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第45話 試験概要

「……さて、皆さん、卒業試験ですわ」


 アトが集落の中で俺たちの前に立ち、そう言った。

 指をピンと立てて、その様子はまるで学院の教師のようであった。

 そういえば俺の学院での籍はどうなってるんだろうな。

 一応、まだ十四歳だから、国の貴族として、学院でも学んでいたのだ。

 元々俺には家庭教師も大量についていたが、高位貴族としてのコネ作りとか、他の貴族へ優秀さを示す必要があって、学院に通学するのは必要なことだった。

 俺が家を追い出された時はちょうど長い休みの期間だったため、実家にいたわけだが、もしも学院にいる最中にああいうことになったら俺はさらに詰んでいた可能性がある。

 オラクルム王国の学院は国から半分独立した教育機関で、学院在学中には身分を笠にきた行動は通用しない。

 それでもある程度の気遣いというか、そういうものはあるが、公爵子息である俺だって、平民と差し向かいで食事を取るくらいは普通だった。

 不快じゃなかったかって?

 全くそういう感覚はなかったな。

 俺以外の貴族が全員そうだったとは言えない。

 中には自分は貴族であるのになぜ平民と、みたいな奴は結構いた。

 ただ俺は別になんとも思わなかった。

 まぁ、これは俺の信仰心のなさが強く影響しているところだろうな。

 貴族の権威は、遡れば最終的に神の権威に行き着く。

 なぜと言って、国王陛下がどうして王権を持っているかについて、それは神が与えるものだとされているからだ。

 個々の貴族もまたそれと同じで、領主としてその地を治める権限を分譲されているのだ、みたいな価値観がある。

 実際には色々と微妙なところがあるが、まぁ建前の話だ。

 そしてそういうことだからこそ、神を深く信仰する者たちは、自分たちは神に選ばれた民なのであって、そうではない平民とは違う、と考える傾向にある。

 俺や父上のような、信仰心ほぼ皆無の人間からすると馬鹿じゃないのか?という価値観だが、オラクルムの貴族の中ではそれほど珍しいものではないというか、まぁ、半分より少ないが、三割よりは多いかな、くらいの感覚でいた。

 他七割は、現実的で懐疑的な父上や俺のようなタイプだな。

 ただ、教会権力があまりにも強力であるために大っぴらに語ったりはもちろんしないだけで。

 けれど学院においては教会の力すらも基本的には入ってこられない。

 これは学院が中立的な教育機関であるからだな。

 他国の貴族を受け入れることもある関係上、そうせざるを得なかった創立時の事情が関係しているらしいが、その辺りの細かい部分は俺も知らない。

 それでも、犯罪者の捕縛とかのためには入ってこられるだろうし、学院も多分、俺のことを守ってくれなかったんじゃないだろうか。

 そしてそうなったら、父上に助けを求めようにも即座に捕まって終了だった可能性が高い。

 長期休暇の最中だったのは不幸中の幸いかな。

 まぁ、技能の付与自体、長期休暇に行われるものなので必然だったが。


 ともあれ、そんな学院よろしくアトが俺たちに何の話をしているかといえば、これからのことだ。

 もうアトがここに来てほとんど一月が経過しようとしている。

 つまりアトは数日以内にこの地を旅立ち、教会に行って俺の死亡を伝えることになる。

 そこから一、二年は帰ってこられない。

 だから俺たちに果たしてこの一、二年を生き残れる力があるのかについて試す必要がある。

 加えて、実際的な必要もあってのことだった。

 というのは……。


「やっぱり、やらないと駄目か」


 俺がアトにそう尋ねると彼女は言う。


「勿論ですわ。ここは《煉獄の森》の東部にあたりますが、ここから南下し、南部から進めばオラクルム王国ではなく、ユリゼン連邦に到達します。あの国は複数国家の集合体になりますが、亜人も大勢住んでいますし、そもそも冒険者たちの尽力によって作られた国ですから、教会の権力があまり入り込めておりません。つまりオラクルム王国とは極めて仲が悪く……」


「俺たちが行ったところで、オラクルム王国に話が行くことはないってわけだ」


「そう言うことですわ。加えて、亜人が大勢いるわけですから、コボルトの皆さんも静かにしていれば普通に入れるでしょう。黙っていれば小型の犬獣人にしか見えないわけですし……キャス様は元々、優美な猫にしか見えませんものね」


 つまりこれは、俺たちがとうとう、この《煉獄の森》を脱出して人里に行けるという話である。

 けれどそれには問題があって……。


「しかしその為には、強敵を倒す必要がある……」


 そうなのだ。この《煉獄の森》東部から、南部に抜ける道についてはすでにアトがある程度の筋道をつけてくれていた。

 だからどう進めばいいかについては問題ない。

 しかし、途中にある魔物が陣取っている場所があり、そこを抜けなければならないという。

 アトが倒してくれればいいのに、と思うが、ちょうどいい試験だからと譲らなかった。

 それにいざという時、それを倒せる程度の実力がなければ《煉獄の森》を歩くときにも問題だろうというのだ。

 人里に出たらこんなところに戻ってきたくない、と思うのだが、アトは《煉獄の森》は修行場所としても、人に見つからない拠点としてもとても良い場所だから、と捨てることは勧めなかった。

 南部に陣取ることもまた勧められなかったのは、そちらは割とここ、東部よりも魔物の間引きがされていて、冒険者たちが入ることも少なくないからだという。

 確かにそうなると俺たちが隠れるには不向きだ。

 ここ東部の拠点、というかコボルトたちの作った集落は捨てられないらしい。


「強敵、と言ってもスカテネのような存在を、と言っているわけではないのですから、頑張ってくださいまし。いずれはさらに強いものとも、それこそスカテネであっても倒せるようになってもらわなければ困るのですから」


 アトの無慈悲かつ現実的なセリフに、俺たちはがっくりとしつつも頷いたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お話はおもしろい [気になる点] 背景の説明と言うか主人公の語りと言うか長すぎて萎える。 ある程度は読み手に委ねても、と思うくらい緻密かなあ [一言] 期待しておりますよ
[一言] 他国に逃れ、雲隠れできるなら、アトは戻らない方がいいのでは? 相手の手札がわからない以上、アトが戻って騙し切れるかどうかに不安が残る。それこそ嘘発見器みたいな能力を持つ誰かがいてもおかしく…
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