第41話 使命
「……従属する意思を示した者との間で結ばれる契約と言うわけですか。そして、ノア様は私から技能を借りている……つまり、ノア様と私の間には、契約が結ばれている、と捉えても……?」
すぐに理解してそう言ってくるアト。
まぁ、これは当然だ。
はっきりと説明したのだから。
俺はそんな彼女に頷く。
「あぁ、そういうことだ。俺とアトの間には従属契約が結ばれている。だからアトの技能を俺は何の断りも無く、勝手に借りられる……その、悪かったな。何も言わずにこんな……」
正直、申し訳ない気持ちもあった。
色々な意味で。
俺はアトの自由をありとあらゆる意味で奪っている。
そんな気がするからだ。
彼女は《聖女》な訳だが、そこの説明文に書かれていることを俺は確認している。
聖女:聖なる秘儀をその身に宿す女性(《使命》を負った者を手助けする宿命を持つ者)。
そう書いてある。
これのなんとも判断し難いところは、括弧書きがあり、その部分はなぜか暗い色で書かれていることだ。
タップすると色がついて読みやすくなるのだが……。
そしてこの文章の内容の中でも、《使命》、この単語には見覚えがある。
俺のステータスにはっきりと書いてある。
使命を負う者、と。
つまり……あれじゃないか。
アトがあれだけ暴れまわろうとしていたのに、突然攻撃を止めて、俺に従う意思を示したのは……この《聖女》のステータスが理由なんじゃないか?
思えばあれはあまりにも不自然すぎる現象だった。
彼女は、俺に会った瞬間に何かを理解した、とか言っていたが、それはつまり、そうなるように初めから……このステータスによって、強制されたからじゃないか。
そんな疑いをずっと持っていた。
そしてそうだとすると、俺は、俺の存在だけでもって、アトの自由意志を奪ったと、そう言うことになるんじゃないのか。
それは果たして許されることなのか……。
俺はずっと、言葉にはし難い恐ろしさのようなものを感じていた。
だからこその、謝罪だった。
それを知らず、アトは言う。
「いいえ、全く問題ないですわ。それより、ノア様と私の間に、そのような強い繋がりがあったなんて……! なんと素晴らしいことでしょう!」
この嬉しそうな様子も、非常に申し訳なくなってくる。
だから、言った方がいい、と思ったのだ。
もしも彼女がそれによって怒りを覚えたり、俺に対して襲いかかってきたとしても……それはそれで、ある意味仕方がないことじゃないかとも。
人の自由意思と言うのは、それくらいに奪い難いものだと思うのだ。
俺が生きるためには仕方がないとはいえ……この気持ちを抱えたまま、アトと何か打ち解けることは、俺には出来ないと思った。
「そう言ってもらえるのはありがたいんだが……まだ話さないとならないことがある。アト、君の技能の《聖女》のことだ」
「はい? 何でしょうか……というか、よく私の技能の内容をお分かりで……あぁ、もしかして」
そういえば、と思った俺は言う。
「俺は《従属契約》の相手方の技能を全て閲覧することが出来るんだ。技能を借りるときは、そこから選んで借りる感じになる。だからアトが持っている技能も全て分かってる」
これは個人情報を全て好きに抜けると言うことに他ならない。
通常の人間だったら、非常に嫌がる行為だ。
だがアトはこれにも、
「私の全てを、ノア様が……! あぁ、口にせずとも、全てを理解していただけるなんて……これほどの喜びがありましょうか! どうぞどうぞ、私の全てを好きにご覧くださいまし!」
そんなことを言う。
うーん、このようなアトの様子も、やはりステータスが原因で……。
本当に申し訳なかった。
だから、俺はその言葉を言う。
たとえ言ってどうなるとしても。
「そう、俺はお前の技能を全て見た。その中でも気になっているものがあって、それは《聖女》の技能、その説明だ。そこにはこう書いてあった。『聖なる秘儀をその身に宿す女性(《使命》を負った者を手助けする宿命を持つ者)。』とな」
「……はて? 前段というか、括弧書きの前の方は私の《カード》にも表示されていますが、後段の方は表示されていませんね……? そのような説明があったとは。私の《情報閲覧》技能では足りないと言うことかしら……?」
「それは分からないが……この文章から、気づくことはないか?」
「……はて?」
アトならすぐに気づくか、と思ったが、首を傾げている。
やはり、何か精神に働きかけるところがあるのか……。
そう思って俺は言う。
「《使命》を負った者に強制的に従属するように読めないか?」
「……そのように読めなくもないですね。ただ、手助けする宿命、と言うことですから、別に強制的と言うこともないのでは……?」
「いや、まぁ……」
確かにそれはそうか?
だけどなぁ……。
少しアトの言葉にも一理あるか、と思ってちょっと考えてしまった。
そんな俺にアトがハッとした様子で尋ねる。
「もしかして、《使命》を負った者とは、ノア様のことでいらっしゃる……?」
「……そう言うことだよ」
消え入りそうな声で俺がそう返答すると、アトはその大きな目を見開き、
「運命ですわ!」
そう叫んだ。
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