第32話 対面
「……これが俺の仲間達だ」
アトにそう言って紹介すると、アトは目を見開き、そしてキャスたちと俺とを交互に見て、それから絞り出すような声で言った。
「……この魔物たちが……いえ、この方々が、ノア様の、お仲間……」
「あぁ。気に食わないか?」
こう尋ねたのは、もちろん理由がある。
アトは、俺の仲間だとは知らない状態で、彼らと戦っている。
いや、厳密に言うなら、彼女が森を焼いているのにキャスたちが巻き込まれた感じか。
顔を合わせているかどうか、急いでいたから詳しくは聞けていないが、アトの反応からすると多分……。
「……いえ、いいえ。それより私は……なんということを。危害を加えない、と申し上げましたが、申し訳ないことです。すでに私は皆様に攻撃を……」
「ということは、会っていたか」
「はい……森を焼いている中で、コボルトやコボルトソルジャーが目の端に映ったのを覚えております。その際に、特に気にすることなく魔術を放ち続けました。亡くなられた方などはいらっしゃいますでしょうか……そうであればこの命をもって償いを……」
そこまでいうか、という感じだった。
やはりアトの俺に仕えるというのは本気なのだろう。
また、ここまで言うアトに困惑しているのは俺だけではなく、キャスやコボルトたちもそうだった。
初めのうちは、アトを見て唸っていたキャス、それに怯えていたコボルトたちだったが……今はキャスが少しばかり鋭い視線を向けているくらいだ。
コボルトたちも、肩の力が少し抜けている。
アトの言葉に、俺はコボルトたちに尋ねる。
「お前たち、怪我の方は平気か? 誰かあのまま命を落としたりはしていないか?」
一応、アトから逃げてきたコボルトたちは、一人も欠けていないことは確認している。
ただいずれも怪我をしていたし、ここまでに亡くなっていないとは言い切れなかった。
けれど俺の言葉にコボルトたちは首を横に振る。
さらに、マタザとリベルが、
「わふ!(全員、生存しております!)」
「わふわふ、わふ……(しかしながら、傷の深い者が一匹……おそらく命に別状はないのですが、まだ起き上がることができず)」
それぞれそう言った。
この言葉に俺が頷き、そして、アトに大まかなことを伝える。
「一応、亡くなった者はいないようだ。ただ、一匹重傷者がいるみたいだが……」
「えっ、もしかして……ノア様は彼らの……魔物の言葉がお分かりになるのですか?」
そういえば、それは伝えていなかったなとここで気づく。
アトが驚くということは、テイマー系でもそれが出来るものはいないか、少ないと言うことで間違い無いだろう。
とりあえず、これについては話しても大丈夫だろう。それに話さないと色々面倒だ。だから俺は言う。
「あぁ、こっちのコボルトソルジャーの二人……マタザとリベルの二匹だけだが、ほぼ完全に何を言っているか分かる。二匹も、俺の言葉を理解している。人間の言葉が分かるかどうかはまだ検証できていないがな」
「そうですか……あの、マタザ様、リベル様、傷が深い者がいらっしゃると言うことでしたが、私に見せていただけないでしょうか?」
アトが突然、二匹にそう話しかけた。
止めても良かったが、攻撃する感じでもないし、言葉遣いも丁寧だ。
ある程度、話をしてもらって、俺がこの森でも生きていけると判断してもらわなければならないし、だから特に止めなかった。
アトの言葉が通じるかどうかで、コボルトソルジャーの二匹が人間の言葉を理解できるのかどうかも分かるしな。
そして、このアトの言葉にマタザが、
「わふ……(見てどうすると言うのだ?)」
と尋ねる。
アトが俺の方を見たので、通訳する。
「見てどうするんだってさ」
「私には……」
アトがそこで言葉を止め、目を瞑り念じ始める。
魔力とは異なる力の集約を、俺は感じた。
キャスも感じているようで、その視線は鋭い。
コボルトたちはいまいち分からないようだが、この辺りは実力差かな。
これから何をする気なのか、と思ったが、彼女がもしも俺たちを殺す気ならそもそも抗いようがない。
半ば諦めの気持ち、と言うわけではないが特段止めはしなかった。
殺気や害意を感じなかったから、という理由が一番大きいのは言うまでもないが。
攻撃されそうなら、俺はともかく皆は逃したいしな……。
アトの集中が終わった、と思われた直後、コボルトたちの周囲にきらりとした光の粒が浮き上がり始めた。
それを見て、俺はこの現象を見たことがあることを思い出す。
「……なるほど、聖術か」
そう、それは教会の人間の中でも選ばれし者のみが使うことが出来ると言われる、聖術の力だった。
その効果は、治癒系が最もポピュラーだろう。
コボルトたちの周囲に浮かぶ光は、まさにその効果を持つものだと思う。
実際、光がふわりと動き、そしてコボルトたちに染み込むように落ちていくと、彼らの切り傷や火傷の跡が、綺麗に消えていくのだ。
そして全員の傷が完治したのを確認すると、アトは再度、マタザに向き直って、
「私には治癒の力があります。もしも重傷を負われた方に会わせていただければ、その傷を治療したいと……」
そう言ってから、跪いた。
これは教会の人間のする、最大限の敬意の示し方で、通常は自分よりも上位の神官などにしかしないものだ。
それを聖女であるアトが、魔物であるマタザにしている。
その意味をマタザは知らないだろうが、その態度には感じ入るものがあったようだ。
俺の方に顔を向け、マタザは言う。
「わふわふ……(殿、この人間を連れて行ってもよろしいでしょうか……?)」
どうやら納得したらしい。
俺はそれに頷いて、
「あぁ。治してもらえるならありがたいからな。ただし、俺も一緒に行く」
そう言ったのだった。
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