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第46話 森の人

「……わふふ(いましたぞ、殿)」


「そのようだな……はぁ」


 コボルトソルジャーであるマタザの報告に、ついため息を吐きたくなったのは、これが見つからなければ気楽に南部までの道を進めるからだった。

 しかしやはりと言うべきか、そういうわけにはいかないらしい。

 それも当然か。

 アトがあれを倒せないのであれば南部へ行くことは難しいだろうと断言するのだから。

 遭遇する可能性が相当に高くなければそんな言い方にはならない。

 それでも一切会わずに済む可能性もゼロではなかったが……まぁ、俺はこんな身の上になるほどだ。

 運の悪さには定評がある。


「戦うしかない……みんな、覚悟はいいな?」


 振り返って、体を低くしながら構えるコボルトたち、それに横にいるキャス、そしてマタザとリベルにそう尋ねた。

 全員が静かに同意を示す。

 やるしかないようだ。俺も覚悟を決める。

 そして、俺たちは樹々の影から飛び出した。

 敵を、倒すために。


「……オォォォ!!!」


 これだけの人数……全員合わせて十人程度がいきなり襲いかかってきたのだ。

 流石の向こうも気づいて、唸り声を上げた。

 それは酷く低い声で、生き物が出すには少しばかり無機質な感じすらする。

 ただ、それも当然なのかもしれない。

 そいつは……そいつらは、迷宮などを除いては、こんな森でなければ出会わないような、少し変わった魔物たちだからだ。

 そいつらは、一見すると人のような形をしているようにも見えるが、彼らを見て人が最初に思うのは、「まるで樹木のようだ」という印象になるだろう。

 樹木が人の形をとり、そのまま歩き出したような容姿をしていて、サイズは大きいものから小さいものまで様々いるとされる。

 最も巨大なものとなると、伝説では城すらも超えるようなサイズのものもいた、と伝えられているが、流石にそのような存在については眉唾だろう。

 ただ、俺たちの目の前にいる彼らも、決して小さくはない。

 少なくとも俺たちよりはずっと大きい。

 二メートル近くあったオークとも戦ってきた俺たちだが……さらにもう一回り高い位置に頭頂部がある。

 そしてそこにはモコモコと葉っぱが髪のように盛り上がっているのだ。

 彼らの種族名は、邪樹人(エヴィル・エント)

 深く魔力強い森に住まう魔物であり、樹木が強い魔力や感情の影響を受けて動き回るようになったと言われる精霊の末裔だ。

 通常の、というか対話も可能な善なる存在に樹人エントが存在するが、彼らとは明確に異なるのは、彼らのような理性がなく、人や動物を見れば襲いかかってくるところからも見て取れる。

 根源は同じところにあるとか、狂った樹人こそが邪樹人なのだ、とか、色々と言われているが、樹人が詳しく邪樹人について語ることはあまりないのではっきりはしない。

 そもそも樹人自体も珍しい種族で、人里に出てくることはまずない。

 人嫌い、かどうかまではなんとも言えないが、他者との交流に積極的な種族ではないのだった。

 ともあれ、そういうわけで、邪樹人は魔物と言って差し支えなく、人として扱う必要のない存在だ。

 そもそも俺たちにそんな風に扱う余裕なんて存在しないというのもあるけれど。

 何せ、邪樹人はその見た目に反してそれなりに素早く動ける。

 具体的には、ゴブリンやオークと変わらない程度だ。

 それに加えて、彼らにはその体格に見合った相当な質量があるし、その上、魔術もある程度使いこなす。

 嘘か本当かは知らないが精霊の末裔、とまで言われるだけあって、基本四属性であるところの地属性魔術を使いこなし、さらに上位属性である植物魔術も活用してくると言われる。

 容易に勝てる相手ではないのだった。

 けれど、この《煉獄の森》では頻繁に見かける存在で、アトの言う通り彼らを倒せなければこの森を自由に歩き回るのは厳しいと言うのも間違いなかった。

 余談だが、初期のアトが周囲を燃やし尽くそうとしていたのは、この邪樹人が樹木に擬態して隠れていることが日常茶飯事であり、いちいち発見して倒していくのも面倒だから、という理由もあったようだ。

 随分と力技な解決法だが、確かに効率的ではあるのだろう。

 俺たちに真似できるようなことじゃないが。

 火をつけるのまではできるだろうが、そのまま森全てに延焼していくかもしれないからな……。

 古くから存在する魔境である《煉獄の森》が多少の山火事程度でなくなるはずもないが、少なくとも俺たちが煙に巻かれて焼け死ぬところまではありうる。

 そんな危険は犯すわけにはいかなかった。


 ともあれ、そんな邪樹人に俺たちは襲いかかる。

 数は見る限り、四体ほどだ。

 アト譲りの捜査系技能でもって周囲を観察する限り、樹木に擬態しているものもいない、と考えていい。

 

「キャスは風魔術であいつらの枝を切り落とせ! マタザとリベルは悪いが一人一体を相手に……他のみんなは、一体だけでいい、足止めを!」


「にゃっ!」


「わふ!」


 事前に指示は出していたが、確認のためにも口に出していく。

 全員がその指示通りに動き、邪樹人に向かっていく。

 邪樹人はその枝を腕のように使って戦う存在であり、人のように二本腕のこともあれば、三本も四本も枝を持つこともある。 

 だからこそのキャスへの指示だった。

 彼女の風魔術技能はアトからの薫陶もあり、一つレベルが上がっていて、以前よりも強い威力と繊細な操作を併せ持つようになっている。

 そのためにあえて補助に回ってもらい、可能な限り損耗の少ない戦いを狙ってみたのだった。

 事実、キャスの風魔術は適切にそれぞれの枝を剪定していく。

 

「……わふ(《飛剣》)!」


 マタザとリベルが隙の出来た邪樹人にアト譲りの技能、《飛剣》を放ち、切り裂いた。

 邪樹人は体が樹木と同じような材質で出来ている関係上、なかなかに耐久力が高いことでも知られ、それがために一発では倒れなかった。

 しかし、そこで油断するような訓練をしてきた二匹ではなかった。

 さらに押し込んで、それぞれ邪樹人の急所……頭部を突くように《斬撃》を放ったのだ。

 するとそこにあるだろう《核》を正確に穿ったようで、邪樹人は静かにその動きを止めていく。


「よし、二匹はそのまま向こうのコボルトたちに助力を!」


 コボルトたちが、集団で邪樹人を相手にしているが、やはり決定打にかけているのが目に入っていた。

 だからちょうどいいタイミングだった。


「わふ!わふ?(承知! しかし殿は……?)」


「俺はこいつを相手にする……!」


 俺の目の前には、他の邪樹人とは毛色の違った奴がいる。

 大きさはさほど変わらないから似たようなものだろう、と思っていたのだが、こうして相対していると分かるのは、他のものよりも明らかに強い、というところだろう。

 おそらくはリーダー格。

 その証拠に、というわけではないが、先ほどから俺に対して様子見のような攻撃しかしてこなかった。

 けれど、二体の仲間が倒されそうになったあたりから、動きが激しくなっている……。

 ここからが本気、というわけだ。

読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「アト譲りの捜査系技能でもって」の部分ですが、「譲り」の部分に違和感を覚えます。 アトに訓練してもらい、覚えた技能であれば 「アト直伝の捜査系技能でもって」という方がしっくりきます。 …
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