第30話 ノアの扱い
「あの……」
そう横から話しかけられて、俺はしばらくアトを放置していたことに気づく。
「あっ、悪かったな」
謝る俺に、アトは首を横に振りながら言う。
「いえ、待っていろと言われたらいつまでも待ちますわ」
従順にも程があるな。
一体俺の何がこいつをこうさせるのか。
全て演技か?
いやでも《従属契約》にしっかりと刻まれているのだ。
だからと言って信じすぎるのも危険かもしれないが。
従属する、という意思を示し、俺が受け入れれば普通に成立してしまうものだ。
アトに関しては正直、俺は受け入れた覚えすらないのだが……まぁ、交渉して味方になってもらおう、できれば、くらいの意思はあったか。
それくらいで成立してしまうのかな。
わからない。
聖王技能由来の派生技能については、いまだにわからないことが多すぎる。
やはり、完全に信用するのはまだよした方がいいだろう。
ただ、対話できると言うのは極めて人間的で文化的であり、これを避ける理由はない。
聖女には色々聞きたいこともある。
だからアトとは普通に話す。
「流石にそんなこと言ったりはしないが……ともかく、もう俺を捕獲したり殺したりするつもりはないと思っていいな?」
「勿論です!」
なぜそんな疑いを持たれているのか心外だ、と言う表情で頬を膨らませそんなことを言うアト。
非常に可愛らしく見えるのだが、実際お前、俺を殺す気でここに来てただろと突っ込みたくなる。
そりゃ疑うに決まってるだろうと。
ただ、今も継続してそれをやるつもりなら、この距離まで近づいているのだからもう先ほど見たステータスの中にある、強力な技能たちのうちのどれかで攻撃を加えればいいだけだ。
俺はそれだけで死ねる。
つまりそれをやらないと言うことは、少なくとも殺す気はない、と言うのは信じていいはずだ。
捕獲するつもりがない、は断言できないが……まぁそれは徐々に信頼関係でも作っていって信じられるようにしたいところだ。
「分かった。それで、俺を殺そうとしてた理由について教えてくれないか。《聖王》技能を得たからだって言っていたが、教会が言うには、技能は神の祝福として与えられるもの、なんだろう? 俺がどうこうできるものじゃないんだし、そんな技能得たのはたまたまなんだから殺される理由なんて……」
「教会は技能についてそのように説明していますが、実際には異なります」
「え?」
「技能は確かに神から与えられたもの……ですが、それが与えられる基準は、本人の適性と、そして願望によるのです」
「って言うと何か。俺は《聖王》になりたいと思っていて、それに適性があったから技能を得たってことか?」
そんなもの願った覚えはないのだが、アトの説明が正しいならそう言うことになる。
アトはこれに少し悩ましい顔をしてから、言う。
「そこまで単純でもなく……そうですね、《剣士》を例にとりましょう」
「よくある根源技能だな」
「そうですね、広く与えられていて、研究も比較的進んでいるものです……この《剣士》を得る者は、漠然と戦う力があれば、とか、剣自体に憧れを持っていることが多いです」
「なるほど、《剣士》技能が欲しい、って感じじゃないが、剣を振れたらな、とか剣がかっこいいな、とかそんなことでもいいのか。それに何か俺も戦える術が欲しいとかでもいいのか……」
「そういうことです。漠然と思っているだけなのになぜ《剣士》か、他にも《弓術士》とか《魔術師》とかもあるだろう、と思われるかもしれませんが、一般的な人間が最も思い浮かべやすい、人間が戦う姿というのが《剣士》だからだと教会では考えていますね」
「なるほどな……だがそういうことだとすると《聖王》になる理由はなんなんだ? 俺は何かそういう、願いとか憧れなんて……」
心当たりがあまりない。
勿論、俺にも色々と願望はある。
だが、どれも《聖王》などという技能に結びつくものとも思えない。
この疑問には流石のアトも答えがたいらしく、
「私もそれについてはなんとも……。ですが、教会の解釈からすると、『ノア様ははっきりとか漠然とかは断言できないまでも、聖王の地位を望み、その技能を得た。つまり僭称と言って差し支えない』ということになるのです。そのために私や聖騎士団の派遣が決定しまして……」
待ってくれ。
情報量が多い。
聖王の僭称に、聖騎士団の派遣だと?
確かに教会から蛇蝎のごとく嫌われている、したがって追手を出されて殺される可能性が高い、とは思っていたし、実際聖女まで来ているのだから今更かもしれないが、教会の腰の入れ方が半端ではない。
たった一人の貴族を追放されたガキを追い立てるにしては過剰戦力にも程がある。
聖女一人であれば身軽だから理解できなくもなかったのだが……聖騎士団とか、一軍を相手にするような大袈裟な戦力だぞ。
まぁそれをいうなら、アトもステータス的には一軍を滅ぼせるようなものなので同じものかもしれないが……。
それに聖王の僭称って。
俺は教会に直接泥を塗ってる扱いなのか。
なるほど、是が非でも捕まえて殺したくなるだろうという感じだ。
これは交渉してどうにか出来る感じではない。
今後のことを考えるとひどく憂鬱になった俺だった。
読んでいただきありがとうございます!
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