの子供たちについては彼女がしっかりと守っていてくれたしな。

 集落で生活している時も何くれとなく子供達の世話をして、「この子たちのご両親を、決して失わずに済むように鍛えなければ」と独り言を言っているのを何度か聞いたくらいである。

 そんな彼女が見捨てるはずがない、という確信があった。

 まぁ、そこを指摘してもアトはきっと否定するだろうけれどな。

 妙に恥ずかしがりというか、自分の優しさを認められることをあえて避けるようなところが彼女にはある。

 俺に対する態度だとて、服従は示すものの、人間的な感情を出してしまった時はだいぶ恥ずかしがるのだ。

 その辺の感覚が俺にはいまいちわからないが……まぁ、とにかくアトは、いいやつである。


「アト。なんとかやり切ったみたいだ……もうこの辺りには、邪樹人はいないよな? 他の魔物の気配もない、と思うんだが……」


 確認するような台詞になったのは、間違っている可能性もあるからだ。 

 俺の技能はアト譲りのものだが、レベルは当然彼女の技能よりもどれも低い。

 これは当然の話で、まず全ての技能を習得することをのみ目標として、レベルの上昇については後回しにしているからだ。

 できることなら安全に、アトと一緒にレベル上げを、と思わなくはないが、彼女にはやるべきことがある。

 彼女自身の事情ではなく、俺のためにだ。

 だからこれ以上の我儘は言えない。

 俺は身につけた技能を、自分で育てていかなければならない。

 アトが戻ってくるだろう日までに、せめて彼女と肩を並べる程度になっていなければ、面目が立たない。

 だから頑張るつもりでいるのだ。


「ええ、おりませんよ。いたとしても、私がどうにかします。さすがにこれほどお疲れの皆さんにこれ以上戦え、と命じるほどに鬼ではありませんわよ?」


「ふっ、そうだな……アトは、お前が思っている以上に優しいやつだ」


「そっ、そうですか? それは重畳です。私はてっきり、鬼のようだと嫌われてはいないかと……」


「えぇ? そんなこと思ってたのか。意外だな。みんなアトのこと好きだぞ?」


「す、好き、ですか!?」


「……? あぁ、そりゃあな。俺たちの知らないことを色々教えてくれるし、料理はうまいし、美少女だし……確かに訓練は鬼のようって言いたくなるくらいに厳しいが、不条理な訓練ってわけじゃない。訓練したあと、どのくらい成長したか確認できるタイミングも定期的に用意してくれてたじゃないか。それくらい、俺たちにも分かるぞ……あぁ、マタザとリベルの言葉を理解できるようになったのも、仲が良くなったからじゃないか?」


「確かに気づいたらあのお二人ともお話をできるようになっていましたけれど、仲が理由なのかしら?」


「多分な。《従属契約》の技能はまだよく分からないけど、初めからある種の上下関係があるっぽかったキャスとコボルトたちは結構意思疎通できてたし、従属した者達同士にも何かしらの関係が築かれた場合に何らかの効果が、ってのはありそうな気がするな」


 と、いうのは別に当てずっぽうだけというわけでもない。

 アトがコボルトソルジャーの二人と意思疎通できるようになったのは本当だが、俺も俺で、通常のコボルトたちやその子供たちと大まかな意思疎通ができるようになってきているのだ。

 コボルトたちはコボルトソルジャーの二匹よりも思考がかなり幼い感じがするが、それはまぁいいだろう。

 そしてそういうことができるようになったのは《従属契約》の効果であることは間違いない。

 《従属契約》なのだが、実はレベルが上がって、2になってたんだよな。

 そのせいもあるかな、と思っている。

 そもそもレベル2になっているのが、俺の従属相手たちが仲を深めているからではないか、と。

 そういうことだった。

読んでいただきありがとうございます!

できれば下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です!

ブクマ・感想・評価、全てお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放貴族は最強スキル《聖王》で辺境から成り上がる ~背教者に認定された俺だけどチートスキルでモフモフも聖女も仲間にしちゃいました~1 (アース・スターノベル)」 本作が書籍化しました! 2月16日発売です! どうぞご購入いただけると幸いです。 どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ